第7話:来年の行動まで選択肢が出た
帰り荷を探してみる。
昨日、俺が初めて作った選択肢だ。
結果はすぐに出た。
『あったぞ。向こうの店が、はじまりの村まで荷を運びたいんだと』
仁助が戻ってきた。
指差した先には縄で縛られた木箱が三つ。行きは満載だった荷車が、帰りも満載になった。
《新しい依頼が発生しました》
〖依頼:はじまりの村まで荷物を運ぶ〗
〖報酬:十二文〗
「おお。本当に仕事増えたぞ」
「昨日、自分で増やしたんでしょ?」
「選択肢は増やした。でも仕事まで生えるとは思わないだろ」
横で見ている美咲には大したことではないらしいが、俺としては結構な事件だ。
NPCとの会話に、自分で一行追加する。
ゲームがそれを受け付ける。
しかも、ちゃんと結果が返ってくる。
「これ、もっと変なの入れたらどうなるんだ?」
「その発想がもう嫌なんだけど」
失礼な妹だ。ゲームというものは、開発者が用意した遊び方だけで遊ぶものではない。
荷車を押しながら、俺は次に何を試すか考えた。
◇◇◇◇
はじまりの村へ戻る途中、一軒の農家の前を通った。
庭先に柿の木がある。
枝がしなるくらい実っている。
「美咲」
「ダメだよ」
「まだ何も言ってないぞ」
「柿見てた」
妹のくせに索敵能力が高い。
別に盗みたいわけではない。
このゲームがどこまでこちらの悪ふざけに付き合うのか、確認したいだけだ。
仁助との会話を開く。
[はじまりの村へ戻る]
[少し休む]
昨日から増えた白い入力欄へ文字を打つ。
【あの柿を取ってみる】
〖この内容で選択肢を作成しますか?〗
決定。
[はじまりの村へ戻る]
[少し休む]
+[あの柿を取ってみる]
「出た」
「本当にやるの?」
「実験だ」
>[あの柿を取ってみる]
仁助が柿の木を見上げた。
それから俺を見る。
『人んちのだぞ』
「お。そこは分かるんだな」
キャラクターを木へ近づける。
まだ止められない。
さらに一歩。
『やめとけ。取ったら役人呼ぶぞ』
「味方じゃないのかよ」
「味方だから犯罪止めてるんじゃない?」
美咲の方が常識的なことを言っている。納得いかないが、盗みは諦めた。
しかし柿は食べたらどうなるか知りたい。
渋柿ならどういう状態異常が出るか。
なら正規ルートだ。
もう一度入力欄を開く。
持ち主に売ってもらう。
>[持ち主に売ってもらう]
『最初からそうしろ』
「NPCに説教された」
「仁助さんの方がお兄ちゃんより大人だね」
こいつ十八歳だぞ。
農家の主人に話を通すと、柿を三個売ってくれた。
《柿を三個手に入れました》
普通だ。
普通すぎる。
「なんだ。意外とまともだな」
「柿買っただけで何を期待してたの?」
俺にも分からない。ただ、このゲームならもう少し何か返してくる気がしていた。
その日は、そのままはじまりの村へ戻った。
◇◇◇◇
翌日。
ログインした俺は、しばらく画面を見た。
「⋯⋯なんだこれ」
「どうしたの?」
「柿が増殖してる」
最近寝泊まりさせてもらっている仁助の家の前に籠が並んでいる。
柿。
柿。
柿。
七籠。
昨日買ったのは三個だ。
『来たか』
>来たけど。これ、なんだ
『柿だ』
>見れば分かる。なんでこんなにある
仁助は当然みたいな顔をして、一つ摘み上げた。
『昨日、欲しいって言ってただろ。あの家だけじゃなくて、余らせてる家がないか聞いて回った』
>それで?
『買った』
>全部?
『安かったぞ』
美咲が吹き出した。
「お兄ちゃん、柿屋さんになったね」
>俺は三個食いたかっただけだ
『だったら先に言え』
「言わなくても分かるだろ!」
昨日までなら、ここで終わったはずだ。
ところが画面に、新しい選択肢が表示された。
[柿をそのまま売る]
[干し柿にする]
[まとめて商人へ持ち込む]
[安く村人へ売る]
「⋯⋯これ、俺が作ったやつじゃないぞ」
「ゲームが増やしたんじゃない?」
たぶんそうだ。
俺が作ったのは、柿を取る、売ってもらう、その二つだけ。
なのにゲーム側が、その先を勝手に作っている。
籠は七つ。このまま放っておけば腐る。
「だったら干すか。保存できるだろ」
>[干し柿にする]
仁助が柿の山を見た。
『全部か?』
>全部。この量、食えるわけないだろ
『分かった』
それだけ言って、どこかへ行った。
嫌な予感はした。
◇◇◇◇
翌日。
「⋯⋯」
「今度は何?」
「村が柿に占領された」
軒下に柿。
物干しにも柿。
隣の家にも、その向かいにも、皮を剥かれた柿がずらりと吊るされている。
昨日の七籠では絶対に足りない。
>仁助
『なんだ』
>これ、昨日の柿だけじゃないよな?
『干すなら、まとめてやった方が楽だろ』
>誰の柿だ
『村の。余ってる分を集めた』
「また増やしたのかよ!」
その瞬間、画面の端に表示が流れた。
《干し柿作りが村に広まりました》
《冬季保存食の生産量が増加しました》
《商人が、はじまりの村の干し柿に興味を示しています》
「待て待て待てぃ」
俺は柿を三個食いたかっただけだ。
それが二日で、村の冬季産業になりかけている。
さらに新しい選択肢が出た。
[干し柿を前橋へ売りに行く]
[商人と値段を交渉する]
[来年の柿を先に買い付ける]
「⋯⋯来年?」
今年の柿すら、まだ干し終わっていない。
美咲が笑いながら画面を指差した。
「お兄ちゃん。来年の商売まで決まったね」
「決めてない」
俺は一つ、柿を買っただけだ。
正確には三個。
どうやらこのゲーム、選択肢を一つ増やすと、その先まで勝手に話を作り始めるらしい。
「⋯⋯これ、面白いぞ」
「反省するところじゃないの?」
するわけがない。
次は何を入れよう。
◇◇◇◇
数日後。
完成した干し柿を前橋の商人へ持ち込むと、思ったより高く売れた。
「これ、普通に儲かるな」
柿は安い。干すだけなら特別な道具もいらない。
来年は先に買い付けておけば、もっと儲かるかもしれない。
そんなことを考えながら、次の荷を持ち込んだ。
『前の値じゃ買えねえな』
>なんで?
『この辺から干し柿を持ってくる奴が増えたんだよ』
「⋯⋯は?」
見ると、店の奥に見覚えのあるものが山積みになっている。
干し柿。
俺たちのだけじゃない。
「真似された?」
「お兄ちゃんが村中で作ったからじゃない?」
画面を見ると、買い取り価格はきれいに下がっていた。
「待て。俺が始めた商売だぞ」
だから何だ、とでも言いたげに相場は動かない。
攻略法を潰しにかかるNPCとか見たことない。
どうやらこのゲーム、儲かる方法を見つけても、いつまでも俺だけのものにはしてくれないらしい。




