第4話 特別カリキュラム
入学式が終わり、新入生たちはそれぞれの教室へ戻っていった。
友人同士で談笑する者。
先輩の噂話で盛り上がる者。
これから始まる学園生活に胸を躍らせる者。
そんな中――
「行くぞ」
「どこへですか?」
結賀カナデは隣を歩く女性を見上げた。
霧島レイナ。
鋭い目つきをした長身の女性教師。
そして、Eクラスの担任である。
「教室だ」
「Eクラスの?」
「ああ」
短い返事だった。
カナデは小さくため息を吐く。
入学式が終わった今でも、自分が一人だけのクラスだという現実は変わらないらしい。
Eクラス校舎。
やはり何度見ても古い。
本校舎から少し離れた場所に建つ小さな校舎。
壁にはひびが入り、窓枠も色褪せている。
「本当に学園の施設なんですよね?」
「失礼だな」
「否定してください」
レイナは無視した。
教室へ入る。
机が一つ。椅子が一つ。そして生徒も一人。
「見れば見るほど寂しいな……」
「慣れろ」
「慣れたくありません」
カナデが席に着くと、レイナは教卓へ向かった。
「まず学園について説明しておく」
レイナは黒板へ向かう。
チョークを手に取った。
『アストレア魔法学園』
大きく文字を書く。
「本学園は五年制」
「一年から五年まで在籍する」
「卒業後は騎士団、冒険者、研究機関など様々な道へ進む」
レイナは淡々と説明を続ける。
「授業は魔法学、属性理論、戦闘訓練、魔物学など」
「一般教養も存在する」
「ちゃんと勉強するんですね」
「当たり前だ」
「少し安心しました」
「何だと思っていた」
「魔法だけひたすら撃つ学校かと」
「そんな学校があってたまるか」
レイナは呆れたようにため息を吐いた。
「また、本学園にはクラン制度が存在する」
「クラン?」
「学年を超えて活動する組織だ」
レイナは黒板に『クラン』と書き加える。
「部活動に近いと思えばいい」
「へぇ」
「戦闘系、研究系、支援系など様々なクランが存在する」
「楽しそうですね」
「そうだな」
レイナは頷く。
「学年が違っても交流できる。学園生活の中心になる生徒も多い」
カナデは少し興味を惹かれた。
一人クラスでも、そういう場所なら友達ができるかもしれない。
だが――
「まあ、お前にはしばらく関係ない話だ」
「なんでですか」
「まずは友人を作れ」
「ぐっ……」
正論だった。
「次に授業についてだ」
レイナが腕を組む。
「本来ならクラスごとに授業を受ける」
「はい」
「だがお前は違う」
嫌な予感がした。
「結賀カナデ」
「はい」
「お前は測定不能だ」
「はい……」
「どの属性にも分類できない」
「はい……」
「だから通常カリキュラムは適用しない」
「え?」
思わず間抜けな声が出た。
「お前専用のカリキュラムを組む」
「俺専用!?」
「そうだ」
「いやいやいや!」
カナデは思わず立ち上がった。
「そんな特別扱いされるような人間じゃないんですけど!?」
「知っている」
「じゃあなんでですか!?」
「分からないからだ」
レイナは即答した。
「お前の属性も能力も分からない」
「……」
「だから調べる」
真剣な声だった。
冗談ではないらしい。
「明日からは実技中心になる」
「実技ですか」
「ああ」
霧島先生は頷く。
「お前の力を見つけるための授業だ」
カナデは自分の右手を見る。
輪の紋様。
誰とも違う紋様。
自分でも何なのか分からない力。
その正体が分かるかもしれない。
そう思うと少しだけ胸が高鳴った。
説明が終わる頃には日も傾き始めていた。
「今日は以上だ」
「え? もう終わりですか?」
「入学初日だ」
レイナは教卓から降りる。
「学園生活は長い」
「焦る必要はない」
カナデは少しだけ肩の力を抜いた。
するとレイナは窓の外へ視線を向けた。
「まあ、せっかく入学したんだ」
「?」
「なるようにしかならん」
珍しく柔らかな声だった。
「まずは楽しめ」
カナデは目を瞬かせる。
「お前はまだ学生なのだからな」
一瞬だけ沈黙が流れた。
「先生」
「なんだ」
「意外と良い先生なんですね」
「表へ出ろ」
「すみませんでした」
即座に謝る。
だが、レイナの口元がほんの少しだけ緩んだように見えた。
校舎を出たカナデは寮へ向かっていた。
一人クラス。
謎の紋様。
特別カリキュラム。
不安なことは山ほどある。
それでも――
「まあ、なるようになるか」
そう呟く。
せっかく入学できたのだ。
まずは楽しんでみよう。
そんなことを考えながら夕暮れの学園を歩いていく。
そして翌日。
霧島先生との特別カリキュラムが始まる。
その先に待つものを、この時のカナデはまだ知らなかった。
訓練場で、自分の運命を大きく変える出会いが待っていることを。




