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隣国に着いて驚いたのはその整然とした街の形でした。
外壁の周りには武装した兵士がいて、その周りに魔法使いがいました。
魔物が絶えず攻撃してくるような国で物々しかったけど、活気がありました。
華やかだけどどこか退廃的だった私の国とは違っていました。
自分の守っていた国が一番良いところだと思っていた私には衝撃的な事でした。
思わずリヒャルトを見てしまいました。
リヒャルトはあの国の王子だったのだから何か思うところがあると思いました。
「君の結界を当たり前のものだとして努力をしなくなったから、魔物よりも隣国との争いに負けて滅んでいたかもしれない」
「この国にだって他の国を攻める余裕はない。だから、エミリアの代わりを探していたんだ」
シグルドが探していたのは私の代わりだったの?
私は少しだけがっかりしました。
私を一番に探し出してくれたら良かったのに……。
シグルドは私が少し拗ねているのを見て、私を抱きしめました。
「俺がどれだけ、この日を待ったのか、お前は知らないんだろう」
◇
ひいお爺様が亡くなって、セラフィーヌ様の離宮に行けなくなった。
隣国の王子の俺だけが行って、俺に何かあれば問題になる。
エミリアに会えなくなった。
エミリアはセラフィーヌ様の代わりを務める大切な子なんだと言う。
しかし、セラフィーヌ様が守っているのは俺の国の結界ではなくて、自分の国の結界だった。
ひいお爺様が他国の結界を大切なものだと言うのが不思議だった。
「今は結界はあの国のものだが、ずっとそこに固定されているものじゃない。セラフィーヌが守りたいと思った場所に結界は作られるんだ」
ひいお爺様が俺に教えてくれた。
ひいお爺様の顔には哀しみが見えた。
あの国から離宮に追い出されても、セラフィーヌ様はあの国を守りたいと思っているのか……。
エミリアと一緒にいる俺と同じ歳の男の子のリヒャルト。
リヒャルトのひいお爺様がその秘密を知っていた。
リヒャルトのひいお爺様はあの国の前国王で、セラフィーヌ様の夫なのだと言う。
昔、王妃として暮らしていたセラフィーヌ様に国民から非難が集まった事があったらしい。
それは世界規模の農作物の不作への不満でセラフィーヌ様にはどうする事も出来なかったらしいのだが、不満はたまって非難は激しくなる一方だったと言う。
その時に夫であったリヒャルトのひいお爺様が離宮を建てて、セラフィーヌ様を隔離させたのだと言う。
親交のあった俺のひいお爺様も離宮に招待されて、そこはセラフィーヌ様にとって心地の良い空間になったのだと言う。
だから結界は消えずに守られた。
やがて、セラフィーヌ様が父親の分からない子供を産んで、その子があの国の伯爵家に嫁ぐと、結界は絶対に移動されないものになった。
結界を自分の国のものにしようと思って近づいた俺のひいお爺様もあの国に結界がある事に賛成したのだと言う。
それは、娘の父親がきっと——。
エミリアを見つめるひいお爺様の顔がどこか優しい気がしたのは、きっとそのせいだ。
ひいお爺様はセラフィーヌ様があの国を守るのには賛成でも、エミリアにも引き継がせようとは思っていないようだった。
エミリアに向けられる彼女の使用人たちの態度が異様だったからだ。
「エミリアが変わっているのは確かだが、セラフィーヌとそこまで変わらない。これはきっと、結界が限界なんだろうな。守られ過ぎた国が異物を自ら排除しようとしている……」
ひいお爺様が俺に言う。
「きっとエミリアは結界の生贄として今までの誰よりも辛い目に遭うかもしれない……だから、シグルド、お前が助けてやってくれ」
ひいお爺様から俺に託された使命になる——。
だけど、俺には守るつもりはなかった。
——エミリアには、リヒャルトがいるから。
トランペティの遊びだって、エミリアを勝たせる為ならリヒャルトはなんだってやるんだ。
セラフィーヌ様の為に前国王がこの離宮を作ったように……。
『ごめんなさい、リヒャルトに助けて貰って』
でも、エミリアは俺と対等でいようとしてくれている……。
それから何年か後にひいお爺様が病気がちになった。
元々高齢で今まで元気だった方がおかしいんだ。
「……セラフィーヌのところに行くのも最後かもしれないな」
ひいお爺様が言う。
俺がエミリアと会うのも最後かもしれない。
だから、俺はエミリアに妖精の踊りを見せてやろうと思った。
実は離宮に来るようになってからすぐに、ひいお爺様から教えて貰っていた。
エミリアに教えたら、毎回見に行きたがる気がして、リヒャルトにも教えるなと言っていたんだ。
それを、俺とエミリアと二人だけで見に行こうと思った。
「……寝てていいのは、俺が迎えに来るまでだからな」
エミリアを部屋に置いてくる時に、こっそり伝えた。
俺とリヒャルトはその後で自分の部屋に行く。
リヒャルトが俺との別れ際に、「気を付けて……」と言う。
俺がエミリアを連れ出そうとしている事がしっかりバレていた。
見逃してくれたのは、これが最後だからか?
エミリアと俺は妖精の踊りも見れて、最後に満足出来る時間を過ごせた——。
だから、これで終わってもいいと思った。
エミリアには、リヒャルトがいるから——。
隣国に帰ると国は限界に達していた。
外壁に集まる魔物たちの数が多くて防ぎきれない。
けれど、一部の外壁が壊されただけで、なんとか撃退できた。
こういうギリギリの状況は何度もあって、だから、ひいお爺様はセラフィーヌ様を求めたのだ……。
俺もこの国に結界が必要だとは思う。
けれど——。
他人を犠牲にしてまで、この国に結界が必要なのか!?
あの国の人たちはエミリアに嫌な事ばかりしているが、それでも滅びていいわけじゃない。
ギリギリだけど、まだこの国は大丈夫だ——。
ひいお爺様が亡くなって、エミリアに会えなくなった。
ひいお爺様が言うには、エミリアは誰よりも辛い目に遭うかもしれない…——。
結界を必要だと思う出来事は年々増えていく……——。
十六歳になった俺は、エミリアの代わりを探そうと旅に出た。
代わりがいれば、エミリアを求めなくて済む。
でも、四年探して代わりなんて見つからなかった。
隣国に戻る前に、エミリアに一目だけでも会いたくなった。
——彼女は家を追い出されて、持参金を落としていた。
——誰もお前の代わりがいないと、確認するための旅だった——。




