↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔力1令嬢と欠陥王女は魔法が使いたい! ~誰も使えない古代魔法で人生逆転します~  作者: 鳥助
第三章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
29/38

29.今、それに気づきたくなかった

 一人で廊下を歩く。賑やかだった教室とは違い、とても静かで寂しい時間。一人になると、余計に考えてしまう。ティアリスに嫉妬している自分の事。


 あんなに楽しく、充実した日々を過ごしたはずなのに……。ずっと傍に居たいと思ったはずなのに……。


 羨ましい、という気持ちに気づいたら、その日々が別の感情で塗りたくられた。それは湿っていて、重くて、暗い感情。


 頭の中では何度も否定する、ティアリスは悪くない。悪いのは、勝手に比べてしまう私だ。それなのに、心は少しも言うことを聞いてくれない。


 ティアリスが褒められるたび、胸が締めつけられる。ティアリスが期待されるたび、「その場所は私だったかもしれない」と考えてしまう。


 そんなこと、思いたくないのに。一緒に研究して、一緒に成功して、一緒に喜べた。それだけで十分幸せだったはずなのに。


 ティアリスはそのままなのに変わってしまったのは、私だ。ティアリスを思うたびに、自分に足りないものばかり目についてしまう。


 膨大な魔力を持っていること。古代魔法を使えること。


 私は、そのどれも持っていない。何年も研究を続けてきたのは私なのに。誰よりも古代魔法を知っているはずなのに。誰よりも魔法を愛しているはずなのに。


 それでも、私は使えない。どれだけ努力しても届かないものを、ティアリスは持っている。


 胸の奥から湧き上がる黒い感情は何度押し込めても、何度でも溢れてくる。


 どうして私にはないの。どうしてティアリスにはあるの。どうして私は使えないの。そんな醜い言葉が、心の中を埋め尽くしていく。


「……どうして」


 自分で自分が嫌になる。今の私は、その輝きを眩しいと思うより先に、自分の影の濃さばかり見てしまう。


 ティアリスが前へ進めば進むほど、自分だけが取り残されていく気がした。その焦りは、やがて劣等感へと変わり、劣等感は嫉妬へと姿を変えて、私の心をゆっくりと蝕んで――。


「――本当にダサいよな。ルシアって」


 その時、そんな声が聞こえて、立ち止まった。廊下の丁度角、その曲がった先にいる人が吐いた言葉だ。


「ずっと研究していたのに、自分じゃあ使えないのってさ、本当に可哀そうだよな」


「魔法が使えないって同情していた王女に使われたんだぜ? 普通なら、気が狂っても可笑しくないわ」


「いやー、今どんな気持ちなんだろうな。自分が使いたかったはずなのによ」


 ……嫌だ、聞きたくない。それなのに、足が動かない。


「しかも、今。ティアリスに避けられているんだろ? 古代魔法を覚えたから用済みで捨てられたんじゃね?」


「うわー、非情な王女! 力を持つとここまで人が変わるのか、こえーっ!」


「だったら、今ルシアに近づくことが出来るんじゃね? 古代魔法を教えてもらってさ、第二の古代魔法使いになるっていうのは?」


「古代魔法なんてダセーよ。やっぱり、現代魔法だろう。現代魔法の論文で叙爵されたんだから、その知識は役に立つぞ」


「やっぱり、今ルシアに集まっている子たちってそれを狙っているよな? くそ、乗り遅れたか」


「古代魔法を復活させられる知識だもんな……。いっそ、魔法なんて諦めて知識だけ高めてくれたらいいのにな」


 笑い声が遠ざかっていく。他人の声なんて気にしないようにしてきたのに、その言葉は今の私に深く刺さった。


 その言葉は、胸の奥に隠していた感情を、そのまま誰かに読み上げられたようだった。私が必死に押し殺していた嫉妬も、劣等感も、周りから見ればこんな風に映っていたのだと突きつけられる。


 そんな自分が情けなくて、惨めで、どうしようもなく恥ずかしかった。胸の奥をかきむしりたい衝動にかられるほど、苦しい。


 そして、その苦しさがティアリスへの劣等感を刺激した。どうして、ティアリスだけが古代魔法を使えるようになった? どうして、私じゃなかった?


 何度も繰り返されたその言葉がナイフのように胸に突き刺さる。そして、次々と沸き起こる黒い感情に心が飲み込まれていき、ティアリスに向いていく。


 嫌だ。こんな感情、ティアリスに向けたくない。ティアリスは私を見下してなんていないし、純粋に古代魔法を学んでくれた。私を信じて、一緒にいてくれた。


 ティアリスは悪くないのに、心のどこかで悪者にしようとしている。なんで、そんな気持ちになるの? 全然、そんなこと思ってないのに。


 それでも執拗に心を抉るような言葉が浮かんでくる。


 もし、ティアリスが古代魔法を使えなくなれば。もし、魔力を失えば。もし、あの日に戻れたなら。


 そんな最低な考えが、一瞬だけ頭をよぎった。


「っ……!」


 私は思わず頭を押さえ、その場にしゃがみ込む。


「違う……違うっ!」


 そんなこと、望むはずがない。


 ティアリスが努力してきたことを、私は誰より知っている。古代魔法を使えるようになるまで、何度も失敗して、それでも笑って立ち上がってきた姿を、ずっと隣で見てきた。


 その努力を踏みにじるようなことを、私が願うはずがない。けれど、一度生まれた黒い感情は消えてくれない。


 笑い合った日々が浮かぶ。一緒に本を読んだこと。古代魔法の考察で夜遅くまで語り合ったこと。初めて魔法が発動した時、二人で飛び跳ねて喜んだこと。


 どれも私にとって、大切な思い出だった。その思い出をなぞるたび、胸の奥から黒い感情が溢れてくる。


 ――どうして、その場所にいるのは私じゃないの。


 ――どうして、私だけが置いていかれるの。


 そんな醜い叫びが溢れる一方で、それとは違う想いも、確かに胸の奥から込み上げてきた。


 ティアリスには笑っていてほしい。自信を持って欲しい。幸せでいてほしい。


 その願いだけは黒い感情に飲まれても、決して消えなかった。


 ティアリスだけを大切に思い、慈しみ、どこまでも見守りたい気持ち。そして、その隣で笑っている自分の姿を思い描く。


「……あ」


 その瞬間、胸の奥で何かが繋がる。今までの感情の謎が解けるような感覚、これは――私はティアリスが好きなんだ。


 だから、隣にいたかった。だから、誰よりも認めてほしかった。だから、置いていかれることが、こんなにも苦しかった。


 そして何より――好きだからこそ、この醜い感情をティアリスへ向けたくなかった。


 傷つけたくない。曇らせたくない。こんな自分を見せたくない。


 だったら、離れるしかないじゃない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新連載!

収納魔法を裏返したら世界最強でした!~極小収納しか使えない無能と辺境に追放されたので、もう好きに生きます~

旧作

転生難民少女は市民権を0から目指して働きます!

転生少女の底辺から始める幸せスローライフ~勇者と聖女を育てたら賢者になって魔法を覚えたけど、生活向上のため便利に利用します~

追放を計画的に利用して自由を掴んだ王女、叡智と領地改革で無双する

転生したら魔法が使えない無能と捨てられたけど、魔力が規格外に万能でした

スラムの転生孤児は謙虚堅実に成り上がる〜チートなしの努力だけで掴んだ、人生逆転劇〜

ゾンビがいる終末世界を生き抜いた最強少女には異世界はぬるすぎる

元社畜はウィンドウで楽しい転生ライフを満喫中! ~ゲームのシステムを再現した万能スキルで、異世界生活を楽々攻略します~

異世界喫茶で再出発ライフ

ゴミスキルだと捨てられた少女たち、実は最強の生活能力スキルだったので気楽なスローライフ冒険旅を満喫する

推し命の転生者、弱小ポンコツな推し神様のために万能な推し活パワーで騎士爵領を大領地にする

過保護なお姉ちゃん系王女を救うために何度も死に戻っていたら、全部バレていて曇らせてしまった

この世に一人だけの錬金術師~物作り好きのゲーマーが家族のためにアイテム革命起こします!~

コミュ障クラフターの私、引き継いだ能力が異世界では規格外すぎて無自覚に無双してしまう件~地味に暮らしたいだけなのに、なぜか注目されて怖いんですが~

スラムの孤児は慎ましく生きたい~大賢者の遺産を継いだけど、救世主にはなりません~

ド陰キャ聖女に百合キスは荷が重すぎる!~唇への祝福が最強だとバレてしまい、キラキラ王子様系姫騎士と包容力おばけな女傭兵に迫られています~

魔力1令嬢と欠陥王女は魔法が使いたい! ~誰も使えない古代魔法で人生逆転します~

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。