第13話:二等景品、GOLDが1トン
翌日。
「名前を書いたぞ」
冷蔵庫のプリンの蓋に太い油性ペンで、
【TAKAGI】
と書いて美咲にアピール。
「これで食われない」
「私もTAKAGIだけど」
「⋯⋯」
重大な制度上の欠陥が発覚した。
「じゃあK TAKAGIって書けば?」
「ゲームに侵食されてる気がして嫌だ」
「食べられてもいいなら、そのままでいいよ」
【K TAKAGI】
書き足した。
敗北感がすごい。
「ところで今日でしょ?」
「ああ」
賞品一覧は公式サイトで公開された。
だが俺が開いているのは攻略Wikiだ。
発表から一分も経たず、もう全文が転載されている。
「公式見れば?」
「こっちにはコメント欄がある」
「そっちなんだ」
昨日からWikiでは予想大会になっている。
《賞金じゃね?》
《からくり堂に賞金出す金あるの?》
《KZが出すんだろ》
《KZって何でも持ってくるぞ》
「こいつらはKZ知ってるんだな」
「有名なんじゃない?」
「俺は知らない」
「お兄ちゃん、世間知らないから」
「大学院生を隔離生物みたいに言うな」
時間になった。
ページが更新される。
誰も公式のページは見ないらしい。
有志の古参がリアルタイムで転載しているとか。
限界集落ゲームらしい狂気が伝わってくるな。
〖WORLD CHALLENGE 賞品について〗
最初に出てきたのは賞品一覧ではなかった。
〖大会中、各種条件の達成によって「繭玉」を獲得できます〗
「繭玉?」
〖繭玉には賞品が封入されています〗
〖内容は開封時に決定されます〗
「早い話、ガチャか」
「繭だからじゃない?」
「養蚕ゲームらしさを今頃出しても遅い」
順位だけで全部が決まるわけではなく、途中評価や特殊条件でも繭玉が配られるらしい。
つまり大会中に何個も獲得できる。
「これ、中身選べないのか」
「ガチャだね」
その下に封入賞品一覧が出た。
〖一等 自然栽培米 一生分〗
「米?」
「一生分?」
コメント欄。
《来た》
《俺これでいい》
《当たったら仕事やめる》
《やめるなよ》
「米だけで生きるな」
「おかず買うために働かないとね」
提供元。
〖KZ AGRI〗
「農業やってる」
「KZ?」
「ああ」
昨日の謎企業は農業関連団体か?
次。
〖二等 GOLD 1t〗
「⋯⋯」
「⋯⋯」
見間違いではない。
「一トン?」
「金だよね?」
「GOLDだからな」
《は?》
《1t??》
《kgの誤植だろ》
《運営確認して》
《GOLD1トン当たっても仕事やめない》
《俺は米一生分当たれば仕事やめる》
「価値観どうなってんだよ!」
美咲は腹筋がつったらしい。
「米の方が一等だもんね」
「そこもおかしい。一トンの金より米が上なのか?」
《金は食えない》
《米は食える》
《一等は米。異論は認めない》
「こいつらまでおかしい」
〖※追記:金塊は食べられません〗
ぶふぉ。
「なんとなく公式の価値観がわかった気がする」
提供。
〖KZ METALS〗
「金もKZかよ」
農業の次は金。
何屋なんだ。
続く。
〖三等 日本旅行七泊八日〗
「急に普通になった」
「海外の人には嬉しいんじゃない?」
〖四等 群馬KZホテル 三回宿泊券〗
「ホテルまである」
「群馬なんだ」
「そこ?」
そして五等。
〖DLC『北海道共和国』〗
隣の席が静かになった。
「⋯⋯美咲?」
「北海道共和国」
「そう書いてある」
「榎本武揚さま」
「だろうな」
美咲が立った。
「これ!」
「うるさい」
「これがいい!」
「金一トンあるぞ」
「いらない!」
「一トンだぞ!?」
「北海道共和国!」
会話にならない。
榎本武揚は美咲の推しだからな。
詳細を開く。
〖箱館政権を中心とした追加シナリオ〗
〖一般販売予定なし〗
「限定!」
「落ち着け」
「五等取る!」
「普通、上を狙うんだよ」
「五等が一番上!」
「賞品順位を個人の趣味で入れ替えるな」
完全に目がキマっている。
六等。
〖GENESIS KEY 100個〗
「これだ」
「昨日の?」
「ああ」
一個百二十円。
好きな場所へ追加のセーブ地点を作れる。
百個。
「全部これでいい」
「金一トンより?」
「当たり前だろ」
「一万二千円だよ?」
「値段じゃない。百回試せるんだぞ」
失敗する直前にセーブ。
試す。
駄目なら戻す。
別の手を試す。
百回。
「繭玉全部これでもいいな」
「お兄ちゃんも五等狙いのこと言えないと思う」
「六等だ」
「もっと悪いよ」
まだある。
〖参加賞 KZ-1〗
「KZ-1?」
画像を見る。
VRギアだった。
「参加賞がVR?」
商品ページへのリンクまである。
開いた。
「⋯⋯五十万円近いぞ」
「参加賞?」
「ああ」
さらにレビュー。
性能の評価は悪くない。
むしろいい。
問題は売れていなかった。
《性能はいい。でも高い》
《対応ソフト増やして》
《物はいいんだよ、物は》
《誰か買ってやってくれ》
「悲しいレビュー欄だな」
Wikiのコメントはもっと容赦がなかった。
《KZ-1草》
《在庫処分始まった》
《大会参加者に配る気かよ》
《何台余ってるんだ》
《これはひどい》
数分後。
公式ページに一文増えた。
〖※KZ-1の提供は在庫処分を目的としたものではありません〗
「書くから怪しくなるんだよ!」
美咲が笑い出した。
「在庫処分じゃないって」
「誰も公式に聞いてないだろ!」
賞品一覧をもう一度見る。
米。
金。
旅行。
ホテル。
ゲーム。
セーブキー。
VR。
「KZって何屋なんだよ」
「いろいろ?」
「便利な言葉で済ませるな」
その下では、参加者数が増え続けていた。
国内だけではない。
英語。
ドイツ語。
中国語。
見たことのない名前まで並び始めている。
《海外勢増えてきた》
《ドイツ勢来た》
《北米組も登録開始》
《今回マジでWORLDじゃん》
「海外勢か」
「世界大会だからね」
美咲はまだDLC『北海道共和国』の説明を読んでいる。
「お前、それしか見てないだろ」
「絶対当てる」
「俺はGENESIS KEY」
「百個?」
「できれば全部」
繭玉を開ける。
GENESIS KEY。
また開ける。
GENESIS KEY。
それでいい。
「なんで金一トンより百二十円のアイテム欲しがってるんだろ」
「百個だぞ」
「そこじゃないと思う」
分かっていない。
俺に必要なのは金じゃない。
好き勝手試しても、なかったことにできる鍵だ。
百個あれば、どれだけ開発者の想定を踏み外せる?
ちょっと楽しみになってきた。




