14.古代魔法の授業
ティアリスに適した杖が決まると、それを元に空を飛ぶ用の大杖を作った。これで、道具は全部揃った。
「じゃあ、ここから本格的に古代魔法を発動する授業を始めるよ」
改めてティアリスと向かい合うと、私は自分の杖を手に取った。焦げ茶色の厳選に厳選を重ねた、私だけの杖だ。
「まず最初に、現代魔法と古代魔法の違いから説明するね。現代魔法は、体の中で魔法を構築させてから発動する魔法なんだ。でも、古代魔法はそこが決定的に違う」
私は杖を持ち上げた。
「古代魔法は、体の外で魔法を構築するんだよ」
「体の……外ですか?」
「うん。体の中で魔法を作るんじゃない。体から魔力を杖へ流して、その先で魔法を組み立てる。つまり、この杖が魔法を作る場所になるってこと」
「そんなことが……できるんですか?」
「普通は難しいよ。だって、自分の力が及ばない場所で魔法を作ろうとするんだもの。だからこそ昔は魔法使いは貴重だったし、難しい構築のせいで古代魔法は失われたんだと思う」
そう言って私は杖を優しく撫でた。
「でも、杖はただの木じゃない。この木材そのものに、魔力を魔法へと構築する力が秘められているの」
「杖自体に……」
「だから、ティアリスに合う杖を探したんだよ。杖によって魔力との相性が違うからね。そしてもう一つ」
私は杖に連なってはめ込まれた魔石を指差した。
「この魔石にも意味がある。古代魔法では魔法の構築を補助する役割を持っているんだ」
「補助、ですか」
「うん。杖だけでは足りない部分を魔石が支えてくれる。魔力の流れを安定させたり、構築を助けたりしてくれるんだよ」
私は杖を両手で持ちながら、小さく笑った。
「ここまで聞いたら、もう分かるよね?」
「……はい。古代魔法は、魔法を構築するために沢山の補助を使っているんですね」
「正解」
思わず笑みが浮かぶ。ちゃんと話を聞いてくれているようだ。
「実はね、体の中で魔法を構築する方法って、一番効率がいいわけじゃないんだ」
「えっ?」
「体の中には、魔法の構築を妨げる要素がたくさんあるの。魔力の流れの乱れだったり、体そのものが抵抗になったりね。だから、どうしても魔力を十分に活かしきれないんだよ。でも、古代魔法は違う」
私は杖を持ち上げた。
「杖は、魔法を構築するためだけに作られた道具。杖の素材も、はめ込まれた魔石も、すべてが魔法の構築を助けるために存在している」
「つまり、魔法の構築に必要なものだけで組み上げられるんですね」
「そう。余計なものがなく、補助だけを受けながら魔法を構築できる。だから魔力のロスが少なくなって、構築効率が飛躍的に上がる。その結果――発動する魔法は、現代魔法よりも高い威力を発揮できるんだ」
そういうとティアリスは納得したように頷いた。そして、疑問を投げかけてくる。
「だから、ルシアは古代魔法を使おうと思ったんですか?」
その素朴な質問に昔の気持ちが蘇る。すると、自然と言葉が出ていく。
「最初は魔力が少なくても発動出来るっていう話を聞いたからだね。そこから、勉強していくうちに古代魔法がいかに高い知識と技術で魔法を構築していることに気づいて、そこからのめり込んでいったね。でも、一番は――魔力を増やす手段があるって記述を見つけたからなんだよね」
「えっ……それって……魔力が1しかないルシアにとって」
「うん。魔力を増やして、魔法を使えるチャンスかもしれないんだ。ずっと魔法が発動しないのは魔力が足りなかったからだったからね」
そう、私がここまで古代魔法の固執することになったのは、魔力を増やす手段があるかもしれないからだ。それがどんなものかは知らない。だけど、もしその手段が使えれば、魔力を増やして私も魔法が使えるようになるかもしれない。
だから、私は諦めない。
「――それ、私も協力できますか!?」
突然、ティアリスが身を乗り出してきた。
「それって、古代魔法を扱えるようになったら、使えるかもしれない手段なんですよね!?」
「えっ? ……多分、古代魔法に関する手段だと思うんだよね」
「だったら!」
ティアリスは勢いよく立ち上がった。瞳には先ほどまで以上の強い光が宿っている。
「私が古代魔法を使えるようになります!」
「えっ?」
「古代魔法を習得して、その手段を見つけます。もし魔力を増やす方法があるなら、必ず探し出します」
真っ直ぐな瞳が、私だけを見つめていた。
「そして、ルシアにも魔法を使えるようになってもらいます。絶対に……必ず」
「ティアリス……」
思わず、その名前が零れた。そこまで私のことを考えてくれていたなんて、想像もしていなかった。
私が魔法を使えるようになることを、自分のことみたいに願ってくれている。その言葉が胸の奥へ真っ直ぐ届いて、心臓がどくん、と大きく脈打つ。
嬉しい――だけど、それだけじゃない。
胸の奥が熱くなって、落ち着かない。息をするたびに鼓動が速くなっていく。こんな気持ちになったことなんて、一度もなかった。
誰かにここまで真剣に想ってもらえたことなんてなかったからだろうか。それとも、目の前にいるのがティアリスだからなのだろうか。分からない。
分からないのに、その澄んだ青い瞳から目が離せなかった。
もっと見ていたい。もっとその声を聞いていたい。
そんな気持ちが胸の中で静かに膨らみ始めていることに、私はまだ気づいていなかった。
「……ありがとう」
ようやく絞り出せた言葉は、それだけだった。でも、その一言には、言葉にできないほどの温かな想いが詰まっていた。
「今まで私は、ルシアに助けてもらってばかりでしただから今度は、私がルシアを助けたいんです」
その言葉には迷いがなかった。王女としての義務でも、恩返しだからというだけでもない。一人のティアリスとして、心からそう思っているのが伝わってくる。
「二人で魔法が使えるようになりましょう。私……頑張ります」
「……うん。私も、ティアリスに負けないように頑張る」
お互いに見つめ合うだけで、まるで抱きしめられているような錯覚になる。気持ちが重なるって、こんなにも――。




