第3話:ゲームが返事をしてきた!
ゲーム開始後、一秒で俺の人生は見事なまでに終わっていた。
〖所持金:三文/住居:なし/後見人:なし〗
〖村内信用度:最低/村内評判:警戒〗
「⋯⋯ひどいな」
「自分で選んだんでしょ」
「これはお世辞だ」
「ひねくれてるね」
画面には上州の小さな村。
田んぼ、畑、雑木林、茅葺き屋根。
「⋯⋯地味だ」
「さっきから何回目?」
「大事なことだから何回でも言う」
ただ、作り込みは細かい。
近くの村人に話しかけた。
〖与平/百姓/四十二歳〗
『見ねえ顔だな。どこから来た』
[旅の途中です]
[仕事を探しています]
[腹が減りました]
[答えたくありません]
「選択肢を使ったRPGか。小学生以来だな。これで想定を越えるのはムズいぞ」
そう言いつつも、俺は挑戦するのが誇りだ。
>[答えたくありません]
「なんで初対面から喧嘩売るの」
「反応を見る」
『そうかい』
会話終了。
「⋯⋯終わった」
「そりゃ終わるよ」
「これだけか?」
まだ分からない。
問題は、この先だ。
村を歩く。
〖お熊/百姓/五十六歳〗
〖新吉/小作人/二十九歳〗
〖妻:お峰/長男:伊助/長女:お花〗
「全員名前付きか」
「すごいの?」
「設定だけなら普通。大事なのは、こいつらが本当に動くかどうかだ」
しばらくすると、老人から声をかけられた。
〖清兵衛/百姓/六十八歳〗
『お前さん、仕事を探してるのか』
[はい]
[いいえ]
[食べ物をください]
>[はい]
『なら、この薪を庄屋の家まで運んでくれ』
〖依頼:薪を届ける/報酬:十五文〗
「普通のお使いクエストだね」
足元の薪を持ち上げる。
庄屋へのマーカー。
俺は薪を見る。
「⋯⋯お兄ちゃん」
「この薪、売れるかな」
「届けなさい!」
村の商店へ向かう。
〖売却:薪の束/十二文〗
「依頼品なのに売れる」
「売っちゃ駄目でしょ」
売却。
依頼欄は消えない。
だが店を見ると、
〖薪の束/三十文〗
「収益がエグっ」
「十二文で売ったやつだよね?」
「江戸時代の資本主義が殴ってきた」
買い戻せない。
仕方なく清兵衛のところへ戻る。
『薪はどうした』
[まだです]
[なくしました]
[売りました]
「[売りました]があるぞ」
「やめなよ」
>[売りました]
『売った? お前さん、わしの薪を?』
《清兵衛の好感度が大きく低下しました》
《村内評価が低下しました》
待つ。
何も起きない。
「⋯⋯普通だったね」
拍子抜けした。
その後、仕事を探すが、
『悪いが、よそ者には任せられねえ』
『誰の紹介だ?』
仕事なし。
宿にも泊まれない。
[野宿しますか?]
>[野宿します]
◇◇◇◇
翌朝。
村外れで起き上がった直後、一人のNPCが走ってきた。
「ん?」
清兵衛だ。
『いたぞ、この野郎!』
「⋯⋯」
「さっきのおじいさん?」
美咲が吹き出した。
『昨日は逃げやがったな! わしの薪を売った金、返せ!』
「覚えてる!」
「そりゃ覚えてるんじゃない?」
「違う。一晩経ってる。しかも俺は村外れだぞ」
さらに後ろから二人。
〖与平〗
〖新吉〗
『清兵衛さん、こいつか』
『とんでもねえ野郎だな』
《村内評判:不審者》
「増えた!」
「怒ってる人が?」
「関係者だよ!」
清兵衛が話した。
それを聞いた二人まで俺を知った?
「噂が伝わってる?」
「お兄ちゃん、顔が怖い」
選択肢。
[金を返す]
[謝る]
[逃げる]
俺は迷わず決めた。
「逃げる」
「なんで!?」
「次を見たい」
>[逃げる]
『待ちやがれ!』
三人が追ってくる。
「来た!」
「来てるよ!」
「ゲームが返事してきた!」
俺が薪を売った。
清兵衛が怒った。
誰かに話した。
別の村人まで俺を知った。
俺が逃げたから、追ってくる。
昨日の行動が、今日までつながっている。
俺の馬鹿な行動に、この世界が本気で付き合ってきている。
「これ、当たりかもしれん」
「開始早々、村人三人に追われてる人が言う台詞じゃないよ」
村の出口まで逃げ切った。
《村から追放されました》
《始まりの村への立ち入りが制限されました》
「⋯⋯」
「詰んだね」
戻ろうとすると、入口には昨日までいなかった男が二人立っていた。
『帰れ』
「門番まで配置された」
「お兄ちゃん対策じゃん」
「俺のせいで村の警備体制が強化されたぞ」
「誇るな」
俺は笑った。
ラスボスにパンを投げても、酒を投げても、聖剣を渡そうとしても何も返してこなかったゲームとは違う。
こいつは、本気で返してくる。
「最高だな、このゲーム」
「頭おかしいよ」
その時、画面の隅に表示が出た。
《特殊行動パターンを確認しました》
「ん?」
《拡張機能の解放条件を一部満たしました》
「拡張機能?」
詳細を開く前に消えた。
「何かあるぞ」
面白くなってきた。
◇◇◇◇
群馬県の小さな葬儀場。
黒い礼服姿の男が家族葬の部屋を出たところで、女性秘書が小走りに近づいた。
耳打ちされ、男の表情が変わる。
「なんだと?」
「はい。JS-2026が脱走しました」
男はすぐにスマホを取り出した。
「私だ。状況を報告してくれ」
返答を聞き、眉間に皺を寄せる。
「どこに接触したかを全部洗え。所在の特定を最優先。封鎖手順も開始しろ」
電話を切り、黒塗りの車へ向かう。
乗り込む直前、一度だけ葬儀場を振り返った。
「あの爺さん。最後まで俺たちに問題を押し付けてくれる⋯⋯。出してくれ」
からっ風の中、車が走り出す。
百年前、群馬県で生まれた一人の男の、波乱万丈な人生が終わった。




