12
リヒャルトにはずっと嫌われたと思っていました。
ずっと私を大切にしてくれていた人なのに——。
小さな私は、あなたがいたから、辛いことにも、いいところを見つけられました。
私を守ろうとしてくれるシグルドにも、し
素直に大好きだと言えました。
でも、あなたに嫌われていたのなら、世界の見え方が変わってしまいます。
誰にも愛されないなら、私も愛さないだけです。
全てを諦めて、シグルドのことも忘れました……。
でも、ずっと誰かに愛されたいという願いは残ったままでした。
その誰かは、あなただけでした。
私は、本当に大好きな人にキスをしました——。
シグルドの作ってくれた、私の為のこの場所なら、自由でいられます。
リヒャルトから唇を離して、シグルドに抱きつきます。
私の願いを叶えてくれた人です。
シグルドには、私がリヒャルトとこうなることはずっと昔から分かっていたのでしょう。
だから、私の代わりを求め旅をしていたのです。
でも、私とリヒャルトから逃げられませんでした。
絡みつく私を悲しい灰色の目で見て、キスをしてくれました。
私の心に暖かいモノが芽生えました。
これはきっと——。
◇
私宛に家族から手紙がきたらしいけど、シグルドが火に焚べてしまいました。
別に手紙に気になることはないからいいのです。
少し暖かくなりました。
リヒャルトが、次女のセシールに婚約破棄の理由を長々と手紙にして送っていました。
そして、セシールからの長い手紙が尽きることがありません。
冷徹な王子の熱い腕に抱かれて、私は炎が爆ぜる様子を見つめています。
滅びゆく家族と祖国の声は私に届くことはなく、一瞬の暖かさになって消えていくだけで、シグルドの熱ほど心を乱すこともありません。
リヒャルトはいつでも私のために動けるように控えていて、空にはこの国が守護されるための結界の種が育っています。
リヒャルトが私を元の国から心を解き放って、シグルドが新しい居場所を作ってくれました。
この特等席で私は、祖国に残っていた最後の魔力が空に消えるのを見つめました。
そして、私はまたこの国そのものになりました——。
◇
「シグルド様が連れて来た方。最初は素敵な人だと思ったのに……」
「ずっとおかしかったけど……シグルド様の目の前であんな騎士にキスするなんて……」
エミリアとリヒャルトのことは、あっという間に噂になった。
エミリアには隠す気がないんだから当たり前だ。
俺は、エミリアにこの国を守らせるために、何も言えない。
エミリアにここを大切な場所だと思わせなければならないから。
「大好きよ、ありがとう、シグルド」
俺も大好きだ。
ただ、俺が側にいるだけじゃ結界は生まれない。
故郷の結界が壊れたあとで、君は結界を維持するためにズレたままでいる必要がなくなったから。
俺と普通の幸せを手に入れられるはずだった。
でも、君は故郷も結界が壊れる中で、リヒャルトに言った——。
『あなたも私と一緒にきてください、リヒャルト。あなたが、私を守る騎士になってくれたら、嬉しいわ』
俺のものだと言った口で、エミリアはリヒャルトも求める。
それはおかしいことに思えた。
——ズレている!
……だから……。
……だから、リヒャルトがついて来ることを許した。
これで、また君に結界を作らせる事が出来ると思ったから——。
でも、最後まで、俺は迷っていたんだ……。
たぶん、君を道具にすることを選ぶまで迷い続けた。
俺は、国の人々を捨てられない——リヒャルトのようには。
結局は、守ると言ったのに、君を守れなかった——。
——君をまた結界の生贄にする。
せめて、俺のそばではずっと幸せを感じていて欲しい。
俺は、籠の中で君を思考停止けさせる。
君は、国を捨ててまで君に尽くしてくれる冷徹な王子——リヒャルトとズレた世界を眺めている——。
◇
私は過去を眺めていた——。
『二人の男性に愛される人生も悪くなかったわ』
パチっとウインクしてひいお婆様が私に言いました。
私はこっそり、それぞれのひいお爺様と一緒にいる、リヒャルトとシグルドを見ました。
まだ子供の二人が私を愛してくれることなんて想像できませんでした。
——でも今なら、分かります。
『誰かに愛して欲しいから、結界を守ってたのね』
私も、あなたたちに深く愛されたいと思ったのです。
それが、私とひいお婆様の幸せでした——。




