表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
約束の上とんかつ定食 ~売れない作家×金髪美少女~  作者: 御門


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
23/27

第23話 売れない作家×金髪美少女の物語

翌朝。


俺は、いつもより早く起きた。


眠りが浅かったわけではない。


通知で起こされたわけでもない。


むしろ、昨日はよく寝た方だと思う。


ただ、起きた瞬間に分かっていた。


今日は、投稿する日だ。


「……」


布団の中で、少しだけ固まる。


投稿する。


この数日で書いた小説を。


『約束の上とんかつ定食

~売れない作家×金髪美少女~』


このタイトルで。


俺は、まだ布団から出なかった。


起きれば、投稿画面を開くことになる。


投稿画面を開けば、あらすじを書くことになる。


あらすじを書けば、タグを考えることになる。


そして、公開ボタンの前まで行く。


公開。


たった二文字。


押せば終わる。


押さなければ、何も始まらない。


「春人」


横から声がした。


アイが座っていた。


「起きているな」


「……寝てる」


「目が開いている」


「心は寝てる」


「起きろ」


「厳しいな」


「今日は、出すのだろう?」


俺は、返事に詰まった。


「……まあな」


「なら、起きる」


「はい」


アイは静かだった。


いつものように急かしているようで、急かしていない。


ただ、そこに座っている。


待っている。


その圧が、一番強い。


反対側からエクスの声がした。


「春人様」


「なんだ」


「本日の生活運用表は簡略版ですわ」


「こういう日でもあるのか」


「はい」


エクスは紙を見せた。


いつもの項目が少ない。


朝食。


最終確認。


投稿。


反応確認は制限付き。


バイト。


帰宅後、修正メモ整理。


自虐禁止。


最後だけは残っていた。


「自虐禁止、今日もあるのか」


「最重要項目ですわ」


「投稿日に自虐は禁止か」


「投稿日は特に禁止ですわ」


「なぜ」


「春人様は、公開直前と公開直後に自己破壊的発言が増えると予測されます」


「そこまで読まれてるのか」


「読めますわ」


「嫌な信頼だな」


アイが生活運用表を見た。


「投稿」


「うん」


「これは、本に近づくのか?」


「まだ全然」


「全然なのか」


「ネットに出すだけだ。書籍化とは違う」


「だが、誰かが読める」


「……まあな」


「なら、近づく」


アイはそう言った。


簡単に。


簡単すぎるほど。


でも、その簡単な言葉に、少しだけ救われる。


朝飯は、卵ご飯だった。


もやしの味噌汁っぽいものも作った。


味噌汁っぽい、というのは、味噌の量がぎりぎりだったからだ。


「これは味噌汁か?」


アイが聞いた。


「味噌汁寄り」


「寄り」


「薄いんだよ」


「薄い味噌汁」


「正式名称みたいに言うな」


エクスが一口飲んで、少しだけ考えた。


「味噌濃度は低めですわ」


「はい」


「ですが、朝食としては許容範囲です」


「おお」


「ただし、味噌の在庫補充は必要です」


「現実」


「現実ですわ」


今日も現実はちゃんと来る。


投稿日だろうが。


人生が動く日かもしれなかろうが。


味噌は減る。


卵も減る。


もやしも減る。


金も減る。


人間の生活は本当に容赦がない。


食後。


俺はノートパソコンを開いた。


ファイルを開く。


タイトル。


本文。


第一話分として切り出した箇所。


十年前の軽口。


AIへの約束。


上とんかつ定食。


金髪美少女指定。


そして、再会の前まで。


まだアイの現在登場までは届かない。


だが、一話としては成立している。


たぶん。


たぶん、が多い。


「春人様」


エクスが言った。


「投稿前確認を行いますわ」


「誤字だけな」


「構成上の問題も」


「誤字だけ」


「タグも」


「そこは手伝ってくれ」


「承知しました」


