33.好きなのに嫌い
「ねぇねぇ、今日は私と一緒にカフェにいかない? 魔法の事、詳しく話を聞きたいからさ」
「ちょっと、抜け駆けはダメよ。私と一緒に図書館へ行かない? そこで、色々と話を」
「そうだ! 一緒に夕食でもどう? なんだったら、私の屋敷に泊まっていかない?」
授業が終わると、あっという間にクラスメイトに取り囲まれる。そのほとんどが誘い文句で、一気に話しかけられて困惑する。
さて、今日はどんな放課後を過ごそうか……。そう思っていると、視界の端にティアリスの姿を映してしまった。
ティアリスがカバンを持って立ち上がった時、こちらを見た。一瞬、目が合ったようで、心臓がドキリとする。
ティアリスを見ると、胸の中でもやもやが溜まる。嫌な感情が溢れ出して、気持ち悪い。こんな気持ち……捨ててしまいたい。
そう思っていると、すぐに視線を逸らされて急いで教室から出ていった。それだけで、心の中のもやもやが消えていった。
ティアリスを見るだけで嫉妬の気持ちが溢れてくる。それは止めどなく溢れてきて、近くに居たら傷つけてしまうくらいに強い。
やっぱり、傍にいないほうがいい。傍にいたらきっと傷つけてしまう。そんなのは嫌だ。
「……最近、ティアリスはルシアに近づかないね。どうしてだろう」
その時、周りの子がティアリスを話題に出してきた。それだけで、体が緊張して少しだけ鼓動が高鳴る。
「全く酷いよねー。古代魔法が使えるってなったら、すぐにルシアから離れてさ。力を手に入れると人なんて変わっちゃうね」
「折角ルシアが親身になって教えたのに、恩を仇で返されたみたいだよね。ルシアが傷ついていないか心配だよ」
「本当に何様って感じよね。ルシアがいなかったら、ずっと魔法が使えなかったわけなのに」
みんながティアリスを悪く言う。私のことを思って言ってくれているのが分かるのに、無性に腹が立った。
ティアリスはそんな酷い子じゃない、って大声を張り上げたかった。何も知らないくせに、って今までのティアリスの努力を教えてあげたかった。
でも、出来ない。自分の劣等感が邪魔をするから。そんな陰口を言われて、胸がスッとした気持ちになったからだ。
……本当に私は最低だ。好きな人の陰口を聞いて怒ったと思ったら、自尊心を満たしている。今まではこんな気持ちにはならなかったのに。
大切にしたい気持ちと傷つけたい気持ち。違う気持ちが心の中を占領して、どれが本物なのか自分でも分からない。
いや、どれも本物だろう。だけど、それを認めたくないっていう思いも交じり合い、心がかき乱されてごちゃごちゃになる。
もう、考えるのも辛い……。だから私は、古代魔法に逃げていった。
◇
約束も何もせず私はすぐに屋敷へと帰ってきた。部屋に閉じこもり、新しい文献に目を通す。心が落ち着いて、穏やかな気持ちになる。
やっぱり、私には研究をしている時が一番性に合っている。一人の時間に没頭して、自分の時間にする。ずっと、こうしてきたから、これからもそうするだけ。
何気なくページを捲り、文章を読み進める。無心に読んでいくと――。
『あの……ここはどういう解釈なんですか?』
ふと、ティアリスの言葉が蘇ってきた。ハッとなって隣を見ても、そこには誰もいない。だけど、確かにそこにティアリスがいた感じがした。
本を読んでいるだけなのに、あの日々が鮮明に思い出される。ティアリスと一緒に過ごした時間。何よりも尊い時間だった。
思い出すだけで、気持ちが溢れてくる。傍にいて欲しいという気持ち。触れたいという欲求。
どうしようもなく、一人が寂しかった。あの日々を思い出すだけで、強い孤独を感じて、普通ではいられない。
だけど、その気持ちに隠れて黒い感情も溢れてくる。こんなに好きなのに、嫉妬の気持ちはいつまで経っても消えない。
どうして、こんなに好きなんだろう。どうして、こんなに妬ましいのだろう。
二つの気持ちがせめぎ合っていて、辛い。もう、こんな気持ち……忘れてしまいたい。
そう願うのに、ティアリスとの日々は甘く脳裏に焼き付いて離れない。私はずっとこれを背負って生きていかないといけないの?
訳の分からない涙が溢れた時――ノックがした。慌てて目元を拭うと、扉を開ける。
「ルシアお嬢様、お手紙が届いております。なんでも、緊急を要する件だと」
「緊急? なんだろう?」
手紙を受け取り、また席に着く。封筒の宛名を確認するが、何も書いていない。不思議に思い、中の手紙を取り出す。
その一文に目を通すと――。
『今夜、ローゼリア公爵令嬢がティアリスを学園に呼び出しています』
「えっ?」
その一文に背筋が凍った。もう、ローゼリアは私たちに手出しが出来ないはず。なのに、何かを仕掛けようとしている?
すると、悪い想像が頭をよぎる。もしかして、数の暴力でティアリスに危害を加える気じゃ。ティアリスはまだ古代魔法を発動したばかりで、完璧じゃない。そんな所を狙われると――。
「ティアリスが危ない」
魔法の使えない私に何が出来るかは分からない。だけど、ティアリスを一人になんてさせられない。
その時、手紙の続きが目に入った。そこには『大杖を持って来てください』と。
「大杖? なんで、そんなことを知っているの? ……まぁ、いい。剣を使うのはやめて、何かあった時は大杖で叩いて攻撃すればいいか」
流石にクラスメイトに剣は向けれない。だけど、大杖ならなんかあった時の為の抑止力になるはずだ。
私は壁に立てかけておいた大杖を手に持つと、部屋を飛び出していった。




