『黄の章』第2話:トワスミナ?
利緒は、いかにも偉そうな格好をした女性の元に連れられていた。
偉そう、というのも色合いが艶やかで、生地が厚く、手触りが良さそうな着物らしき見た目からの判断である。
髪の色はやや赤みがかった黄色で、赤を基調とした服によく合っていた。
利緒は心の中で「姫」と勝手に命名した。
利緒が座らされているのは、砂利を敷き詰めた庭のような場所であった。
木で作られた家は古い日本家屋を思わせるが、畳はなく木張りの床に敷物を敷いている。
松や桜の似合いそうな外観をしていたが、真っ直ぐな木ばかりが立ち並ぶ。
色々な情報が、適度に利緒の知識とずれており、違和感が凄かった。
キョロキョロと辺りを見回していると、偉そうな女性がダンと足をふみ鳴らした。
慌てて、「姫」の方を向く。
「xxxxxx」
何やら色々と話しているのだが、相変わらず利緒には分からない。
表情と言葉の間から何かを聞こうとしている事は感じられるが、それにしてもどう答えて良いか検討もつかなかった。
「すみません、なんとおっしゃってるんでしょう?」
一度日本語で答えてみるものの「姫」の方もどこか難しい顔をするばかりでお互いに意思の疎通ができない。
利緒はやるせなく「姫」を見て、「姫」の方は頭に手を当てて唸る。
こうなってはお互いに手詰まりで、ひたすら時間が流れるのを待つばかりだった。
しばらくして、家の中から利緒を捕まえたうちの1人が出てきた。
頭を抱えて俯いていた「姫」は、顔を上げてそちらの方を向く。
男から何かを受け取って、利緒の元へとやって来た。
縛られている利緒に視線を合わせるように、利緒の目の前で屈み、何かを突きつける。
「姫」が持っていたのは利緒のカード、ファンタズム・ゼノクロスの一枚だった。
【《太陽毛の里奉行》トワスミナ】
「……トワスミナ」
ぼつりと読んだカード名に「姫」がピクリと反応した。
赤を基調とした着物を着て、片手を顔の前に立てたポーズで片目をつむる黄色い髪のキャラクター。
どこかで見たことのある服装に、目の前で屈む「姫」を見る。
利緒の視線に気づいた「姫」はカードを持っていない手を自分の顔の前に持っていき、ウインクした。
「……は? え? コスプレ?」
利緒は自分の目に映る光景から導き出された答えに、直ぐには理解が追いつかなかった。
何度かカードと女性を交互に見る。
数度繰り返して、改めて「姫」を見た。
「……トワスミナ?」
「……トワスミナ!」
発音は微妙に異なるようであったが、「姫」から「トワスミナ」らしき音が返ってくる。
何やら光明の見えた気がした利緒だったが、「姫」改めトワスミナが指を鳴らすと、左右を男に挟まれてさらに身動きを封じられた。
トワスミナがカードを利緒に突きつけて、何かを言っている。
言葉は全く分からなかったが、対応で何を言ったか、なんとなく理解する。
『私が描かれたこの紙は一体何か?』
言葉の通じぬ男が、己を描いた紙を持っていれば、それはそれは怪しい。
下手に動かぬよう拘束するのも仕方のないことなのかな、と利緒は思う。
「カードデザイナーの人、肖像権とかどうしたんだろう?」
この村の人達をそのままカードにしたのかな、等と適当な考察を口にする。
利緒の独り言は、相手には伝わらず、誰かが突っ込む事はない。
無意識に、利緒にとって致命的な発想に飛ぶことを避けるような台詞。
トワスミナのまくし立てる声をBGMに、利緒は思考の海に沈んでいった。
◇
気がつくと利緒は、見知らぬ小屋に連れられていた。手枷足枷はないが、見張りがいる。
縛られたまま連行されようとしていたが、1人の女が走ってきて何やら話すと、利緒の拘束が解かれることになった。
そのまま、その女に連れていかれたのが、利緒の今いる小屋である。
縁側で外を見る。
視界の端に見張りの男が2人ほど見えるが利緒はひとまず意識から追いやって、現状の確認を始めた。
「ここはどこだろう?」
風景や人々の格好は、日本の片田舎を思わせる。
電線や車を一切見ないことが利緒には怖く思えたが、そういった地方もあるのかもしれないと1人うなづく。
また、考えないといけないことは、トワスミナという女性である。
利緒のカードによく似た格好をしていたのは、どういった意味があるのか。
「ファンタズム・ゼノクロスの発売ドッキリイベント? 発売前の応援キャンペーンとかの裏で抽選当たったとか……」
気づかないところで、一部始終が撮影されていて笑われたりしているとか、そう考えながら辺りを見回すが、何がが見つかることはなかった。
見張りの男が、利緒を見て大丈夫か?と言いたげに近づいて来ようとしたので、笑って手を振ってみる。
このジェスチャーが功を奏したのか、男は少し利緒を見た後、もとの立ち位置に戻っていった。
「まだ夢を見ているのか、としか思えないよなぁ」
はぁ、とさっぱりわからない自分の現状にため息をつく。
目を閉じてうつむく利緒は耳元に不快な音が聞こえた。
ぷーん、という甲高い羽音。思わず頬をパチンと叩く。
この行動を見て、見張りの男が動き出した。
1人が利緒のもとに駆け寄るが、未だ音は消えず、キョロキョロと辺りを見渡す。
いつのまにか喰われていた腕を掻きながら、蚊の存在に日本を感じて、利緒は少しホッとする。
「xxxxxx」
利緒の動きを見て、男は状況を悟ったのだろう、もう1人の見張りに声をかけて、どこかへ行ってしまった。
蚊取り線香かかゆみ止めでもが持ってくきてくれるとありがたいと思いながら、蚊を警戒する利緒。
少しして、男が戻ってきた。
利緒の手を取って、虫刺されを探す。
薬を渡してくれれば自分でやる、と思いながら屈強な男になすがままにさせる利緒。
赤く腫れた部分をみつけて、男は何かを利緒の手に近づけた。
「xxxxxx」
利緒の刺された部分に石を当てながら何か喋ったかと思うと、石は淡い光を放って、利緒の手から腫れが引いた。
更に、男は利緒の隣に金属製の箱を置き、何かを呟く。
利緒の目には見えないかったが、なにかが変わったことだけ分かった。
それだけやって、男は利緒の頭をポンと叩いて笑いながら離れて行った。
「……はへ?」
言いようのない恐ろしい違和感に利緒の頭は再度機能を停止する。
唇の端をヒクヒクと震わせて、声にならない声が口を出る。
虫の羽音は聞こえなくなっていた。
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