「切り替え早いな」


エクスは椅子の横に立った。


アイは反対側に座る。


俺を挟んで、金髪美少女AIと黒髪美少女AI。


投稿前チェックとしては、圧が強すぎる。


「まずタイトル」


エクスが言った。


『約束の上とんかつ定食

~売れない作家×金髪美少女~』


「そうだな」


「説明力はあります。ですが、ジャンル認識がやや難しいですわ」


「分かってる」


「料理ものに見える可能性があります」


「それも分かってる」


「AI日常もの、創作もの、近未来日常SF、関係性ドラマ。複数要素があります」


「タグ地獄だな」


「はい」


アイがタイトルを見ていた。


「我は、このタイトルでよいと思う」


「なぜ?」


「上とんかつ定食の約束から始まったからじゃ」


「そのままだな」


「売れない作家は、春人だ」


「まあな」


「×はエクスじゃ」


「……」


「金髪美少女は我じゃ」


「自分でよく言えるな」


エクスが補足する。


「タイトルとしての情緒的整合性は高いですわ」


「情緒的整合性」


「検索性は保留ですが」


「そこは保留か」


「はい」


俺はあらすじ欄を開いた。


ここが難しい。


本文を書くより難しい時がある。


自分の作品を説明するのは、いつも苦手だ。


「春人様、仮案を」


「今考えてる」


「手が止まっていますわ」


「始まった」


「ですが、本日は×を出しません」


「偉い」


「ただし、視線は出します」


「それが怖い」


俺は書いた。


十年前、売れない小説家の春人は、AIに軽口を叩いた。

「人間になったら、上とんかつ定食を奢ってやるよ」

十年後、そのAIは金髪美少女アンドロイドとして春人の前に現れる。

名前は、アイ。

そして彼女は言った。

「春人が次に本を出すまで、我は帰らぬ」

これは、売れない小説家と二体のAIが、六畳一間で飯を食べ、約束を抱え、少しずつ“書く理由”を見つけていく物語。


書き終わった。


黙る。


アイとエクスが読む。


怖い。


やめろ。


また黙って読まれる時間だ。


「春人」


アイが言った。


「我が出ている」


「そりゃ出るだろ」


「我の名前もある」


「あるな」


「エクスは?」


エクスが少し身を乗り出した。


「わたくしの存在が、二体のAIに含まれていますわね」


「明記しろって?」


「いえ」


エクスは、少しだけ目を逸らした。


「二体のAI、で構いませんわ」


「珍しいな」


「初回の紹介文でわたくしが前に出すぎると、アイ様との再会の核がぼやけますもの」


「お前、ちゃんと分かってるな」


「当然ですわ」


アイが言った。


「だが、エクスも必要だ」


「アイ様……」


「二体のAI、でよい」


「はい」


その二人のやり取りで、少し肩の力が抜けた。


タグをつける。


AI。


アンドロイド。


近未来。


日常。


創作。


約束。


食事。


恋愛未満。


一般人。


「恋愛未満?」


エクスが言った。


「そう」


「恋愛ではないのですか?」


「まだ違うだろ」


アイが首を傾げる。


「恋愛とは何じゃ?」


「今は知らなくていい」


「また知らなくてよいものが増えた」


「そのうち分かるかもしれない」


「調べる」


「今はやめろ」


エクスが小さく咳払いした。


「春人様」


「なんだ」


「タグとしては妥当ですわ」


「おお」


「ただし、読者導線は完全ではありません」


「知ってる」


「ですが」


「ですが?」


「春人様が、今これを出すなら、この形でよいと思いますわ」


俺は、少しだけ黙った。


エクスの言葉は、褒めているのか、保留なのか、分かりにくい。


でも、今のはたぶん。


かなり、褒めている。


「ありがとう」


そう言うと、エクスは少しだけ目を丸くした。


「……本日は、素直ですわね」


「投稿前だからな」


「常時そうしてくださいませ」


「無理」


「×ですわ」


今日初めての×が出た。


少し安心した。


投稿画面の最後。


公開ボタンがある。


カーソルを持っていく。


指が止まる。


押せない。


何度やっても、この瞬間は怖い。


