『碧の章』第12話:検査の前に
利緒が自室でサービスの朝食を食べていると、部屋の扉がドンドンと叩かれた。
「おはよう、リオ。迎えに来たよ。」
利緒が扉を開けると、クーネアが笑顔で立っていた。そして、その後ろにはどこかでみた記憶のある、3人の人影。
「おはよう、クーネア。ところでその、後ろの3人は誰でしょう?」
「ああ、彼女たちね。昨日リオの話をしたら是非見てみたいってついて来たんだ。」
クーネアはそう言って、3人を紹介する。
碧の髪を、後ろには二つにまとめ、太めの眉と大人しそうな雰囲気を醸し出す彼女がヴィズィー・ハバティ。
肩までの長さで整えられた艶のある黒髪にメガネという、いかにも真面目そうな彼女がアーシャ・レビ・フルーエリィ。
明るい赤茶色でいかにも活発そうな短髪に、腕の腕章、木製のポラロイドカメラを思わせるそれは実際カメラなのであろう彼女がニナ・アスター。
利緒は、3人をファンタズム・ゼノクロスの碧のユニットとして知っていた。ぞれぞれ《学園生》、《学生会役員》、《広報部員》と銘打たれている。
イラストでも平和な学園生活を思わせる、のんびりしたカード達。カードゲームというシステム上、彼女たちが8人集まれば、かの《巨壁》を倒すことができる。しかし、実際の彼女達を前にして、たとえ100人集めても、敵わないだろうと利緒は思った。
(あの《賢鬼》に学園の友達がいる。まぁ、友達いるよね、そりゃ。)
利緒はイラストのイメージがベースにあるため、学園生として真っ当な人間関係が築かれていることに違和感を覚えた。
頭の中では、失礼なことばかり考えている利緒である。
「とりあえず、学園に向かいながら、お互いについて話し合えばいいんじゃないかな。」
当のクーネアはそんな利緒に気づくことなく、学園へ向かおうという。そして、3人の学友とコミュニケーションを取ってみようという提案だ。
「あの、リオ……さん。よろしくお願いします。」
「カンナさんは遺跡で見つかったということですが、なにをされていたのですか?」
「はいはーい。リオくんって遺物なんでしょ?何できるの?」
三者三様の質問責め。
(何をしていたのか、何が出来るのか。僕の方が知りたいんだよなぁ。)
挨拶はともかくとして。心の中の苦味をこらえ、笑いながら誤魔化した。
ホテルのチェックアウトを済ませ、5人は学園へと向かう。
◇
「カンナ君、どうも初めまして。私が君の検査を担当する、セラヴィ・ドゥ・ストラバリッツだ。よろしく。」
学園に着いて、利緒が案内された研究室に待ち構えていたのは、白衣を着た細身の長身。
細長い眼鏡の奥から威圧感のある三白眼が覗く男だった。当人はいたって事務的に会話をしているつもりだが、その風貌も相まって、相手に妙な圧力を与えていた。
しかし利緒は、それ以上に名前とその見た目に大きな衝撃を受けていた。
【《魔壊師》セラヴィ・ドゥ・ストラバリッツ】
これはスターターではなく、ブースターに収録される未発売のカードである。《巨壁》と同じコスト帯で、攻撃に重点を置いたステータスを持っている。
【碧の魔法「誉奪う崩壊の顎」】
破壊をトリガーに相手プレイヤーのライフを奪う攻撃的な魔法である。このフレーバーテキストにセラヴィは登場し、いかにも強うそうなユニットだ。
ショックを受けたことで利緒が特に反応を示さなかったので、セラヴィは首を傾げた。
「……ルナフィア君、報告では言葉による意思疎通は可能と聞いているが。」
「はい、ストラバリッツ先生。リオ、大丈夫話聞いてる?」
「……は!いえ、はい環奈利緒です。大丈夫です。聞こえています。わかります。大丈夫です。」
「ふむ。いささか言動に不信な点は見られるが……。まあいい、今日はよろしく頼む。」
クーネアに肩を叩かれて、利緒は錯乱していた。セラヴィは反応があったことを確認し、表情を変えることなく、右手を利緒の前に差し出した。
「んんっ。……すみません、よろしくお願いします、ストラバリッツ先生。」
いつまでも慌てていられないと、無理やり気持ちを落ち着けて、利緒セラヴィの手を握る。《魔壊師》という二つ名は確かに恐ろしいが、極めて珍しい生体遺物の検査を担当をするということは、優秀であるということである。
「リオくん、セラヴィ先生はね、実は《魔壊師》って呼ばれるくらい凄い人なんだ。」
(あ、やっぱり《魔壊師》って呼ばれてるんだ。)
ニナがこっそりと教えてくれた情報に、利緒は、あぁ凄いんだ、と呟いた。
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2017/09/04 レイアウトの調整




