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魔力1令嬢と欠陥王女は魔法が使いたい! ~誰も使えない古代魔法で人生逆転します~  作者: 鳥助
第三章

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30.約束は果たしたよ(ティアリス視点)

 朝から落ち着かない。


 胸の奥がふわふわして、何をしていても自然と頬が緩んでしまう。今日はルシアに伝えたいことが、たくさんあるから。


 まずは、古代魔法で魔力を増やす方法が見つかったこと。あれだけ探し続けて、ようやく見つけたんだ。ルシアならきっと目を輝かせて、「本当!?」って喜んでくれる。


 もしかしたら、勢い余って抱きついてくるかもしれない。……うん、それはちょっと期待しちゃう。


 でも、そこからが本番。魔力を増やす方法が――口づけだってことは、慎重に伝えないと。


 ルシアはどんな反応をするんだろう。「それで魔力が増えるの!?」って研究者らしく目を輝かせるのかな。……それはそれで、ちょっと複雑かも。


 だって、それじゃあ私のことを全然意識してないってことだよね。


 でも、もし照れたり、慌てたりしたら。それは少しくらい、私を異性……じゃなくて、恋愛相手として意識してくれているってことかもしれない。


 そうだったら、勇気を出そう。私はルシアが好きだから、大丈夫。ちゃんと、この想いを伝えよう。


 もし、すぐに返事がもらえなくてもいい。「少し考えさせて」って言われたら、私は待つ。一緒に魔力を増やす方法を研究して、一緒に笑って、一緒に過ごして。


 手を繋いで。抱きしめて。少しずつ私を意識してもらえたら、それだけで嬉しい。


 そして、魔力を増やす方法が使えるようになる頃には……その時にはきっと、ルシアも自分の気持ちに気づいてくれていて――。


「……えへへ」


 思わず笑みが零れる。よし、今日はきっと私たちにとって一番素敵な日になる。


 ◇


「では、今日の授業を終わります」


 先生がそう言うと、教室がざわめいた。私はすぐに教材をカバンに入れて、それを持って立つ。


 これからルシアの所に行って……。そう考えると、緊張で中々足が動かない。大丈夫、きっと上手くいく。そう自分に言い聞かせて、ルシアの方を向いた。


 ルシアは相変わらず人に囲まれて楽しそうだ。その笑顔が誰かが作ったものだと思うと、胸がチクリと痛くなる。


 でも、これからは違う。これからはまた以前のように二人で笑い合えるようになるんだ。勇気を出して、私はルシアに近づいた。


「ルシア」


 その名を呼ぶと、ルシアと周りの人たちは驚いた顔をしてこちらを見た。それもそうだ。しばらくルシアには近づかなかったんだから。


「ちょっと、話しできますか?」


「……私も丁度話をしたかったところだよ」


 ……あれ? なんか、ルシアの表情はいつもと違う。距離が遠いというか……何も見ていないというか。


「ほら、行くんでしょ」


「は、はい……」


 ボーッと突っ立っていると、冷たくそう言われた。まぁ、それは仕方ないよね。今まで私が突き放していたんだから。


 足早に歩くルシアの後ろをついて、私たちはいつもの中庭に行った。ここでなら、存分に話せる。私は深呼吸をして心を落ち着かせていると――。


「最近、忙しいみたいだね。王宮でも第一王女が魔法を使えるようになって、騒いでいるって聞いた。もしかして、もう何か動きがあるんじゃない?」


「えっ? あっ……まぁ、そっちはまだなんとも言えないですね。私はただ決定に従うしかない状態で……」


「きっと、古代魔法を使えるようになったから、待遇は変わると思うよ。そしたら、そっちにかかりきりになるかも」


 ……なんか、ルシアの言い方に距離を感じる。まるで、自分は関係のない人だって言っているみたいに。


「ティアリスの周りの環境は変わっていくと思うよ。だけど、私も変わったんだよね。古代魔法を復活させたってことで注目が集まってさ、研究機関からも誘いの連絡があってさ」


「そ、それは良かったですね。ルシアは凄いから、認められたんです。それで、私の話しは――」


「お互いに良い方向に流れたから、別れようか」


 その言葉に思考が止まった。今……なんて言った?


「ほら、約束してたじゃない。古代魔法が使えるまで傍にいるって。それが果たされたってことは、もう傍にいる理由はないってことだよ」


「えっ……? 何を言って……」


「私は長年の研究が成功して、これから色々と忙しくなるし、ティアリスに付き合えないんだよね。ティアリスだって忙しくなるでしょう? だから、ここが潮時かなって」


 ……忙しくなるから、別れようってこと? 急にルシア……どうしたの?


 ルシアの顔を見ていると、そこに感情を感じられなかった。ただ、淡々と事実を言っているだけで、いつものような感情全開の表情ではない。


 それが酷く冷たく感じた。今まで傍にいてくれたルシアはどこに言ったの?


「ティアリスがいてくれて本当に助かったよ。ティアリスに古代魔法の適正があったお陰で、私の研究が成功したようなものだからね。良い実験が出来た、本当にありがとう」


 その時、目元と口元が笑う。だけど、そこに歪さを感じた。まるで、無理やり言っているような――。


 いや、それよりも……実験? 私を実験としか見ていなかった? あの日々は全部実験だったってこと?


 ルシアの言葉が信じられなかった。あの日々の感情が偽物だって言われているみたいで、酷く落胆した。


「わ、私……実験、ですか?」


「そう、実験だよ。今まで付き合ってくれてありがとう。それじゃあ、話しは終わり」


 ニコリと笑うと、ルシアはすぐにこの場を去って行った。


 遠ざかっていくルシアの背中を、私はただ見つめることしかできなかった。


 追いかけなきゃ。そう思っているのに、足が一歩も動かない。


「……っ」


 膝から力が抜け、その場に座り込んだ。胸が締めつけられるように苦しかった。


「実験……」


 ぽつりと零れたその言葉が、耳の奥で何度も反響する。


 実験。


 私たちが一緒に笑った日も。一緒に本を読んだ日も。初めて古代魔法が発動して、二人で飛び跳ねて喜んだ日も。全部、実験だったの?


「そんな、はず……」


 頭では違うと叫んでいる。ルシアはあんな人じゃない。


 私が失敗して落ち込んだ時、一番近くで励ましてくれた。魔法が発動した時は、自分のことみたいに喜んでくれた。


 あの笑顔が、あの時間が、全部嘘だったなんて信じられない。それなのに、最後に向けられたあの笑顔だけが、胸に深く焼きついて離れてくれない。


 ――良い実験が出来た。本当にありがとう。


「……やだ」


 震える声が漏れる。


「そんな終わり方……やだよ、ルシア……」


 胸の奥で温め続けてきた想いが、音を立てて崩れていく。幸せな一日になると信じていた。そう思っていた朝が、ひどく遠い昔のことのように感じられた。

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