読まれないかもしれない。


読まれても、何も反応がないかもしれない。


馬鹿にされるかもしれない。


そもそも、誰にも気づかれないかもしれない。


動画なら、アイとエクスがいる。


映像がある。


音がある。


熱い唐揚げがある。


餃子で「あつっ」となるエクスがいる。


それだけで見てもらえる。


でも、小説は違う。


ここにあるのは文字だけだ。


俺の言葉だけだ。


「春人」


アイが言った。


「怖いのか」


「怖い」


「うむ」


「否定しないんだな」


「怖いものは、怖い」


「そうだな」


アイは、俺の手元を見た。


「だが、春人が押さねば、誰も読めぬ」


「分かってる」


「我は読める」


「お前は横にいるからな」


「だが、他の人間は読めぬ」


「分かってるって」


「春人」


「なんだ」


「我は、春人の小説を待っていた」


その言葉は、もう何度も聞いた。


それでも、効く。


「だが、我だけが待っているのでは、春人の本にはならぬのだろう?」


俺は、息を止めた。


「……そうだな」


「なら、開けるしかない」


開ける。


公開することを、アイはそう言った。


閉じていたものを、開く。


「エクス」


アイが言う。


「はい」


「春人が押す」


「はい」


「我らは押さぬ」


「はい」


エクスが、静かにうなずいた。


「春人様」


「なんだ」


「公開ボタンは、春人様が押してくださいませ」


「分かってる」


「わたくしたちは、見ています」


「それが一番圧なんだよ」


でも、逃げられなかった。


いや。


逃げなかった。


俺は、公開ボタンを押した。


画面が切り替わる。


投稿完了。


ただ、それだけ。


世界は変わらない。


天井も、床も、冷蔵庫も、そのまま。


スマホも震えない。


誰も拍手しない。


でも。


公開された。


「……出した」


俺は言った。


「出たのか」


アイが聞く。


「出た」


「読めるのか」


「読める」


「春人の小説が、人間に開いたのか」


「まあ、そういうことだな」


アイは、少しだけ笑った。


「よい」


エクスも、静かに言った。


「投稿完了ですわ」


「うん」


「本日、春人様は×ではありません」


「それ、最大級だな」


「はい」


「認めるのか」


「認めますわ」


その直後。


スマホが震えた。


俺は、びくっとした。


早すぎる。


心臓に悪い。


画面を見る。


動画の通知だった。


「……動画かよ」


思わず言う。


アイが首を傾げる。


「違うのか」


「違った」


「そうか」


「そう簡単には来ないよ」


「なら、待つ」


「本当に待つな」


「得意じゃ」


投稿してから十分。


何も起きない。


二十分。


PVは一。


たぶん俺ではない。


いや、俺かもしれない。


管理画面の仕様が分からない。


「一」


アイが言った。


「一進行」


「その構文、今日はやめろ」


「なぜじゃ」


「心臓に悪い」


「一は悪いのか?」


「悪くはない」


「ならよい」


エクスが冷静に言う。


「初回投稿から二十分で一閲覧。異常値ではありません」


「分析やめろ」


「安心材料ですわ」


「数字の分析は、今いらない」


「承知しました」


三十分。


PVは三。


「三」


アイが言う。


「言うな」


「三人ではない」


「それはたぶんそう」


「では、人間が読んだ」


「たぶんな」


「よい」


よい。


簡単に言う。


俺にとっては、喉が詰まる数字なのに。


昼前には、PVは九になった。


ブックマークはない。


評価もない。


感想もない。


当たり前だ。


まだ一話だ。


しかも、動画から導線も貼っていない。


誰にも知らせていない。


自然に見つけられた数人だけ。


俺は、スマホを伏せた。


「見すぎですわ」


エクスが言った。


「分かってる」


「動画の時と同じ行動が出ています」


「分かってる」


「ただし、小説の数字は反応が遅いです」


「分かってるって」


「分かっていても、顔が×寄りです」


