192.奇跡は起こすもの
「そ、そんな馬鹿な! 私のドラゴンが負けるなんて!」
ドラゴンの体が黒い煤のように消えていくのを見て、レイナは絶望した顔で絶叫した。
ドラゴンは倒した。だけど、召喚したレイナをどうにかしなければ、また召喚されてしまう。
レイナは貴重な敵側の人間。生かしておいて、色々と情報を聞き出さないといけない。ということは、無力化をして捕まえるのが最適解。
「だったら、召喚魔法を封じなくちゃ」
召喚魔法の魔力の波動は分かっている。その波動を抑えるものを作ればいい。
魔力を高めて、変異させる。召喚魔法を封じる力を生成して、その力を作った鉄輪に宿す。その鉄輪をレイナの首目掛けて放った。
「な、何っ!?」
突然、鉄輪をされたレイナは戸惑った。外そうともがくが、鉄輪はそう簡単には外れない。
「これで、レイナは召喚魔法を使えなくなったよ」
「まさか、そんな……! 出ろ、魔物よ出ろ!」
召喚魔法を発動させようとするが、魔物が現れる気配はない。狂ったように召喚魔法を発動させていると、キリアが前に出てきた。
「あの者を捕らえなさい!」
キリアが命じると兵士がレイナを拘束した。
「そんな、私が、負けるなんてっ!」
レイナは身をよじり、抵抗した。だけど、召喚魔法を使えなくなったレイナは普通の人と変わらない。そうして、レイナは地下牢へと連れていかれた。
ようやく落ち着いた。そう思って周りを見渡すと、荒れ果てた大聖堂が良く分かる。それに、けが人の多い。
「戦いは終わったけど、これは酷い……」
「被害はとても甚大です。今は出来る限りの事をしましょう」
「何をすればいい? あたしも手伝う」
「ランカも! 力仕事なら任せて!」
とにかく、この状況をなんとかしないと。そう思っていると、オルディア様の姿が目に入った。ふらふらとした様子で、大聖堂を出ていった。
その後を付いていき、教会の外に出た。すると、悲惨な光景が目に入ってくる。崩れた家屋。怪我をした人々。壊れた屋台。
祭りで賑わっていた通りがめちゃくちゃに壊されていた。それを見ていたオルディア様の表情は暗い。
「オルディア様、大丈夫ですか?」
「……ちょっとショックな光景ですよね。数時間前まであんなに笑顔が溢れていたのに、今は……」
いつもふざけていたオルディア様は沈痛な様子で眺めていた。それは人を心配する神のようだった。
悲し気に目を細める顔は今まで見たことがない。こういう顔もするんだ、と少しだけ驚いていた。やっぱり、オルディア様は立派な創造神なんだ。
「どうにかして、みんなを助けたいですね。私、なんでもします。だから、ユナも協力してくれますか?」
「もちろんです。でも、何からしたらいいか……」
出来ることは沢山ある。傷ついた人を癒やすこと、壊れた物を直すこと。それが町全体だ。到底、手が足りない。
「……いや、出来るかも」
空気中の魔力と同調すれば、全てをもとに戻せるかもしれない。だけど、町全体だとしたら、到底魔力が足りない。
「オルディア様って祈られた時の力、残ってますか?」
「はい、もちろんありますよ。それがどうしたんですか?」
「その力を私の魔力に変換する事が出来ますか?」
「問題なくできます。まさか……ユナの魔力でどうにかするんですか?」
「どうにか出来ると思います。じゃあ、行きましょう」
私はオルディア様の手を引いて、教会の中に戻ってきた。
「ユナ、どこに行くんだ?」
「今から全部直してくる!」
クロネに簡単に説明すると、鐘楼を目指す。階段を上って、目的地にたどり着いた。高いところから見ると、町の被害が良く分かる。
「ユナは本当に元に戻せるんですか?」
「出来ると思います。だから、力を分けてください」
「……分かりました」
お願いすると、オルディア様は胸元で手を組んだ。そして、体が発光してその光が私を包み込む。
とてつもない力が体に宿っているのが分かった。これを使えば、町を元通りに戻せる。
すぐに、空気中の魔力に自分の魔力を同調させた。そして、オルディア様から受け取った魔力を町全体へと広げる。
光があっという間に町を包み込んだ。あとは、この魔力を変異させればいい。
意識を集中させて、町に意識を重ねる。怪我をした人はその傷を癒やす力に。壊れた家屋や屋台を修正するために魔力を覆う。
直すべきもの全てに意識を重ねた。そして、一気に魔力を変換させる。すると、光に触れていた人たちの怪我が治り、壊れた物が修復されていく感覚を覚えた。
その途端、町から歓声が沸き起こった。空気を震わせるほどの大きな歓声。どうやら、無事に全てを直せたみたいだ。
「わぁ! 見てください、ユナ!」
すると、オルディア様が声を上げた。下を指さしていて、何かと思って覗いてみた。すると、教会の前には沢山の人が詰めかけ、こちらを見上げて歓声を上げているところだった。
どうやら、あの光の原因が私たちだということがバレてしまったらしい。ものすごい熱量で歓声が上がって、圧倒されてしまう。
「ユナのお陰で、人も町も元通りになりました! 本当にありがとうございます!」
「いえ……オルディア様の力がなければ無理でしたよ」
「そんなことありません! ユナの力があったからこそ、出来たんです!」
そう褒められると悪い気がしない。私たちは歓声の中、元通りになった町を見下ろした。安堵の気持ちでいっぱいになって、ようやく終わったんだと自覚した。




