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『黄の章』第1話:目覚めは、金色の草原の上

「え? あ、え? ここどこ?」


 まるで黄金のように輝く草原で、環奈利緒は目を覚ました。空は一面の青で、所々白い雲の浮くもののまごうことなき快晴であった。

 確かに天気だけを見れば木陰で眠ってしまいたくなるような陽気である。

 利緒の身体に押し倒された草が独特の香りを放っており、空気が美味しかった。


 ここどこ、大量の疑問符とともに呟いたのは頭が現実に追いついていなかったからだ。


 昨日ベットで眠った記憶がある。

 そこから、どうしたらこんな草原へと移動するのか。眠っている利緒を起こさぬよう草原まで連れて行く手間はどれほどのものか、考えても全く分からなかった。

 そもそも、寝巻きで、靴も履かず草原に寝かされるとはどんな状況か。


「父さーん? 母さーん? えー、誰かー?」


 辺り一面草だらけ。遠くには森や山が見えるが、車や家などは見えず、どれだけ田舎なのか見当もつかなかった。

 いつまでも寝そべっているわけにもいかず、起き上がる。


「うへ、寝巻きが草っぽい」


 ゴワゴワした生地に葉が幾らか引っ付いていた。

 また、折り曲がった茎と自分の寝ていた体勢から、匂いは背中にありと見て気分が沈む。


「っと、なんだ?」


 寝巻きについた大量の草を叩こうと身をよじった時、かかとに何か硬いものが当たった。

 何事かと足元の草をかき分けてみると、そこにはプラスチックのケースがあった。


「……これファンタズム・ゼノクロスだ。なんで?」


 寝る前に、机に置いた昨日発売したばかりのカードを収めたケースだった。


 利緒は現在寝巻きに靴下という格好で草原のど真ん中にいる。

 さらに所有物は、今見つけたカードの入ったケースだけ。


「どうせなら携帯とかないのかな」


 何か他に良いものがないか、自分の寝ていた辺りをごそごそと探る。

 しかし、10分かけて得たものは軽い疲労と、快晴の空の下流れる汗だけだった。


 タオルもなく、仕方なく寝巻きの袖で汗を拭う。


「……ひとまず人を探そう、電話借りないと。あれ、うちの番号なんだったっけ?」


 幸い森の方には、切り開かれた形跡がある。

 そちらに人がいるだろうと辺りをつけて、利緒は歩き出した。



 それほど歩くことなく、利緒は人に出会った。

 着物のような服をベルトのようなもので留めた、ある種斬新な格好をした黄色い髪の少女であった。


「は、はうあーゆー? ぐーてんもーげん? あと、えーとちゃお、あ、ぼんじゅーる?」


 初めは日本語で話しかけようとしたが反応がなく、むしろ一歩引かれてしまったため、慌てて知っている限りの外国語を連呼する。

 しかし、何一つ反応はない。


 少女は、利緒の目をじっと見ている。

 不安のような色が見えるのは、利緒が不審者然としているからか。


 言葉に詰まった利緒は、見つめ合うままどうしていいか分からず、一歩少女へと近づいた。


「!」


 ビクリと震えて、硬直が解けた少女はだっと駆け出す。

 少女がビクンと動くのに合わせて、利緒も動揺してしまった。走り出す少女の背を眺めて固まる。


「あ、あっちに人いるってこと?」


 しばらくして、そのことに思い当たり利緒も少女が駆け出した方に走り出した。


 長く走ることができず、丘を一つ越えたあたりから歩き始めてしばらく行くと、正面から何やら数人がやってきているのが見えた。


 甚平のような服装で、割とラフな格好。田舎ならそういうものか、と利緒は手を振って彼らに声をかけた。

 向こうも気づいたようで、利緒に向かって走ってくる。

 利緒も駆け出してみたが、近づくにつれ、どうも空気がおかしいことに気づく。

 しかし、気づいた時にはすでに遅く、利緒は拘束された。


 腕を取られ、地面に叩きつけられる。

 格闘技は特にやっておらず、痛みを感じる機会の少ない利緒は、あまりの衝撃に一瞬思考が飛んだ。


「……!」

「…………?……!」


 頭上で、聞いたことのない言葉で会話が繰り広げられている。

 惚けた頭でもしかしたら、だいぶ地方なのかも知れないと利緒は考えていた。


 男の1人が、落ちたカードケースに気づく。ぎこちない手つきで、色々と触る。

 利緒がそのことに気づいたのは、目の前にカードがばら撒かれてからだった。


 男が、カードを拾い上げ利緒に突き出して、何かを訴えていた。

 声の勢いと、形相から、怒っているのかも知れないと利緒は思ったが、だからといってどう反応していいかわからない。


「あの、えっと、なんです? カードですか? あ、それ欲しいんですか? 差し上げますよ?」


 何を伝えたいのかまるで分からず、ひたすら怒鳴る男に色々と話してみるが何一つ通じない。

 しばらくすると、別の男が肩を叩いて、何やら話し出した。

 色々と話し合った結果、彼らの中でなにか決着がついたのだろう、利緒は力づくで起こされる。

 そして、手を後ろに捻られたまま、歩くよう促された。


 目が覚めて、どこだか分からぬ場所へと連れ去られていたかと思いきや、さらに言葉の通じない男に拘束されている。

 何が何だか理解できぬまま、利緒は何をされるか分からない恐怖もあって逆らう気も起きず、されるがままに連行されていった。

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