第8話:第一回開発会議
第3話から大改稿いたしました。
早い話が、「あれ?選択肢メイキングってのが出た」という設定です。
よかったら見返してみてくださいませ。
十年前。
からくり堂、会議室。
会議室のホワイトボード、中央には大きく、
【SILK GENESIS 企画会議】
と書かれている。
司会「では、第一回開発会議を始めます」
進行役が資料を開いた。
司会「まず、ゲームの基本コンセプトから決めたいと思います」
「はい」
「うい」
「うっす」
「YES Sir」
「ぶつぶつ」
参加者がてんでんバラバラに返事をする。
チーフプロデューサーが頷く。
司会「プレイヤーは何をするゲームですか?」
チーフP「好きなことをします」
司会者「⋯⋯もう少し具体的に」
チーフP「好きなことです」
司会者「そこを決める会議です」
開始十秒。
進行が止まった。
企画担当が助け舟を出す。
企画「たとえば、農業をするゲームなのか、商売をするゲームなのか、戦争をするゲームなのか」
チーフP「全部できます」
司会「ではメインは?」
チーフP「ありません」
企画「ない?」
チーフP「はい」
沈黙。
プログラマーが眼鏡を押し上げた。
プログ「つまり、オープンワールド型の生活シミュレーション?」
チーフP「少し違います」
プログ「何が?」
チーフP「オープンワールドって、世界がプレイヤーを待ってますよね」
プログ「ゲームなので」
チーフP「待たなくていいです」
プログ「⋯⋯誰が?」
チーフP「世界が」
プログラマーが資料を閉じかけた。
チーフP「NPCは、プレイヤーが来なくても働きます」
プログ「それはできます」
チーフP「結婚もします」
プログ「できます」
チーフP「商売もします」
プログ「まあ」
チーフP「勝手に失敗します」
司会「そこまで必要ですか?」
チーフP「必要です」
企画「なんで?」
チーフP「人間なので」
企画「NPCです」
チーフP「だから?」
また止まった。
経済担当が手を挙げた。
経済「では、市場システムについて」
司会「お願いします」
経済「村ごとに需要と供給を持たせますか?」
チーフP「はい」
経済「プレイヤーが安い村で買って、高い村で売る」
チーフP「いいですね」
経済「なら裁定取引が成立します」
チーフP「しますね」
経済「繰り返せば稼ぎ放題になります」
チーフP「NPCもやればいいんじゃないですか」
経済「⋯⋯何を?」
チーフP「同じことを」
経済「NPCも価格差を見て売買する?」
チーフP「人間ならしますよね」
経済「ゲームですよ」
チーフP「だから?」
経済担当が天井を見た。
経済「すると、プレイヤーが見つけた稼ぎ方をNPCが真似して、市場価格が崩れます」
チーフP「素晴らしい」
企画「攻略法が潰れます」
チーフP「攻略法って、潰れないものなんですか?」
企画「普通は!」
声が響いた。
チーフPが首を傾げる。
チーフP「昨日の正解が、今日も正解って変じゃないですか?」
企画「ゲームですから!」
チーフP「でも市場ですよ?」
経済「ゲームの市場です!」
チーフP「市場ですよね?」
司会「⋯⋯次行きましょう」
進行役が強引に流れを切った。
司会「NPCとの関係性について」
AI担当が資料を出した。
AI担「まず好感度を設定して」
チーフP「それだけだと足りません」
AI担「では信頼度も」
チーフP「それでも足りません」
AI担「村内評判?」
チーフP「必要です」
AI担「信用度?」
チーフP「必要です」
AI担「他に?」
チーフP「噂も」
AI担「多くないですか?」
チーフP「人間関係って一個の数字ですか?」
AI担「だから、それを数字にするのが我々なんです!」
チーフPは少し考えた。
チーフP「じゃあ、数字は持たせましょう」
司会「ようやく話が進んだ」
チーフP「ただし、数字そのものを行動理由にはしないでください」
「「「「⋯⋯はい?」」」」
チーフP「好感度が八十だから助ける、ではなくて」
チーフPは立ち上がりホワイトボードに書く。
【なぜ、その人を助けるのか】
チーフP「理由を持たせたいんです」
企画「それを全部?」
チーフP「全部」
プログ「何人?」
チーフP「できるだけ多く」
プログ「サーバー燃えますよ」
チーフP「そこは技術班に」
技術「急に丸投げ!」
技術担当から悲鳴が上がった。
企画担当が咳払いする。
企画「イベントはどうします?」
チーフP「イベント?」
企画「たとえば飢饉、祭り、恋愛、喧嘩、盗難、結婚、逃散」
チーフP「ああ」
チーフPが頷いた。
チーフP「イベントを開発室で起こす必要はありません」
企画「では?」
チーフP「NPCに理由さえあれば、勝手に起きます」
全員が黙った。
チーフP「イベントを作るのではありません」
ホワイトボードにもう一行。
【イベントが起きる条件を作る】
企画「⋯⋯それ、何パターン作るんです?」
チーフP「パターン?」
企画「イベントの」
チーフP「作りません」
企画「さっきから何を言ってるんですか!」
チーフP「条件です」
企画「だから条件を何個!」
チーフP「必要なだけ」
企画「必要なだけって何個!」
チーフP「そこをこれから」
企画「今日の会議で決めるんですよ!」
議事録担当の手が止まった。
【仕様:未定】
と入力した。
戦闘担当が恐る恐る手を挙げる。
戦闘「戦闘はどうしましょう」
チーフP「必要ですね」
戦闘「敵は?」
チーフP「人間です」
戦闘「盗賊とか?」
チーフP「場合によっては」
戦闘「外国軍?」
チーフP「場合によっては」
戦闘「幕府軍?」
チーフP「場合によっては」
戦闘「海戦も?」
チーフP「場合によっては」
戦闘「村人?」
チーフP「場合によっては」
戦闘「誰でも敵になるじゃないですか」
チーフP「誰でも味方にもなります」
戦闘「⋯⋯どうやって決めるんです?」
チーフP「それまでの関係で」
AI担当が机に突っ伏した。
チーフPは続ける。
チーフP「ただ、戦闘そのものは中心にしたくないです」
企画「では何が中心なんです?」
チーフP「選択です」
企画「選択肢?」
チーフP「違います」
企画「⋯⋯違う?」
チーフP「選択肢を押すことじゃなくて、何をするかを選ぶことです」
企画「それ同じでは?」
チーフP「全然違います」
誰も質問しなくなった。
進行役が最後の力を振り絞る。
司会「では確認します」
チーフP「はい」
司会「このゲームで、プレイヤーに何をさせたいんですか?」
チーフPは少し考えた。
チーフP「別に、何も」
司会「⋯⋯何も?」
チーフP「はい」
企画「では我々は何を作るんです?」
チーフPはホワイトボードを見る。
市場。
信用。
噂。
家族。
労働。
戦争。
飢饉。
商売。
人間関係。
そして、その全部を丸で囲んだ。
チーフP「プレイヤーが何かした時に」
ペンを置く。
チーフP「ちゃんと返事が返ってくる世界です」
沈黙。
議事録担当が入力する。
【基本コンセプト:プレイヤーの行動に世界が返事をする】
議事「⋯⋯これでいいですか?」
チーフP「いいですね」
司会「じゃあ次回までの宿題は?」
チーフPが答える。
チーフP「世界を作る」
「「「「「範囲が広い!」」」」」
【第一回開発会議 終了】
【決定事項:ほぼなし】
【次回までの宿題:世界を作る】




