第9話:選択肢が生えるんだが
柿三個から村の冬季産業が生えた。
だったら今度は、まったく逆方向へ振ってみたい。
「今日は善人になる」
「⋯⋯どうしたの?」
美咲が露骨に警戒した。
「昨日は人の柿を取ろうとして仁助に役人を呼ばれそうになった。今日は逆だ。困ってる奴を片っ端から助ける」
「反省したわけじゃないんだね」
「ふぁははは。村中を俺の善意で制圧してやる」
「善人プレイで軍事用語使わないで」
俺は善人に進化したのだ。
ログインすると、はじまりの村はまだ柿に占領されていた。
見ろ、柿さえ軍事行動をしているではないか。
軒下にも、物干しにも干し柿が並んでいる。
村を歩いていると、薪の束を抱えようとしている爺さんがいた。
ちょうどいい。
【薪を運ぶのを手伝う】
+[薪を運ぶのを手伝う]
を作った。
>[薪を運ぶのを手伝う]
『おお、すまんな。腰が痛くてよ』
家まで運ぶ。
《村人との関係が少し変化しました》
「一人目」
「数えるんだ⋯⋯」
「データの切り分けは大事だ」
次は井戸。
水桶を二つ抱えた女がいる。
+[水桶を運ぶのを手伝う]
その次は、道端で荷車の車輪をぬかるみに取られている男。
+[荷車を押すのを手伝う]
転んだ子供も起こす。
道の真ん中に落ちている石もどけた。
「ふぁははは。俺の善意から逃げられると思うなよ」
「善意ってミサイルっぽく追いかけるものだっけ?」
順調だ。
しかも五人目くらいから、俺が作っていないものまで混ざり始めた。
[畑仕事を手伝う]
[壊れた柵を直す]
[迷子を家まで送る]
「来た」
「また増えた?」
「今度は善人用の選択肢が勝手に生えてる」
柿と同じだ。
一つ二つ試すと、ゲーム側が続きを考え始める。
なら全部やってやる。
畑仕事を手伝い、柵を直し、迷子まで送り届けたところで、向こうから仁助が歩いてきた。
俺を見る。
直した柵を見る。
水桶を運んでもらった女を見る。
もう一度俺を見る。
『お前、何やってんだ?』
>[今日は村の人を助けて回っている]
仁助が黙った。
『なんで?』
「お。聞いてきたぞ」
「そこ喜ぶところ?」
答えも作れる。
>[何が起こるか試している]
仁助は俺の顔をしばらく見た。
『気味わりぃな』
「なんでだよ!」
美咲が吹き出した。
「昨日まで柿盗もうとしてた人が、急に村中助けて回ってるんだよ。怖いよ」
『何か企んでんのか?』
「信用ないな、俺」
「ちゃんと昨日のこと覚えてる証拠じゃん」
なるほど。
善いことをしたから、それ以前の行動が消えるわけではないらしい。
ならもっとやろう。
「見てろ。明日には俺を見る村人全員が拝むようになるぞ」
「目的変わってるよ」
◇◇◇◇
翌日。
ログインすると、泊めてもらっている仁助の家の前に野菜が置かれていた。
大根二本。
芋。
薪。
そして柿。
『⋯⋯またお前か』
「柿に罪はない」
昨日薪を運んだ爺さんが、俺を見つけて近づいてきた。
『昨日は助かった。これ持ってけ』
《大根を二本受け取りました》
井戸の女も来る。
『今度、人手が欲しい時は声かけな。うちの倅くらいなら貸すよ』
荷車を押した男は別の話を持ってきた。
『兄ちゃん、荷運びやってるんだろ? 頼みたい荷があるんだが』
さらに知らない男まで寄ってくる。
『あんた、困ってる奴を助けてくれるんだって?』
「⋯⋯誰だよ」
俺は昨日、この男を助けていない。
だが向こうは俺を知っている。
画面を見る。
[村人に仕事を紹介してもらう]
[農具を借りる]
[人手を頼む]
[余った食料を分けてもらう]
[困っている人を紹介してもらう]
「増えすぎだろ」
「村、制圧できたね」
「⋯⋯できてしまった」
老人を助けた。
その老人が俺を覚えた。
話が他へ伝わった。
知らない人間まで、俺なら頼めると思い始めた。
善行ポイントが貯まったわけじゃない。
人間関係そのものが増えている。
「これ、好感度じゃないな」
「普通に信用じゃない?」
「ゲームなら数字で見せてくれ。分かりづらい」
『何が?』
いつの間にか仁助が後ろにいた。
>昨日のやつ。やったことが村中に広がってる
『そりゃ広がるだろ。村なんだから』
「さらっと言うな」
仁助は家の前に置かれた大根を見つけた。
一本持ち上げる。
>それ俺のだぞ
『二本あるだろ』
>だからなんだ
『一本もらう』
>ダメだ
仁助が大根を抱えたまま、こっちを見る。
『昨日はあれだけ人にやってたじゃねえか』
>善意は昨日で売り切れた
『気味わりぃ善人だな』
>善人にも所有権はある!
美咲が腹を抱えて笑っている。
「村中は善意で制圧できたのに、大根一本は譲らないんだ」
「当然だ。これは俺がもらった大根だ」
仁助は少し考えたあと、大根を元の場所へ戻した。
『じゃあ今日の飯、お前の分だけ少なくするか』
>待て。それとこれとは話が別だろ
『俺んちだぞ』
「⋯⋯」
強い。
善意で村は制圧できても、家主だけは制圧できなかった。




