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魔力1令嬢と欠陥王女は魔法が使いたい! ~誰も使えない古代魔法で人生逆転します~  作者: 鳥助
第二章

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23.夢を掴む

 どんどん距離を縮めてくるティアリス。


 魔法の完成が近づくにつれて、発動まであと一歩という手応えを感じられるようになっていく。そして、それに合わせるように、私たちの距離も少しずつ縮まっていった。


 気づけば、ティアリスが隣にいるのが当たり前になっていた。一緒に術式を考え、分からないところがあれば顔を寄せ合ってノートを覗き込み、気づけば肩が触れ合っている。


 最初はその度に慌てて離れていたのに、今ではそれすら自然なことになっていた。


 ティアリスが隣にいる。それだけで、不思議と心が落ち着く。


 朝、起こした時に「おはようございます」と微笑みかけられるだけで一日が明るく始まる気がしたし、術式を一つ理解して嬉しそうに笑う姿を見れば、まるで自分のことのように胸が温かくなった。


 その笑顔をもっと見たい。そんな気持ちが、いつの間にか私の中で大きくなっている。


 だからだろうか。私は気づけば、ティアリスのことばかり目で追うようになっていた。


 ノートへ向かう真剣な横顔。考え込むと無意識に髪へ触れる癖。美味しそうに食事を頬張る姿。眠くなると小さくあくびを我慢する仕草。


 そんな何気ない一つひとつが目に入るたび、自然と頬が緩んでしまう。それだけじゃない。


「ティアリス、髪が少し乱れてるよ」


「あっ……ありがとうございます」


 気づけば髪を整えてあげていたり。


「今日は根を詰めすぎ。少し休憩しよう?」


「えっ、でも……」


「甘いお茶も淹れるから」


「……はい」


 疲れていそうなら休ませたくなったり。食事の量が少なければ「ちゃんと食べなきゃ駄目」と心配してしまうし、寒そうにしていれば毛布を掛けてしまう。


 以前なら、こんなことまではしていなかったはずなのに。どうしても放っておけない。世話を焼いていると、ティアリスは決まって嬉しそうに笑ってくれる。


「ありがとうございます、ルシア」


 その笑顔を見るたびに、胸の奥がふわりと温かくなる。それだけで十分だと思えてしまう自分がいた。


 ……あれ? 私たちって、古代魔法を学ぶために一緒に暮らし始めたんだよね? なのに最近は、魔法のことを考えている時間と同じくらい、ティアリスのことを考えている気がする。


 術式のことで悩むより先に、「ちゃんと眠れたかな」とか、「今日は笑ってくれるかな」なんてことばかり頭に浮かんでしまう。


 共同生活の目的は、古代魔法の習得。そのはずなのに。いつの間にか私の心は、魔法よりもティアリスに振り回されるようになっていた。


 ……これって、本当に大丈夫なんだろうか。自分でも分からない感情に戸惑いながら、今日もまた私は、隣で楽しそうに笑うティアリスから目を離せずにいた。


 ◇


「今日はなんだか、いけそうな気がします」


 静かな決意を宿した声でそう言うと、ティアリスは中庭の中央へ歩み出て、そっと杖を構えた。


 ついさっきまで、魔力の流れを確認するために何度も抱き合っていた。魔力を集め、術式を組み上げ、杖へと収束させる感覚は、もう身体にしっかりと刻み込まれているはずだ。


 だからこそ、胸の奥で確かな予感が膨らんでいた。今日なら、きっと。


 私は息を潜め、ティアリスの姿を見守る。ティアリスはゆっくりと目を閉じ、大きく息を吸った。そして、感知した全身の魔力を少しずつ杖へと集め始める。


 魔力は乱れることなく、川の流れのように滑らかだった。以前は途中で散ってしまっていた魔力が、今日は驚くほど素直に一つへとまとまっていく。


 そのまま意思を乗せ、術式を組み上げる。魔力が幾重にも重なり合い、一つの魔法へと姿を変えていく様子がはっきりと伝わってきた。


 ……いい。いつもよりずっといい。魔力に迷いがない。


 あと一歩。あと一歩で――。


「……っ!」


 ティアリスが杖を握る手に力を込めた、その瞬間。杖の先が眩しく輝き――。


 ――ドォンッ!!


 乾いた轟音とともに、杖の先で小さな爆発が巻き起こった。


 舞い上がる土煙。風に揺れる草花。頬を撫でる熱気。


 その光景を目にした私は、思わず目を見開いた。今のは、間違いない。術式が完成し、魔法が世界へと放たれた証。古代魔法が――発動したんだ。


「ティアリス!」


 気づけば私は駆け出していた。


「魔法が発動したよ!」


「ほ、本当ですか……?」


 ティアリスは信じられないというように自分の杖と、その先に残る魔力の余韻を見つめる。やがて、その意味を理解した瞬間――ぱっと花が咲くような笑顔が、その顔いっぱいに広がった。


「私……魔法が使えるんですね!」


「うん、そうだよ! ティアリスはちゃんと魔法が使えるんだよ!」


「本当に……本当に……。全てルシアのお陰です! ルシアが親身に教えてくれたから、私は魔法を使えました!」


「ティアリスの努力の成果だよ!」


 嬉しさのあまり、お互いに抱きしめ合う。ぎゅっと力強く抱き締めると、ティアリスも負けないくらい強く抱き返してくれた。


「ありがとうございます……ありがとうございます……!」


 震える声からは、これまで積み重ねてきた努力と、ようやく辿り着いた喜びが溢れていた。


 何度も失敗して。何度も諦めそうになって。それでも前を向き続けたからこそ、この瞬間がある。


 そのことが嬉しくて、私まで胸がいっぱいになる。


「本当に頑張ったね、ティアリス」


「はい……っ!」


 ゆっくりと身体を離す。名残惜しさを感じながら顔を上げると、すぐ目の前でティアリスと視線が重なった。


 一瞬だけ、お互いに何も言えなくなる。そして――。


「ふふっ」


「あははっ」


 どちらからともなく笑みが零れた。嬉しくて。おかしくて。ただ隣にいる相手と、この喜びを分かち合えることが幸せで。言葉なんてなくても、それだけで十分だった。


 青空の下、私たちは何度も目を合わせては笑い合った。その笑顔は、今日という日が二人にとって忘れられない一日になったことを、何よりも物語っていた。

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