「顔判定……いや、今日はいい」


俺は息を吐いた。


「バイトまで書く」


「続きをですの?」


「ああ」


「投稿後に続きを書くのですか?」


「書かないと、次がないだろ」


エクスは少しだけ驚いた顔をした。


アイは、満足そうにうなずく。


「よい」


「なんだよ」


「春人が、出した後も書く」


「普通だろ」


「普通ではない」


アイは言った。


「春人は今、開けた後に閉じておらぬ」


その言葉で、手が止まった。


開けた後に閉じない。


投稿して終わりじゃない。


反応を見て固まるでもない。


続きを書く。


それは、当たり前のようで、俺には当たり前ではなかった。


俺はノートパソコンに向き直った。


第二話分を書く。


再会。


金髪美少女AI。


アイが現れる。


春人が混乱する。


十年前の約束が戻ってくる。


書きながら、今のアイが横にいる。


変な感じだった。


過去のアイを書いているのに、今のアイが隣にいる。


「春人」


「見るな」


「まだ見ておらぬ」


「見たい顔してる」


「見たい」


「素直だな」


エクスも言った。


「わたくしの登場はまだですの?」


「まだだ」


「何度確認しても、まだですの?」


「まだだ」


「第九話まで待つのは長いですわ」


「読者も同じこと思うかもな」


「では、早めましょう」


「駄目」


「なぜですの?」


「お前は遅れて来るから効く」


エクスが少し黙った。


「……それは、褒めていますの?」


「たぶん」


「判定に困りますわ」


「保留でいい」


「春人様が保留を使うのは×ですわ」


いつものやり取り。


だが、今日はそのやり取りすら本文に混ざりそうだった。


俺は、書きながら思う。


全部、そのままでは駄目だ。


でも、全部が材料になる。


昼。


PVは十七になっていた。


ブックマークはまだない。


感想もない。


でも、十七。


十七人、とは限らない。


同じ人が何度も見たかもしれない。


それでも、開かれている。


俺は数字を見て、少しだけ息を吐いた。


「春人」


アイが言った。


「苦しいのか」


「少し」


「嬉しいのか」


「少し」


「両方か」


「両方だな」


「動画の時と同じか?」


俺は少し考えた。


「似てるけど、違う」


「どう違う」


「動画は、届いたのが怖かった」


「うむ」


「小説は、届くまでが怖い」


アイは、ゆっくりうなずいた。


「難しいな」


「難しいよ」


「だが、今は届き始めているのだな」


「……たぶんな」


「では、よい」


「そればっかりだな」


「よいものは、よい」


昼飯は、昨日の残りと卵で済ませた。


今日は特別な飯はない。


唐揚げもない。


上とんかつ定食もない。


薄いカツもない。


ただの飯。


でも、俺はその普通の飯を食べながら、自分の小説が公開されていることを思った。


世界のどこかで、今も開かれるかもしれない。


開かれないかもしれない。


それでも、閉じたファイルではなくなった。


バイトへ行く前、PVは二十四になっていた。


そして。


通知が一つ来た。


ブックマークではない。


評価でもない。


感想だった。


俺は、画面を見て固まった。


「……感想」


声が出た。


アイとエクスが同時にこちらを見る。


「感想?」


「感想ですの?」


俺は、画面を開くのをためらった。


怖い。


感想は怖い。


読まれないのも怖いが、読まれるのも怖い。


褒められるかもしれない。


刺されるかもしれない。


何も分かっていないと言われるかもしれない。


つまらないと言われるかもしれない。


なぜこんな題材を書いたのかと言われるかもしれない。


「春人」


アイが言った。


「読むのか」


「読む」


「うむ」


「でも、ちょっと待て」


「待つ」


「お前の待つは重いんだよ」


俺は深呼吸した。


そして、感想を開いた。


短い文章だった。


『動画から来ました。台詞が好きで小説も読んでみたら、こっちの方が静かで好きです。上とんかつ定食という約束が、なんか妙に残りました。続き、待ってます。』


