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——あ……!
私は灰色の瞳の男の子の事を思い出しました。
今、懐かしい彼が、私の手を引いて、街を囲む外壁の門へと向かっていました。
こんなに簡単に私が国を離れることになってしまうと、崩壊がどれほどのスピードで進むのか、私にも分かりませんでした。
だって、私の心をこの国に繋ぎ止めるものがあまりにも少ないのですから。
そう思って歩いていると声をかけられました。
「エミリアじゃないの。すごいわ、持参金を貰ってすぐに、もうお相手を見つけたのね」
長女マルグリッドと次女セシールが連れ立って歩いていました。
クスクスと嫌な笑みを讃えていました。
二人の後ろには荷物をたくさん抱えた使用人たちが続いていました。
次女セシールの結婚式の装飾や嫁入り道具を探しているようです。
セシールは『すごいわ』といった割に、シグルドの旅の装束を値踏みすると見下し、ニヤリと薄く笑います。
「お似合いよ、落ち着いたら手紙をくださいね」
目お細めてマルグリッドも笑っていました。
私は長女のマルグリッドにうなずきました。
「私と王子様の結婚式には是非、二人で出席してね」
次女のセシールの言葉に、私は微笑んでお礼をいいました。
「お誘いくださってありがとうございます。落ちついたら出席します」
出来るだけ感じ良く見えるようにいつも以上に幸せそうに微笑みました。
この国と運命を共にする姉二人とは、これが最後の邂逅かもしれませんから。
姉たちは私の笑顔に怯んだようだったけれど、シグルドの服を見て顔を見合わせせて笑っていました。
妹が本当の幸せを手に入れていないことを、シグルドの旅姿から確認したのでしょう。
マルグリッドの旦那様——公爵のことはよく知りませんが、セシールの婚約者のリヒャルト王子のことは知っています。
親しかったのは、子供の頃だけだけど、今も彼はいい人なのに、その結婚相手が誰かを見下すことでしか幸せを感じられないなんて……。
リヒャルトが選んだ相手がセシールだったのだから……間違っているはずはないのに……間違いであって欲しい、そんな気分になります。
ギュッとシグルドに手を握られて、私は姉二人から離れました。
「お幸せにね、エミリア!」
クスクスと絡みつくようなら二人の笑いが追いかけて来ました。
◇
二人と別れた後にシグルドと繋がれた手が心なしか強くなった気がします。
「良い姉さんたちだな。おまえの心をこの国に残さず、全て俺のものにできる」
冷たい声だけど、シグルド王子には私の悔しさも悲しみも全部わかっているようです。
「私はもうずっとシグルド王子のものでしたよ……」
子供の頃のあの日からずっと——。
涙が一粒、私の頬を伝いました。
これは、冷徹な王子の優しさへの感謝の涙——そう思うことにします。
過去に置いてきた心がまた悲しくなっているのではありません……。
シグルドにはどこまで分かっているのか、私の頬を伝った涙の跡を拭ってくれました。
◇
——その頃、私と別れた直後の姉たち——。
「全くみすぼらしい格好の男だったわね。私の王子様のリヒャルトとは雲泥の差ね」
セシールがニヤリと嫌味な笑いを浮かべていた。
「あのひいお婆様のお気に入りだった、ズレた末っ子のエミリアにはお似合いね」
マルグリッドの薄笑いも消えない。
三女エミリアの見つけた結婚相手に二人はいたく満足しているようだった。
三女のエミリアが不気味なのは国中のものが知っている事実だったから、まともな結婚相手などいるはずがない。
ただ、あの容姿だから騙されるものがいるかもしれないと不安だった。
結局、騙されたのは旅のみすぼらしい男だった。
顔はフードで見えなかったが、きっと醜いに違いない。
そこに次女の婚約者のリヒャルト王子がやって来た。
「セシール! エミリアが家を追い出されたというのは本当か!?」
かなり慌てた様子だった。
「追い出されたのではなく、結婚してこの国を出ていくだけよ。さっき旦那さまにお会いしたのよね、お姉様」
意地悪く笑いながらセシールがいうと、マルグリッドも馬鹿にしたように言います。
「とても素敵な方で、心配はいりませんわよ」
リヒャルトは愕然とした。
「なんてことだ……! エミリアが——聖女様が、この国を出ていかれる……!」
パリーンッと音がして、結界が崩れ落ちる様子がリヒャルトの頭の中にはしっかりと見えていた。




