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第5話 共鳴(前編)

 入学式から二週間が経った。

アストレア魔法学園での生活にも少しずつ慣れ始めた頃。

――とはいえ。


「はぁ……」


結賀カナデは盛大なため息を吐いていた。

理由は簡単だ。

何も進展していないからである。

Eクラスの教室には今日も自分一人。

友達もほとんどいない。

属性も分からない。

輪の紋様も相変わらず反応しない。

この二週間、レイナによる特別カリキュラムも続けられていた。


魔力操作。

基礎体力訓練。

瞑想。

属性測定。

実戦形式の訓練。

考えられることは一通り試した。

しかし結果は変わらない。

何も分からないままだった。


「そんな顔をするな」


隣から声が飛ぶ。

霧島レイナだった。


「先生」


「なんだ」


「俺、本当に才能あるんですか?」


「知らん」


「即答しないでくださいよ」


レイナは腕を組む。


「だが何もない人間なら学園長は興味を示さん」


「それ慰めになってます?」


「ならんな」


ならないらしい。

カナデは肩を落とした。

そんな様子を見て、レイナは小さく息を吐く。


「焦るな」


「……」


「二週間で結果が出るほど魔法は甘くない」


「先生はどうだったんです?」


「私か?」


レイナは少し考える。

「半年」


「え?」


「幻影を発現させるまで半年かかった」

カナデは思わず目を見開いた。


「意外です」


「私も人間だからな」


珍しく冗談めいた口調だった。

少しだけ気が楽になる。


「行くぞ」


「今日は何をするんです?」


「実技だ」


「またですか」


「文句があるなら走れ」


「ありません」


即答だった。

この二週間で学んだことがある。

霧島先生の機嫌を損ねると訓練量が増える。

それだけは避けたい。



やがて二人は訓練場へ到着した。

広大な敷地。

巨大な演習場。

魔法用結界。

観覧席。

まるで闘技場のような光景だ。

だが。


「あれ?」


カナデは首を傾げた。

既に大勢の生徒がいる。

訓練場中央では授業が行われていた。


火球が飛び。

水の刃が舞い。

風が渦巻く。

どう見ても使用中だった。


「先客ですね」


「ああ」


レイナが足を止める。

数秒後。

何かに気付いたように額へ手を当てた。


「忘れていたな」


「何をです?」


「訓練場の使用申請だ」


沈黙。


「申請を出していなかった」


「先生!?」


思わず叫んだ。


「またですか!?」


「またとは失礼だな」


「初めて聞きましたけど常習犯なんですか!?」


「たまにだ」


「駄目じゃないですか!」


レイナは聞こえなかったふりをした。

完全に聞こえていたはずなのに。


「少し待っていろ」


そう言って中央へ向かう。

カナデはため息を吐きながら観覧席へ向かった。



訓練場中央。

そこにはSクラスの生徒たちが集まっていた。

学園最上位クラス。

選ばれたエリートたち。

当然ながら実力者ばかりだ。

その中には見覚えのある顔もあった。


銀髪の双子。

シオンとライカ。

雷鳴の勇者直系。

この二週間で何度か見かけることはあった。

ただ話したのは数回程度。

基本的には別世界の住人である。

……少なくとも俺はそう思っていた。


「あっ!」

元気な声が響く。

ライカだった。


「輪っかの人だ!」


「だからその呼び方やめてください!」


反射的に突っ込む。

周囲の生徒たちが何事かと振り返った。

恥ずかしい。


「カナデだっけ!」


「そうです!」


「覚えてるよ!」

なぜか嬉しそうだった。


一方のシオンは。

「騒がしい」

呆れたように妹を見る。

しかしその視線は一瞬だけカナデへ向いた。


あの入学試験の日から。

彼女は何度かこちらを見ている。

理由は分からない。

だがカナデにも分かることが一つだけあった。

――何かを疑われている。

そんな感覚だった。



その頃。

レイナはSクラスの担任と話していた。

柔らかな茶髪。

優しげな笑顔。

ふわふわとした雰囲気を纏う女性教師。


「レイナちゃんじゃないですかー」


「ちゃん付けはやめろ」


「嫌ですー」

即答だった。

レイナが露骨に嫌そうな顔をする。


カナデは少し驚く。

レイナがここまで感情を表に出すのは珍しい。

「それで今日はどうしたんですかー?」


「訓練場の申請を忘れた」


「あー」


女性教師は納得したように頷く。


「またですかー」


「一区画貸してくれ」


「もちろんいいですよー」


にこやかな返答。

だがその笑顔が少しだけ変わった。


「その代わりお願いがあるんですけどー」


「なんだ」


「この子たちに現実を教えてもらえませんか?」


女性教師が視線を向ける。

先には数人の男子生徒。

どの生徒も自信に満ちていた。

悪く言えば調子に乗っている。


「最近ですねー」


女性教師は困ったように笑う。


「Sクラスだからって少し天狗になってるんですよー」


「ほう」


「一年生じゃ敵なしー」


「自分たちは特別ー」


「そんな感じでしてー」


霧島先生が鼻で笑った。

その瞬間。

カナデは少しだけ背筋が寒くなった。

何か嫌な予感がする。


「だからですねー」


女性教師は楽しそうに言った。


「現代最強の勇者に教育してもらおうかなーって」


沈黙。

そして。

レイナの口元が僅かに吊り上がった。


「ふっ」


珍しい笑みだった。


「いいだろう」


静かな声。

だがその場の空気が一変する。


「魔法とは何か」

レイナは演習場へ向かう。


「その身に叩き込んでやろう」

その言葉に。

Sクラスの生徒たちが息を呑んだ。


観覧席も静まり返る。

現代最強。

幻影の勇者直系。


霧島レイナ。

学園長を師匠に持ち、幻影の勇者直系。そのずば抜けた魔法操作技術と反射神経でこれまで実績を積み上げてきた。現代最強と謳われる人物。なぜEクラスの担任、いや、学園で教師をしているのかさえわからない。

最近はあまり表舞台には立っていないが、霧島レイナ。その名前は全世界に轟いている。


そんな人物の実践なんて、目撃できる機会など滅多にない。


シオンも。

ライカも。

カナデも。

全員が演習場へ視線を向ける。


そしてカナデはまだ知らない。

この訓練場で起きる出来事が。

自分の運命を大きく動かすことになると。


(後編へ続く)

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