31.それでもあなたのために(ティアリス視点)
あの日から、数日が経った。
私は部屋に引きこもる時間が増えた。授業には出ているし、王女としての仕事も最低限はこなしている。でも、それだけだった。
部屋に戻ると、ベッドに腰を下ろしたまま、何をする気にもなれない。
今までなら、部屋に帰れば真っ先に書庫へと向かっていた。魔力を増やす方法を探すために、寝る間も惜しんで本を読みふけっていた。
だけど今は、その本を見るだけで胸が痛くなる。
「……ルシア」
無意識に名前が零れる。返事が返ってくるはずもないのに。それでも呼んでしまうくらいには、まだ心があの日から前に進めていなかった。
ルシアは本当に、私を実験相手としか思っていなかったの? あの笑顔も、一緒に過ごした時間も、全部……研究のためだったの?
「……分からないよ」
答えはどこにもない。会おうと思えばいつでも会える。だけど、あの日の冷たい瞳と言葉が、その一歩を踏み出させてくれなかった。
『もう傍にいる理由はないってことだよ』
『良い実験が出来た。本当にありがとう』
耳を塞いでも、その言葉だけは消えてくれない。私が聞きたかった言葉はそれじゃないから。
よく頑張ってね、って笑顔で褒めてもらいたい。一緒にいると楽しいね、って私と手を繋いでほしい。温もりを感じてもいい、って私を抱きしめて欲しい。
まだまだ、ルシアにして欲しいことも、自分がしてあげたいって思うこともある。離れれば離れるほど、もっと近くに居たいと感じた。
でも、それが出来ない。ルシアはもう私に興味がなくなったから。自分の実験が成功して、その結果を得られたから。もう、私は必要のない子。
……本当に、本当にそうだったの? 私は必要ない? ルシアに必要とされなかったら、私……どうやって生きていけばいいの?
◇
「では、今日の授業を終わります」
今日も授業が終わった。周りのクラスメイトが続々と教室から出ていく。その中にルシアの姿があった。
クラスメイトと楽しそうに話して、こちらを見ずに教室から出ていく。……どうして、私を見てくれないの? 私を実験台としか見ていなかったの?
その問いは胸の中で滲んで消えた。気だるげに教材をカバンに入れて、教室から出ていく。
歩いている時も自然とルシアの事を考える。ルシアに必要とされるにはどうしたらいいだろうか? もっと、役に立てば傍に置いてくれるのだろうか?
実験台でもいい、それでも隣に置いて欲しかった。一緒に笑って欲しかった。なんでもいいから、近くにいることを許して欲しかった。
あんなに突き放されたのに、もっとルシアを求めるようになった。今まで以上に傍にいて、私だけのルシアに――。
「えっ、ルシア……まだ魔法を諦めてないの!?」
……ルシアの話? 声に導かれるように顔を上げると、廊下の端で生徒が集まって話をしていた。
「そうなの。まだ、自分で魔法を使うことを諦めてないみたい。だから、今方法を探しているところなんだって」
「えー、そうなのー? そんな研究よりも現代魔法の事を教えて欲しいのに……」
「凄い執念だよね。魔力1しかないのに、魔法が発現するわけないのに」
ルシアがまだ魔法を使うことを諦めていない? ……そうだよね、ルシアは自分が魔法を使うために今まで研究してきたんだから、そう簡単に諦めるわけがない。
……あっ。私――まだルシアに魔力を増やす方法を教えていない。
この方法があれば、私はルシアに必要とされる? 教えたら、私も見直してくれる? それに、この方法だと――ルシアは私からしか魔力を増やせない。
私しかルシアに魔力を渡せない。私がルシアの支えになれる。私がルシアの唯一になれる。ルシアは私から離れなれなくなる。
そしたら、ルシアは私のもの。
――いや、私……何を考えているの? ルシアは誰のものでもないし、ルシアにはルシアの意思がある。それにこの方法が受け入れられない可能性もある。
……それでも、この方法は最後の繋がり。私とルシアを繋げてくれる、唯一の方法。
私はまだ、ルシアと一緒に居たい。笑い合って、傍にいたい。手を繋いで、温もりを感じたい。抱きしめて、存在を確かめたい。
口づけをして、気持ちを繋げたい。
「……私、諦めたくない」
手をギュッと握りしめる。そして、廊下を走り出した。早く、早く書庫にいかないと。
私一人でも、この方法を使えるようにする。私はルシアの夢を叶えてあげたい。




