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「こんなに必要ないと思うけど……この国の風習なの?」
私は大量のドレスと宝石を前にして言いました。
隣国での朝は、シグルドが大量のドレスと宝石を持ち出して、一番私に似合うものを選んでくれる事から始まります。
着替えた私を、リヒャルトが女神のようだと称えてくれます。
「嬉しくないのか? 国の女性に聞いてお前の喜びそうなことを選んだんだが」
「ドレスなんて姉のお下がりを二、三着しか持った事がないのに、こんな大量に見せられたら、嬉しいより恐ろしくなってしまうわ……一体いくらするの!?」
「……とっても喜んでくれてるんじゃないかな? シグルド」
「ドレスと宝石くらいでと思ったが、効果があるんだな」
この大量のドレスと宝石をなんとも思ってないなんて……頭がクラクラして来ました。
でも、動くたびに一緒に揺れるフリルと、裾から覗くレースに思わず笑顔になっていました。
「シグルド、仕事は?」
食事はシグルドが私を膝に乗せて食べさせてくれました。
リヒャルトが顔についた食べ物を拭いてくれます。
「リヒャルトも……」
「四年も旅に出て帰って来たばかりだ、今の一番大事な仕事は、お前と一緒にこの国で過ごして、お前をこの国に馴染ませることだ」
「俺も、あなたに早くこの国に馴染んで貰いたいですから」
食事を食べさせてもらう事と、口を拭いてもらうことと関係がない気がしました。
「私は、いつも食事は一人だったから、いつも通りでいる事が馴染むことなら、一人の方が……」
シグルドが憐れんだように私を見てから言います。
「そのいつも通りで、自分の国に馴染んでいなかっただろう。この国にではこの国のやり方があるんだ」
シグルドが、肉をフォークで刺して私の口の前に持ってくる。
たくさんの種類の料理を一つ一つ口に入れられました。
リヒャルトがこぼれた料理を拭いてくれました。
自分で食べた方がこぼさずにすむと思いました。
でも二人の間に挟まれて、同じ動作を繰り返していると、何も考えられない気がしてきます。
夜はずっとシグルドが腕に抱いて眠っていてくれます。
私の目から涙が溢れるとシグルドが指で拭ってくれました。
目を軽く開けてシグルドを見ると、私を灰色の瞳で見つめています。
私が手を伸ばすと掴んで、優しくキスしてくれました。
シグルドの温もりを感じて目を閉じます。
コツンと扉の前で音がして、リヒャルトの気配がしました。
部屋の前でリヒャルトが護衛をしてくれているから安心できました。
私は女として愛してくれる王子のシグルドと、女神として愛してくれる元王子のリヒャルトに、守られて隣国の日々を過ごしています。
◇
「今日はこの服で、エミリア」
シグルドが私に掲げた黒いドレスのシルクのなめらかさが肌を通じて伝わってきます。
サファイアの宝石のついたネックレスも鎖骨に当てられて、ひんやりとした熱が感じられました。
メイドたちが、シグルドの選んだドレスと宝石に着替えさせてくれる、いつもの朝です。
「今日も、素敵です。王宮の妖精の様ですよ」
リヒャルトに言われて、シグルドと見た妖精の踊りを思い出しました。
私は目を細めました。
あの日は青い月が綺麗でした。
いつもリヒャルトが的確に服を褒めてくれました。
毎日毎日続く、朝の心地いい時間でした。
シグルドが食べさせてくれる食事にも慣れました。
シグルドが口の前にフォークを持ってくると、そのままパクッと私の口の中に入って行きます。
食べたい料理も完璧にシグルドはわかってくれているから、何も考えずに美味しい食事だけを味わうことができました。
リヒャルトも、その存在を消して、気づかないくらいに心地よく優しく口を拭いてくれます。
薄く笑う私を二人の王子が満足そうに見つめていました。
夜はシグルドの腕の中の心地よさに身を委ねるだけでした。
涙なんてこぼれないくらい幸せでした。
リヒャルトもそんな私を守っていてくれると思うと笑顔になっていました。
リヒャルトが守っている部屋の中で、私は何も考えられなくなっていました。
毎日続く幸せに、今日も思考停止けさせられています。
朝になると思考停止けたままの私はシグルドの腕に抱きついて、シグルドが私に服を選ぶ気配を楽しんでいました。
リヒャルトがなんと言ったのかも聞こえていません。
ただ、ここは安心できる場所でした。
とても好きな場所です。
隠さなきゃいけなかった気持ちも、きっと隠さなくていい場所です。
私はリヒャルトに手を伸ばしました。
子供の頃に嫌われてしまった人だけど、違いました。
リヒャルトが本当はずっと私を愛していたと言っていました。
気まぐれで好きだと言った男の子とは違います。
私が、本当に欲しかった人です。
私はシグルドが私を見ているのも気にせずに、リヒャルトに抱きついてキスしました。