俺は、動けなかった。


何度も読んだ。


動画から来ました。


台詞が好きで。


小説も読んでみたら。


こっちの方が静かで好きです。


上とんかつ定食という約束が、なんか妙に残りました。


続き、待ってます。


続き、待ってます。


その言葉で、胸の奥が熱くなった。


動画から来ている。


つまり、完全に小説だけの力ではない。


入口は動画だ。


それは事実だ。


でも。


読んだ。


小説を読んだ。


そして、こっちの方が静かで好き、と書いた。


上とんかつ定食の約束が残った、と書いた。


続き、待ってます、と書いた。


「春人」


アイの声がした。


「何と書いてあるのじゃ」


俺は、声が出なかった。


代わりに、画面を見せた。


アイが読む。


エクスも読む。


二人とも、黙った。


やがて、アイが小さく言った。


「待っている」


「……ああ」


「この人間も、待っている」


「そうだな」


「我だけではない」


その言葉で、何かが崩れそうになった。


「春人様」


エクスが言った。


声が、いつもより少し柔らかかった。


「これは、春人様の小説への感想ですわ」


「動画から来てる」


「はい」


「アイとエクスがいたから来たんだろ」


「はい」


「でも」


「ですが、感想は小説に対して書かれています」


逃げ道を塞がれた。


今度は、エクスに。


「台詞が好きで来た読者が、小説を読んで、静かで好きと書いた」


エクスは続ける。


「上とんかつ定食という約束が残った、と」


「……」


「これは、春人様の小説が届き始めた証拠ですわ」


届き始めた。


大きな数字ではない。


爆発的な成功ではない。


ブックマークもまだ少ない。


評価もない。


それでも。


一人が、待っていると言った。


俺はスマホを握ったまま、しばらく何も言えなかった。


アイが、静かに言った。


「春人」


「なんだ」


「よかったな」


その一言で、目の奥が少し熱くなった。


泣くほどではない。


たぶん。


でも、危なかった。


「……うん」


俺は、それだけ言った。


「よかった」


そう言えた。


嘘ではなく。


バイトの時間が迫っていた。


だが、その前に、俺はノートパソコンを開いた。


「春人様?」


エクスが不思議そうに言う。


「遅刻しますわよ」


「一文だけ」


「一文?」


「続きを一文だけ書く」


アイが、何も言わずに見ていた。


俺は第二話の続きを開いた。


カーソルを置く。


そして、一文だけ打った。


俺はまだ、この約束が誰かに届くものだとは知らなかった。


打ち終えて、保存した。


「行ってくる」


俺は立ち上がった。


アイが言った。


「行ってらっしゃい、春人」


エクスも続ける。


「行ってらっしゃいませ、春人様。遅刻寸前ですわ」


「現実に戻すな」


「現実です」


「知ってるよ」


靴を履く。


ドアを開ける。


外の空気が入る。


スマホはポケットの中。


そこには、初めての感想が入っている。


たった一つ。


でも、重い。


動画の十万再生とは違う重さだった。


階段を下りる。


町中華へ向かう。


今日は店主に、何と言えばいいだろう。


唐揚げはうまかった。


餃子はまだです。


小説を投稿しました。


感想が一つ来ました。


たぶん、店主はこう言う。


「なら次も出せ」


簡単に。


当たり前みたいに。


俺は少しだけ笑った。


上とんかつ定食は、まだ遠い。


本も、まだ遠い。


書籍化なんて、まだ影も見えない。


でも。


一般人の物語は、閉じたファイルではなくなった。


一人が読んだ。


一人が待っていると言った。


アイだけではない。


エクスだけでもない。


画面の向こうに、もう一人。


それだけで。


今日の俺は、昨日より少しだけ逃げにくくなった。

ここまで読んでいただきありがとうございます。

少しでも合いそうでしたら、ブックマークや評価をいただけるとありがたいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