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『黄の章』第3話:子供達とのコミュニケーション

 利緒は、この世界は自分の知る日本ではないと思った。


 きっかけは利緒の虫刺されを一瞬で治した魔法のような力。

 そして一つ一つの違いの積み重ねだ。


 小屋で暮らすようになって1週間後には、利緒の近くに幾人かの子供達が寄るようになっていた。

 言葉は伝わらなくても、ジェスチャーで伝わることもある。


 見張りの方々は仕事に忠実で協力的でなかったが、子供達は違った。

 元々、好奇心の塊である。コミュニケーションを取れるようになるまでにそれほど時間はかからなかった。


 初めに小屋へやってきたのは2日目のこと。

 その時は見張りに追い払われたが、諦める事なく翌日、翌々日とやって来た。


 飯を食べ、日がな一日、ボーとしながら過ごす日々にまずいと利緒は思っていた。

 動揺がようやっと収まったこともあって、見張りが子供達を追い払わないよう動く。


 今日も子供達を追い払おうとする見張りの男の元へ寄っていって、利緒はその肩を叩いた。

 男はビクりとした後、子供達をその身に隠すように動き利緒と向き合う。


 子供達を追い払うのは「利緒に合わせることが危険である」という考えでもあるのかと、少し凹むが、仕方のない事だと割り切った。

 出来る限りのそれでも固まった笑顔で、ジェスチャーによる意思疎通を試みる。


「彼らを、追い払う必要、無いです。少し、話しを、したいです」


 言葉をぶつ切りにするように区切りながら、大げさな身振り手振りをする。

 子供達を指差したり、口元で手を閉じたり開いたり。とにかく思いつくままに動く。


 もちろん言葉は通じないが、彼らにも何かを伝えたいという気持ちがあることは分かるようだ。

 子供達も含めて、幾人もの視線にさらされながら、利緒はどうにか伝わらないものか色々と試みた。


 そのうち、ひとりの女の子が何かを思いついたような表情で、見張りのそばに近寄っていった。

 男を少し屈ませて、耳元に顔を近づけて小声で何かを伝える。

 男はその声に何度か頷いてから、体を起こして利緒の元へとやってきた。


「xxxxxxxx」


 言葉はわからないが、ニヤリと笑って手のひらを向ける。

 つられるように手を挙げると、パンと手のひらを合わせるように叩く。


(あ、これハイタッチか?)


 動作と同じく、顔も引きづられるように笑いながら、利緒は去っていく男の後ろ姿を見る。


 男が離れるのを見計らって、子供達がやってきた。

 特有のキラキラとした目を向けながら、利緒を下から見上げてくる。


「それじゃあ、どうしようか」


 純粋無垢な雰囲気に、余計な力が解れた。

 利緒は今度は自然な笑みで、子供達の方へと一歩を踏みだした。



 言葉が通じない以上、視覚的に情報をやり取りする必要があった。


 利緒がまず気にしたのは電話があるかどうかであった。

 初めて子供達と交流した時は、まだ日本にいる可能性を捨てきれていなかった。


 初めは携帯電話、特にスマホを描こうとしたが、絵心のない利緒には、ただの板もどきしか描けないことに気づき、黒電話を描いてみた。

 独特なシルエットは、実際に見たことがなくても電話として通じるだろうという目論見があったが、子供達は首をかしげるばかり、通じないようだった。


「子供達なら知らないってこともあるな。僕も本物は見たことないし」


 反応がなかったことに少しだけ気落ちしながあら、地面に描いた絵を足で消した。


 続いて、二つ折りの携帯電話に挑戦する。

 四角い板を二つ繋げ、棒を伸ばしてアンテナのように見せただけの絵。

 畳んだ姿も一緒に描いて、相互の矢印を引く。

 利緒自身としてはうまくデフォルメされた出来だと、ちょっとした手応えがあった。


「どう?こんなの」


 親指、小指を立てて、手を電話に見立てたジェスチャー。

 しかし、残念ながら、これも彼らには伝わることがなかった。


 利緒はまた、地面の絵を足で消した。


 最後に、スマホである。

 棒人間を描いて、その手に板を持たせる。

 顔の近くにスマホを描くことで電話であるというアピールをする。

 また、板に傷を付けたような代物だったが、指でフリックする様子も描いて見た。


 ここで、今までと違う反応があった。

 子供達がお互いに顔を見合わせて、何やら話だす。


「やっぱり、最近は皆スマホなんだな」


 話し合う子供達を見ながら、うんうん、とうなづく利緒。

 贔屓目に見てもスマホには見えない絵だったが、利緒はなんとなく満足した。


 話が終わり、一人が飛び出していった。

 そのまま利緒たちを眺めていた見張りの男のところへ行って、何やら話出した。


 初め力づくで拘束されたこともあって、会話をしようという意思の折れていた利緒だったが、もし携帯電話があるにならば子供より大人の彼らの方が可能性がある。

 そのことに気づいて、でも絵を描いたちに付き合ってはくれないだろうから、と利緒は過去のことを投げ捨てる。


 男が腰に下げた鞄から、何かを取り出して、少年へと渡す。

 ダッと走り出した少年の背に大声で何かを言ったのは、壊すなか、はたまた丁寧に扱えか。

 どちらにせよ、モノは手に入りそうだと利緒は内心でほくそ笑む。


 しかし、利緒が見たものはスマートホンとは似ても似つかない、金属の板だった。


「なに、これ?」


 疑問符を大量に頭に浮かべ、少年から板を受け取る。

 1枚の板。

 ひとまず様々な角度から見て見たが、変哲も無い板だった。


 心なしか肩を下げながら板を返すと、子供達がクスクスと笑っていることに気づいた。

 いい気分ではなかったが、何に笑っているのかわからず、様子を見る。


 ちょんと袖を引っ張られて、そちらの方へ顔を向けると、少女が板を持って立っている。

 精一杯の背伸びとともに利緒の前に突き出されたそれ。

 銀色の板の表面には淡い光で書かれた記号。


「!?」


 利緒が矯めつ眇めつ眺めた板に、何やら発光するライン。

 少女の手から板を奪い取って、板と子供達を交互に見る。


 やはり子供達はクスクスと笑っていたが、もはや利緒は気にならなかった。


 板を指差しながら、首をかしげる。

 このポーズが疑問の動きは分からなかったが、1人が板を指差してこういった。


「マギュア!」


 あくまで利緒の耳が解釈した音だが、それに類する音であったと思う。


「……まぎゅあ」


 それがこの板の名前か。

 スマホの方がよっぽど凄いと思うが、ただの板に発光する線を浮かび上がらせることは、果たして現在の日本で出来るのか。


 『マギュア』を少女に返しながら、利緒はいよいよ日本では無いという思いに、ことさらに戸惑うこととなった。

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