26.魔力を増やす方法(ティアリス視点)
「ティアリス様、書庫の許可が下りました」
「本当!?」
専属の侍女の言葉に嬉しくなって声を上げた。そして、身だしなみを整えると、一目散に目的の書庫へと向かっていった。
王宮の最奥部にある王立大書庫。
そこは王家が代々集めてきた膨大な知識が眠る場所であり、歴史書や魔法書、古文書、他国から献上された希少な書物まで保管されている、王国最大の書庫だった。
しかし、その価値ゆえに立ち入れる者は限られている。
国王をはじめとする王族や一部の宮廷魔法使い、学術院の責任者など、ごく限られた権限を持つ者だけ。入室には厳しい審査があり、閲覧できる本も権限ごとに細かく定められていた。
今回は、古代魔法の研究に必要な資料を探すという名目で、ようやく閲覧許可が下りたのだった。
書庫に入るとその先に広がっていたのは、天井まで届く本棚が幾重にも並ぶ、静寂に包まれた巨大な空間だった。
「……すごい」
思わず息を呑む。ここには、ルシアと一緒に探し求めている古代魔法の手掛かりがあるかもしれない。
そんな期待を胸いっぱいに抱きながら、私は古代魔法の本を探し始めた。
◇
それから私は、書庫に籠る日々を送った。時間の許す限り書庫に籠り、魔力を増やす方法が記された古代魔法の文献を片っ端から読み漁る。
本は持ち出し厳禁。そのため、情報を得るには書庫へ通い続けるしかなかった。だから私は、それ以外のすべてを後回しにした。
朝日が昇る直前まで本を読み続け、ほんのわずかな仮眠を取る。朝になると、登校ぎりぎりまで書庫に籠った。
授業中は眠気を堪えきれず、空いた時間は少しでも体力を回復させることだけを考える。そして最後の授業が終わると、一目散に王宮へ戻り、夕食すら忘れて書庫へ向かった。
生活は、すっかり変わってしまった。その代わりに失ったものは、あまりにも大きい。
ルシアと過ごす時間。
一緒に教室に行く時間も、他愛ない話をする時間も、隣で笑い合う時間も、全部なくなってしまった。
会いたい。その一言だけが、胸の奥で何度も何度も繰り返される。
書庫でページをめくるたび、「今ごろルシアは何をしているんだろう」と考えてしまう。ふと顔を上げれば、いつものように隣で本を読んでいる姿を探してしまう。
でも、そこには誰もいない。会えない時間が長くなるほど、胸の奥にぽっかりと穴が開いていくようだった。
声が聞きたい。笑顔が見たい。ただ隣にいてほしい。
そんな当たり前だった日々が、こんなにも愛おしかったのだと、離れて初めて思い知らされた。
寂しい。苦しい。会いたい。
その想いは日に日に膨れ上がり、まるで飢えのように心を蝕んでいく。このままでは、気が狂ってしまいそうだった。それでも私は、本を閉じることだけはしなかった。
全部、ルシアのため。
魔力を増やす方法さえ見つけられれば、きっとルシアは喜んでくれる。もう一度、あの笑顔を見られる。
そのたった一つの希望だけを胸に抱いて、私は身が裂けるような想いに耐えながら、今日も静かな書庫でページをめくり続けた。
◇
「では、今日の授業を終わります」
先生がその言葉を口にすると、私は教材をカバンの中にしまい、すぐに立ち上がって教室を出ていく。
早く書庫に行って今朝の続きを――。
「ティアリス!」
その時、手をグイッと引かれた。驚いて振り向くと、そこにはルシアが立っていた。それだけで、鼓動が高鳴る。
そしたら、急にルシアへの思いが溢れてきた。このまま二人で一緒の時間を過ごしたい。そう思う気持ちをグッと堪える。
「ごめん、ルシア。今、ちょっと急いでいて……」
「急いでってここのところ毎日だよ? それに、なんだか疲れているようだし……。もしかして、何かあった?」
「えっと……」
魔力を増やす方法を探していると伝えた方がいいのだろうか? だけど、もし見つからなかった時の事を考えると、ルシアに心労はかけたくない。
「ちょっと王宮で色々あって……。ほ、ほら! 古代魔法を使えるっていう話しが広まったから、それで……」
申し訳なさそうにそう言うと、空気がピリついた。明らかにルシアが不機嫌になっている空気だ。
「……そうだよね。ティアリスは古代魔法が使えるようになったんだから、以前のようにはいかないよね。きっと、周りから注目をされているし、放っておかれないよね」
「そ、そういうルシアも大人気じゃないですか。ずっと、誰かと一緒にいて、楽しそうですよ?」
古代魔法のことを聞かれるルシアはとても楽しそうだ。今まで全然見向きもされなかったから、話す機会があって嬉しいんだと思う。
だけど、それをいうとルシアは不機嫌そうに眉を寄せた。まるで、そう言って欲しくないように……。
「えっと、ごめんなさい。本当に時間がないんです。また、時間が出来ましたらちゃんと言いますから!」
「えっ、ティアリス!」
ルシアの手を振り切って私は廊下を走った。このまま一緒にいれば、ずるずると一緒にいてしまう。それだと、本を読む時間が減ってしまう。
一緒に居たい気持ちをグッと堪え、私はルシアの前から去って行った。




