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『碧の章』第39話:変わったこと

 『至王』の力は、利緒の箍を外した。

 それは同時に、利緒の身に覚えのない記憶との決別であった。

 利緒が最後に思い浮かべた少女の顔は、今ではほとんど残っておらず薄っすらとしか思い出せなかった。


 苦しみの要因が消え去りスッキリとしていた利緒とは相対的に、グウェイはあらゆる意味で気分が悪かった。

 魔力を限界まですり減らしたこと。

 『至王』の力が当分使えないこと。

 そして何よりも、己の行動に対する後悔。


 利緒が利緒でいるために必要ではあったが、その『救い』は正しいことだったのか。グウェイは、自分の行動が正しかったのか答えが出せずにいた。


「……こうなったなら地獄へ続く道だろうが、進むだけか」


 その胸中に浮かんだ想いは、覚悟か諦観か。グウェイは利緒に一つの道を示した。


「『玖王の試練』お前それ行って来いや」


 酷く疲れた顔で、グウェイは利緒に言った。

 丸まった背中を見せて立ち去るグウェイと、驚いてから背中を支え介抱するようについていったネメルを利緒は黙って見送った。

 グウェイといると、いつも誰かが驚いている。王の試練が何かを知らない利緒は、ボンヤリとした感想を浮かべていた。



 王の試練への挑戦。

 このことを知った皆の反応は様々だった。


 驚くもの。喜ぶもの。熱意を燃やすもの。


 そんな中で、クーネアは遠く引き離されたような気がした。その為にもっと頑張らなければならないと思い詰めていた。

 鬼気迫る姿に、誰もが心配していたが、その心配が彼女に届くことはなかった。


 利緒がクーネアの姿を見たのは、それから数日経ってのこと。仮面の女の襲来から1週間後のことだった。


 王の試練に挑むための準備をあらかた済ませ、翌日に出発を控えたそのときになって、偶然すれ違った。いつもならお互いに挨拶をして他愛もない世間話をしただろうが、この日は違っていた。

 ヴィズィー、アーシャは軽く会釈をしたが、クーネアだけ少しだけ俯いたまま、反応がなかった。


 格好はいつもと変わらないけれど、纏っている空気が違った。よく見れば、化粧で隠しきれないクマと、安定しない重心。

 ぱっと見では笑顔で特に問題ないように見える。しかし、普段の彼女を知っていればいるほど強く感じる違和感に、その状態がおかしい事に気づいた。


「クー、大丈夫?」


 クーネアの反応は、利緒の想像を超えていた。


 びくりと肩を震わせてから、バッとリオの方に顔を向けた。

 直前までは、心を覆い隠すように外行きの顔をしていたのに、今は見たくないものを見てしまったような暗い表情をしていた。


「……リオ?」


 利緒が横を通り過ぎようとしていた事に気付いていなかったようだ。どうにか取り繕おうとしているのが分かるが、それでも残る暗い雰囲気に利緒は心が痛む。


「顔色悪いけど……」


 利緒の心配する声に、クーネアは反射的にフードを深く被って、顔を隠した。

 その一連の反応に、ヴィズィー、アーシャも困惑気味だった。


 利緒は2人と目を合わせる。

 彼女たちも思うところがあったようで、お互いに無言のまま頷いた。


「クー、ちょっと時間もらえるかな」

「あの、今は2人と約束があって……」


 クーネアは2人との訓練の予定を理由に拒絶しようとしたが、ヴィズィー、アーシャはそれを良しとしなかった。

 一度話した方が良い、という2人の言葉に、クーネアは一度考えて。


「じゃあ、ちょっとだけいいかな?」


 クーネアは眉を歪めて、困ったような表情で笑った。

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