27.見つけたのは魔法じゃなくて……(ティアリス視点)
あれからも、書庫へ通う日々が続いている。
寝る間も惜しんで何かに打ち込むなんて、ルシアの家に住まわせてもらい、一緒に古代魔法を研究していた時以来だった。その頃を思い出すたび、胸の奥が締めつけられる。
朝から晩まで一緒にいて、くだらない話をして笑い合い、実験に失敗しては二人で首を傾げる。そんな何気ない毎日が、私にとっては何より幸せだった。
それなのに今は、まともに言葉を交わすことさえできない。同じ教室にいるのに、すぐ近くにいるのに、その距離がとても遠く感じた。
そして、仮眠を取った後に目に入ってしまう。私が一緒にいられない時間を、誰かがルシアと過ごしている姿が。
クラスメイトが楽しそうにルシアへ話しかける。研究の話で盛り上がって笑顔を向け合う。気づけば肩が触れ合うほど近くに立ち、ルシアも自然に笑っていた。
その光景を見た瞬間、胸の奥がぎゅっと締めつけられた。
どうして、その場所にいるのが私じゃないの。そんな考えが頭をよぎってしまい、慌てて首を振る。
違う。ルシアは優しいから、誰とでも笑って話す。だから、これが普通なのだ。そう言い聞かせるけれど、胸の痛みは消えてくれなかった。
ルシアが誰かに笑いかけるたび。誰かがルシアの名前を呼ぶたび。その誰かがルシアの隣を歩くたび。心の中が、もやもやと黒く濁っていく。
嫌だ。ルシアの隣は、私の場所だったのに。……そんなことを思ってしまう自分が嫌だった。
早く、早く方法を見つけなくちゃ。その思いに従って、今日も私は授業が終わると一目散に王宮へと戻っていく。
◇
ランプの灯りを頼りに、本を捲る。その度に残念な気持ちが強くなって、気持ちが落ちる。だけど、すぐに気を取り戻して、再びページをめくる。
そうして、次々とページを捲っていた時――。
「あっ」
思わず言葉が漏れた。そこに書かれていたのは――『魔力の器を超える魔力を付与する方法』と。
「こ、これ……」
手が震える。その指で文字をなぞりながら、文章を口に出す。
「『古来、魔力は他者へ受け渡すこと叶わず。また、器を超えた魔力を宿すことも不可能とされる。されど、この術はその理を覆す』――これだ……! きっと、これが魔力を増やす方法!」
ようやく見つけた、魔力を増やす方法。これで、ルシアの魔力を増やすことが出来る!
「えっと……『まずは魔力がなぜ他人に譲渡できないか……』、今はそれはいいから方法は……」
長い説明文をすっ飛ばして、方法を探していく。
「『魔力を譲渡するには杖を用いる事が肝要だ。杖で』……もうちょっと先かな。『杖で魔力を変異させたのち、口づけにて魔力を譲渡を行う』――えっ」
魔力を増やすには、口づけが必要? それを知った瞬間、沸騰したように体が熱くなった。
えっ、ちょっ、ま……待って!? ど、どうしてそんなことが必要なの!? ち、違うやり方はないの!?
大慌ててで文章の続きを読むが、そこにはなぜ口づけが必要なのか懇切丁寧に書いてあるだけだった。
それを読んで思うのは、その方法が最善だという理由を頭を殴られながら教えられたこと。読み終わって理解する頃には、私はノックアウトされていた。
机に突っ伏して頭の中を整理しようとする。だけど、どくん、どくん、と鼓動は少しも静まってくれない。
頭の中でルシアの顔が浮かぶ。柔らかそうな黒髪。私を見て優しく笑う瞳。研究に夢中になって目を輝かせる姿。私の名前を呼ぶ、あの柔らかな声。
「……ルシア」
自然と名前が零れる。それだけで、心が心地よくなっていく。その瞬間、私は気づいてしまった。
「あれ……?」
おかしい。こんなに恥ずかしい方法なのに。口づけなんて、普通なら絶対に嫌だと思うはずなのに。ルシアが相手だと想像した途端、その嫌悪感がどこにもなかった。
それどころか――どくん、と鼓動が大きく高鳴る。顔が熱い。胸の奥がくすぐったくて、落ち着かない。
「な、なんで……?」
……期待、している? ルシアと口づけをすることを?
これはルシアの魔力を増やすための手段。それ以上でも、それ以下でもない。魔法使う過程で生じるだけの行為だ。
だけど、心はそんな風には思っていない。それを待ち望んでいたかのように期待して、これからそれが出来ると思うと心が弾んでいた。
それって、つまり――私がルシアと口づけをしたいと思っていたという事だ。そして、どうしてそんな気持ちになるかというと――。
「私……ルシアの事が好き?」
そう呟くと、鼓動が速く鳴った。まるで、言葉を肯定するように。




