第10話:夜間配送需要が生えた
善意で村を制圧した翌日。
俺は仕事を探していた。
最近はこっちから探さなくても声をかけられることが増えたが、今日は妙に荷運びが少ない。
>今日は暇か?
仁助に聞いてみた。
『昼からならな』
仁助はそう答えて、荷車の車輪を確認している。
そこへ、一人の男が駆けてきた。
『おい、荷運びできる奴はいねえか』
できる。
というか、今まさに暇だ。
男が持ってきたのは、前橋まで運ぶ荷だった。
〖依頼:荷物を前橋まで運ぶ〗
〖報酬:三十文〗
「普通だな」
「仕事なんだから普通でいいでしょ」
美咲の言う通りだが、最近ゲームの方が普通じゃなくなってきたので感覚がおかしくなっている。
ところが男は続けた。
『明日の朝までに届けてくれるなら、九十文出す』
「三倍かよ」
思わず声が出た。
仁助は荷を見る。
それから空を見る。
『無理だ』
「早いな」
『今から出たら帰りは夜だ』
そこは俺も分かっている。
だからこそ試したくなる。
>[今夜のうちに運ぶ]
『とんでもねえ』
「即答かよ」
『暗い。道も悪い。盗人も出る』
>でも三倍だぞ
『死んだらゼロだ』
「正論で殴るな。俺の嫌いな攻撃だ」
「仁助さん、今日もまともだね」
俺は黙って荷を見る。
三倍。
魅力的だ。
問題は夜道。
だったら、夜道がどの程度危ないのか確かめればいい。
「ちょっと行ってくる」
「どこに?」
「夜道」
「今から?」
「運ばない。見るだけ」
「そういう人が一番危ないんだけど」
◇◇◇◇
夕方。
俺は一人で村を出た。
提灯を持っているので、まったく見えないわけではない。
ただし見える範囲が狭い。
「暗っ」
道の先が分からない。
少し外れると、草むら。
戻る。
また外れる。
「これ、普通に迷うな」
前から犬が吠えた。
「うわっ」
驚いて横へ避けたら、今度は足元の溝に落ちかけた。
「⋯⋯仁助が正しかった」
「帰ろうよ」
美咲が当然のことを言う。
だが少し歩くと、完全な闇ではないことにも気づいた。
家の明かり。
遠くに提灯。
道を歩く人間もいる。
しばらくすると、向こうから走ってくる男とすれ違った。
背負っているのは荷物だ。
「夜でも運んでる奴いるじゃん」
「飛脚じゃない?」
「じゃあ不可能じゃない」
「その結論になるんだ。お兄ちゃんらしい」
さらに進む。
途中には休めそうな家もある。
道の悪い場所も分かった。
危険なのは間違いない。
でも、何も分からないまま突っ込むのとは違う。
その日は村へ戻った。
◇◇◇◇
翌朝。
昨日の男がまだいた。
『頼めねえか。どうしても朝までに届けたいんだ』
荷はそのまま。
報酬は百文に値上がりしていた。
俺は仁助を見る。
>途中まで道を見てきた
『夜に?』
>昨日
仁助の顔が露骨に嫌そうになった。
『お前、馬鹿か』
「NPCに馬鹿って言われた」
「今回は仕方ないと思う」
>道の悪い場所は分かった。途中に休める家もある
仁助は少し黙った。
昨日なら即座に断った。
今日は違う。
荷を見る。
男を見る。
空を見る。
『しょうがねえな』
「お?」
『だったらこうする』
仁助が荷を指差した。
『全部一緒に持ってかねえ。急ぎの分だけ先に出す』
>残りは明日?
『そうだ。あと一人雇う』
さらに道の途中まで明るいうちに進み、危ない場所を日没前に抜ける。
夜になってから無理に急がない。
提灯も増やす。
「なるほど」
無茶をやめたわけではない。
無茶の中身を削っている。
「じゃあ、それで行こう」
◇◇◇◇
夕方。
三人で出発した。
荷は昨日の半分以下。
最初のうちは明るい。
仁助の言った通り、道の悪いところを先に抜けた。
日が落ちてからは、歩く速さを落とす。
途中で雇った男がぼやいた。
『こんな仕事、二度とやらねえぞ』
>報酬はいつもの倍だぞ
『また声かけてくれ』
「変わり身、早つ!」
美咲が笑った。
「お兄ちゃんと同じだよ」
「俺は金だけじゃない」
「三倍って聞いた瞬間、目の色変わってたけど」
否定できない。
途中で別の荷運びとすれ違った。
向こうも提灯を持っている。
少し進むと、画面に新しい選択肢が出た。
[途中の荷もまとめて運ぶ]
[夜間だけ料金を上げる]
[人足を途中で交代させる]
「また増えた」
「もう夜の商売になってるね」
「まだ一回目だぞ」
しかも、まだ前橋にも着いていない。
◇◇◇◇
夜明け前。
無事に荷を届けた。
《急ぎ荷を予定時刻までに届けました》
《夜間輸送の実績が記録されました》
《新しい依頼形式が利用可能になりました》
「実績って?」
『百文だ』
仁助は報酬を受け取ると、俺の方を見る。
『割に合わねえ』
「三倍以上だぞ」
『疲れる』
「そこか」
帰りは普通に昼になった。
◇◇◇◇
翌日。
ログインした俺は、仁助の家から外へ出ると知らないNPCが待っていた。
三人いる。
全員、荷主らしい。
『夜でも運べるって聞いたんだが』
『急ぎで頼みたい』
『金なら出す』
誰かが噂を広めたか。
『昨日運んだだろ』
>一回だけだぞ
『一回できりゃ、できるってことだろ』
画面を見る。
[夜間割増で引き受ける]
[夜明け前指定便を作る]
[途中で人足を交代させる]
[急ぎ荷だけをまとめる]
「⋯⋯増えてる」
美咲が俺の肩越しに画面を見る。
「お兄ちゃん、今度は夜勤作ったね」
「作ってない」
《夜間急送の需要が発生しました》
「作ってないって!」
仁助はそんな俺を無視して、荷主の一人と話を始めた。
『先に金の話しようぜ』
>お前、もうやる気じゃねえか
『九十文だったからな』
>割に合わないって言ってただろ!
『もっと取ればいい』
「⋯⋯学習してやがる」




