第4話:たかぎは ともだちが できた
翌朝。
俺は、田口村の外にいた。
正確には追い出されたままだった。
村の入口には昨日から追加された男が二人。
『帰れ』
近づく。
『帰れ』
もう一歩。
『帰れ』
「三回言われた」
「学習しなよ」
「確認は大事だ」
「昨日からずっとそれ言ってる」
入れない。
当然、店も使えない。
当然、仕事もない。
〖所持金:十五文〗
〖住居:なし/後見人:なし〗
〖村内評判:敵対〗
「十五文あるじゃん」
「飯買えるかな」
「村に入れないけどね」
「⋯⋯」
詰んでる。
その時だった。
ぐうぅぅぅ⋯⋯。
「⋯⋯」
「⋯⋯」
美咲が俺を見る。
「今の、お兄ちゃん?」
「違う」
もう一度。
ぐうぅぅ⋯⋯。
モニターを見ると。
《空腹》
《行動効率が低下しています》
「ゲームの音かよ! 間違えられるだろ?」
「びっくりした」
「すげえな。ここまでリアル再現」
「喜ぶところじゃないよ」
キャラクターの動きが少し重い。
走るとすぐ速度が落ちる。
画面の端には、
《空腹度:高》
まで出ている。
「寝れば回復するゲームじゃないのか」
「人間は寝たらお腹減るよ」
「正論やめろ」
とにかく飯だ。
村に入れない。
外を歩く。
街道沿い。
畑の外れ。
雑木林。
何人かNPCを見つけて話しかけた。
『仕事? どこの者だ』
[田口です]
[旅の者です]
[仕事だけください]
>[仕事だけください]
『紹介もなしじゃ無理だ』
終了。
別の男。
『信用できる奴なのか?』
[できます]
[たぶん]
[できません]
「三番」
「やめなよ」
>[たぶん]
『帰れ』
「厳しい」
「お兄ちゃんのせいだよ」
さらに歩く。
腹が鳴る。
ぐうぅぅ⋯⋯。
「うるさいな」
「さっきまで褒めてたじゃん」
「限度がある」
その時、道の脇で一人の若い男が荷物を積んでいた。
〖仁助/人足/十八歳〗
年齢は若いがリアルな俺より頑丈そうで大人っぽい。体は痩せているが、腕は太い。
荷を縄で縛っていた仁助が、こっちを見る。
『お前、田口で追い出された奴だろ』
「⋯⋯」
「有名人じゃん」
選択肢。
[違います]
[そうです]
[誰から聞いた]
[仕事を探しています]
俺は迷わない。
>[誰から聞いた]
『誰って⋯⋯みんな知ってるぞ』
「終わった」
「村社会こわいね」
噂の伝播範囲、思ったより広い。
仁助が俺を見る。
『薪売ったんだって?』
返事の選択肢。
[売りました]
[誤解です]
[もう返せません]
>[売りました]
『馬鹿だな』
「NPCに馬鹿って言われた」
「でも間違っていないよ」
仁助は笑った。
それだけだった。
怒るでもない。
追い払うでもない。
そして。
ぐうぅぅぅ⋯⋯。
また腹が鳴った。
それに反応したように仁助が止まる。
『腹減ってんのか?』
[大丈夫だ]
[食べ物が欲しい]
[仕事を探している]
ここで食べ物を直接ねだるのも違うな。
>[仕事を探している]
『仕事か』
仁助が荷車を見る。
少し考えた。
『これ運ぶの手伝え』
画面に依頼が出る。
〖依頼:荷運びの手伝い〗
〖報酬:握り飯二個〗
「銭じゃない」
「いいじゃん。お腹減ってるんでしょ」
「ゲーム開始早々、俺、貨幣経済から脱落した」
仁助が続ける。
『ただで飯やる気はねえ。働け』
[働く]
[断る]
「厳しいな」
「普通だよ」
>[働く]
『よし』
◇◇◇◇
仕事は単純だった。
荷車に積んだ桶を、少し先の農家まで運ぶ。
仁助が前。
俺が後ろ。
押す。
重い。
〖空腹のため作業効率が低下しています〗
「細かいなあ」
「早く働きなよ」
道の途中、仁助が大きく道を迂回した。
前を見る。
ぬかるみ。
横を見る。
畑の脇に細い道がある。
「こっち通れないのか?」
もちろん仁助に聞いたわけじゃない。
独り言だ。
俺はキャラクターを細道へ向ける。
通れそうだ。荷車もぎりぎり入る。
仁助がこっちを見る。
『そっち行けるのか』
そのままついてきた。
「お」
「なに?」
「ちゃんと見てる」
決められた道へ戻されると思っていた。
でも違う。
俺が道を変えたら、仁助もそれを使った。
農家へ到着。
〖依頼達成〗
仁助が荷車の横から包みを出した。
『ほらよ』
〖握り飯を二個受け取りました〗
「来た」
使用。
《空腹状態が解除されました》
キャラクターが握り飯を食べる。
「うまそう」
「これ、VRじゃないよ」
「分かってる」
「よだれ出てない?」
「出てない」
たぶん。
仁助が荷車を直しながら言う。
『明日も仕事探してんのか?』
[探している]
[まだ分からない]
[もっと稼げる仕事がいい]
これだ。
>[もっと稼げる仕事がいい]
仁助が少し考えた。
『分かった。なんか探しとく』
「⋯⋯」
「どうしたの?」
「いや」
クエスト一覧が出ると思った。
だがそうじゃない。
こいつ、探しておくと言った。
画面の上端に表示が出る。
《仁助との関係が深まりました》
続けて、
《拡張機能の解放条件が進行しました》
「来た」
「何が?」
「昨日のやつ」
「拡張機能?」
「たぶん」
詳細は、まだ開けない。
仁助は普通に荷車を引いている。
美咲が画面を見る。
「お兄ちゃん」
「ん?」
「ともだちできたね」
「NPCだろ」
「はいはい」
俺はもう一度、仁助を見る。
変なNPCだ。
でも。明日の仕事は、できたらしい。




