10.杖づくりと杖選び
ティアリスが真剣な顔で枝を削り取る。手を止めてじっと杖を観察する。しばらく見つめていると、こちらに視線を向けてきた。
「……出来たと思います。見てもらっていいですか?」
渡された杖を見る。持ち手の所は直線的か。そこから先端までは、細長くなっているか。しっかりと確認すると――。
「うん、これは合格だね」
「本当ですか!? よ、良かった……」
「じゃあ、後は全体にやすりをかけて、凹凸が無くなるようにすること」
「それは簡単そうですね。頑張ります」
杖と紙やすりを手渡すと、ティアリスは気合を入れ直して杖を磨き始めた。その様子を眺めながら、私は杖に装着する魔石の研磨をしていく。
二人で集中して作業をしていくと、ティアリスの視線がこちらを向いた。何度もチラチラと見てきて……何かを話したそうにしている?
「どうしたの?」
「あっ、えっと……つ、杖に魔石をはめ込むんですね。てっきり、木だけだと思ってました」
「あぁ、最初は木だけだったんだよ。それが、長年の研究で魔石をはめ込んだ方が、魔力伝達が効率もよくなって、術式展開も素早くなって、発動に補佐がつくんだよね。現代魔法はそれらを自分の体で全部やらないといけないから、負担が大きいんだ」
「なるほど、効率を求めると言っても、やり方が全然違うんですね」
「杖の発展がのちの魔道具を生み出したんだよ。魔道具も機能の違う魔石を組み合わせて、回路を形成して、作っているでしょ? それは古代魔法の杖の製造方法の模倣なんだよね」
古代魔法を調べれば調べるほど、本当に凄いことばかり。古臭い技術だと人は笑うかもしれないけれど、これは技術の結晶だ。正直言って、現代魔法を凌駕するほどの力があると思ってもいい。
「古代魔法から現代魔法は技術の進歩だって言う人は多いけれど、私はそうは思わない。この緻密に組まれた技術は芸術の域にあると思う。考え込まれた構築、展開、発動。これが人間の考えたことだって知れば知るほど、人間の可能性っていうのは凄いなぁって思うよ。それに――」
「も、もう! ルシアの話しが長すぎます!」
「あー、ごめん。つい、夢中になるとね。それで、杖の方はどう?」
「凄くつるつるになりました!」
杖を受け取って触ってみると、確かに凹凸がすべて削れた綺麗な杖が出来た。
「うん、上出来だよ。じゃあ、あとは魔石を埋め込むだけだね。それは私の方がやるから」
「お願いします」
私は杖に工具を当てると、小さな穴を開け始めた。
◇
「よし、これで杖が三本で来た」
机の上には仕上がった杖が三本もあった。乳白色に近い淡い木肌の杖、深い黒褐色に染まった杖、温もりを感じさせる飴色の杖。
「この中から自分に合う杖を選ぶ。選んだら、今度は同じ木で大きな杖を作る」
「大きな杖、ですか? もしかして、これはただの試作品ですか?」
「いや、この小さな杖で魔法を使うよ。大きな杖は空を飛ぶ用ね。現代魔法だとそのまま空を飛んでいるけれど、古代魔法が使われていた時代は大きな杖に跨って空を飛んでいたみたい」
「なるほど、そういうことですか。じゃあ、この中から選びますね」
そう言って、ティアリスは一本ずつ杖を手に取った。
「杖の選び方は簡単。魔力を通して、一番感触のいいものを選ぶこと」
「感触、ですか?」
「魔力にも感触があってね、流れを感じて、良さを実感するのが大事」
「ま、魔力の流れを? ……今まで使ってこなかったので、感じられるかどうか……」
「それもそうか。だったら、魔力を流す練習から入ってみよう。杖を握って」
そういうと、ティアリスは一本の杖を握りしめる。私はその手の上に自分の手を重ねる。
「っ!? えっ、何を!?」
「魔力の流し方を教えようと思ってね。ほら私、魔力が少ないから――」
「わ、分かりました! あの時と同じですね!」
妙に強気な感じが……頬も赤いような気がするけれど、どうしてかな? まぁ、やる気が出たのは良いことだよね。
「じゃあ、私を感じて」
「か、感じ……」
「……あぁ、魔力を感じてっていう」
「わ、分かってますよ!」
……ティアリスが照れると、こっちも恥ずかしくなってくる。深呼吸をして手に魔力を流す。
「ねぇ、感じた?」
「……全然分かりません」
「やっぱり、使っていなかったから感覚が鈍っているのかな? しばらくこのままで練習していくよ」
「し、しばらくですか? ……も、もつかな……」
「なんか言った?」
「い、いえ! なんでもありません!」
慌てる姿を見て、首を傾げる。まぁ、なんでもないなら大丈夫かな。
それから私たちは魔力の流し方について、練習をすることになった。
◇
ぐったりとティアリスが机に突っ伏し、悔しそうに唸っている。今にも叫びだしそうな程に複雑な視線をこちらに向けている。
「いやー、一週間経っても進展がないとはねー」
「す、すいません……。私が不甲斐ないばっかりに……。ルシアがこんなに頑張ってくれているのに、私は……」
「いやいや、これはこれで面白いデー……じゃなかった」
「今、私をデータ扱いしませんでした?」
「き、聞き間違いだよ!」
じろりと睨まれると、肝が冷える。いつもは穏やかなティアリスがここまで感情をさらけ出すなんて、よっぽど反応がないのが悔しいらしい。
すると、組んだ腕に顔を埋めた。
「こんなに期待してくれていたのに、全然成果が出なくて……。私、迷惑ばかりかけて……。本当に申し訳なくて……」
辛い気持ちを吐露した。期待をされているのに全然成果が出ない。その気持ち、痛いほど分かる。私もそうだから。
辛いよね、悔しいよね、自分を責めちゃうよね。もがいているのにどんどん沈んでいくような感覚は辛いという言葉では言い表せない。
だけど、そこでめげちゃいけない。成功するまで何度も続けることが重要なんだ。
だから、ここは――。
「よし、気分転換しよう! 今度の休み、一緒に町に出かけよう」
一旦離れて、リフレッシュするのに限る。




