15.感知と収束
「じゃあ早速、古代魔法の実践に移ろうか。杖を持って立って」
指示をすると、ティアリスは言われた通りに杖を握り、姿勢を正した。
「古代魔法の魔法構築理論は、『感知』『収束』『構築』『発動』の四段階。まずは最初の感知から始めよう」
「感知なら、さっきもやっていましたけど……」
「さっきやったのは、手を使って魔力を感じ取る練習だよ。でも、古代魔法で必要なのは全身の魔力を感知することなんだ」
私はティアリスに向き合うと説明を続ける。
「現代魔法は、体そのものが魔法を組み立てる器になっている。だから、体の中にある魔力をそのまま魔法として発動できる」
「ですが、古代魔法は違うんですね?」
「うん。古代魔法は、一度体中の魔力を杖へ集めてから魔法を構築する。だから、まずは全身に流れる魔力を感じ取り、どこにどれだけあるのかを把握しなくちゃいけないんだ」
「それが、感知……」
「そう。そして、全身の魔力を正確に感じられるようになれば、次の収束で魔力を無駄なく杖へ集められるようになるよ。だから、体中の魔力を感じるのが第一段階なんだよね」
「……分かりました。やってみます」
強く頷くと、目を瞑り集中する。すると、ティアリスの体から魔力の気配がする。王族は魔力が高いと言われていたけれど、これはとんでもない量を秘めているみたいだ。
これだけ魔力があれば、きっとティアリスも魔力をすぐに感じてくれるだろう。そう思っていたのだけれど――。
「なんか、ちょっとした感覚がある感じでした……」
「うーん、そっか。今まで魔法とは無縁だったから、感覚が鈍っているのかな?」
感覚は使っていないと鈍るし、これからじっくりと鍛えるしかないかな?
「あっ、でも……ルシアの魔力はとても良く感じられました」
「まぁ、感じられやすいように魔力を流していたからね。だったら、今回も私の魔力で誘導しようか?」
「そ、そんなことが出来るんですか? お、お願いします! ルシアの魔力があれば、自分の魔力を感じられるようになると思うんです!」
身を乗り出して、乗っかってきた。……ティアリスってこんなに積極的だったっけ? 前よりも古代魔法に興味を持ってくれたってことかな?
「じゃあ、魔力を感じるために抱き合――」
――抱き合う。
その言葉を口にしようとした瞬間、頬が熱くなるのを感じた。
あれ? なんで? 前にも魔力を感知させるために体を触れ合わせたことはある。その時は、ただ効率のいい方法だと思っていただけだった。
なのに、今はその光景を想像しただけで、胸がどきりと跳ねた。
「……ルシア? どうかしました?」
不思議そうに首を傾げるティアリス。その姿を見るだけでも恥ずかしくて、私は慌てて視線を逸らした。
「え、えっと……」
落ち着け、私。これは魔法の訓練。研究。実験。それ以上でも、それ以下でもない。そう言い聞かせるのに、鼓動は一向に静まってくれなかった。
「じゃ、じゃあ……抱き合っても、いい?」
「えっ……はい」
遠慮がちにいうと、ティアリスも遠慮がちに返事をした。緊張して全てがぎこちない。なんでこんなに緊張するのだろうか?
「杖は手に持っていて……。出来れば、魔力を感知した後は杖に魔力を収束する工程に入りたいから。その時の私の魔力の流れも感じて」
「だ、抱き合ったまま……ですか。……頑張ります」
そう、これはティアリスのため。古代魔法を使う一歩を踏み出すために必要なことだ。それを自分に強く言い聞かせると、ティアリスに近寄った。
お互いにゆっくりと距離を縮め、片手を伸ばす。近づくだけで鼓動が高鳴って、どうしようもない。
そうして、ゆっくりと体を寄せると、片手でお互いを抱きしめる。その瞬間、柔らかい体の感触が伝わってきて、一気に熱くなった。
うわ……これ……どうしよう。鼓動がどんどん高鳴って、触れた体から伝わっていって恥ずかしくなる。……だけど、離れたくないような。なんで、こんなに矛盾しているの?
「えっと……ルシア? 魔力を流すのは……」
「えっ! あっ! ごめん! 今、流すね!」
そっちにばかり気を取られて、魔力のことを忘れてた! 集中して魔力を高めると、体中を巡らせる。ティアリスが感知しやすいように変化も付ければ……。
「どう? 感じる?」
「ちょっと、待っててください……」
そのままティアリスは黙り込んでしまった。その間は絶対に体を離さない。
あっ、いい匂い……。近づいていると、匂いまで感じ始めた。爽やかでいてほんのりと甘い匂いがする。……これ、癖になりそう。
――その時、ティアリスに強く抱き寄せられ、首筋に顔を埋められる。
「えっ、なっ、どっ、どうしたのっ?!」
「……ちょっと、感じられなくて」
「あっ、そ、そうだったんだ……」
それなら仕方がない? だけど、首筋でティアリスの体温と呼吸を感じると、体の熱が上がる。ぞわぞわとした感覚が広がって、力が抜けていく感じ。
さらりとした髪が落ちる感触に体がビクッとなり、少しの感触でも体が反応してしまう。早く終わって欲しいような、このままの方が――。
「――いい匂い」
……もしかして、嗅がれている? それを自覚すると、カーッと顔をが赤くなる。凄く……恥ずかしい。叫びだしたいほどに感情がぐちゃぐちゃになる。
それでも、自分を律して、魔力を流し続ける。
「あっ、感じ始めました」
「そ、そう? だったら、このまま収束に行くね」
「はい、お願いします」
平常心を保ちつつ、杖に魔力を収束させる。体中の魔力が杖に集まっていく感じが広がる。
すると、ティアリスの魔力の動きが変わった。私と同じように魔力が杖に集まっていく感じだ。これは……上手くいっている。
「……うん、上手だよ。そのまま杖に魔力を収束させて」
「はい」
ティアリスの集中力が上がり、魔力がどんどん杖に集まっていく。これだけ出来るんだったら、収束も完璧だ。あとは反復練習のみ。
「もう、いいよ」
そう言って、体を離す。緊張が解けて、心がホッとした。ティアリスを褒めようと顔を見ると、名残惜しそうな顔で見つめてきた。
その顔に心がざわついた。まるで、私の心を現しているようで、堪らない気持ちになった。
いや、こんな気持ちは可笑しい。だから、私はなんでもないフリをしてティアリスを褒めた。




