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インディー幕末ゲームで、運営の想定外を探していますが無理な件〜幕末ゲームなのに、古参も運営も明治を目指さないんですが。海外ニキ達が困惑しています〜  作者: 天のまにまに
第2章:このゲーム、作ったやつもプレイするやつもおかしい

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14/14

第14話:世界大会、イベント会議

 ――数か月前。


 まだWORLD CHALLENGEという名前すらなかった頃。


 からくり堂の会議室に、一人の男が入ってきた。

 いかにもやり手のビジネスパーソンというたたずまいのこの男は、新しくKZ財団の広報を任された統合プロデューサー。


 名前は山田太郎。


 山田は、ドアを開いたのち足を止め、部屋の奥へ視線を向けた。


 そこには、安物らしい紺のスーツ。その上に、皺ひとつない白衣。銀縁の丸眼鏡。

 背筋を伸ばして椅子に座り、今日もにこにこと笑っている男がいた。


 からくり堂チーフプロデューサー。

 人はチーフPと呼んでいる。

 この小さな会社の全権を握っている人間だった。


「英二郎、久しぶりだな」

「たろちゃんさん、お久しぶりですね」


 にこり。


「では、帰ってください」

「なんでだよ!」


「言わなくても大体分かります。面倒なお話でしょう?」

「最初から決めつけるな!」


 怒鳴られてもチーフPは笑顔のまま。

 その背後から、何かが出ている気がする。


 みゅ〜〜〜ん。


 そうとしか表現できない、妙な圧が。


「お前のまとっている、その『みゅ〜〜〜ん』という波動を切れ!」

「これですか? 生まれたときからだと言われます」


「誰に!?」

「母に」

「母親公認なのかよ!」


 みゅ〜〜〜ん。


「強くするな!」

「何もしていませんよ」


 会議室の端で、若い社員が下を向いた。肩が震えている。


「⋯⋯変わってないな、お前」

「たろちゃんさん、あなたは少し老けましたね」


「その呼び名、絶対やめろと言っただろう!」

「たろちゃんさんの存在を示すよい表現だと思いますが」

「俺の存在を貶めるな!」


 チーフPは、どんな攻撃も跳ね返す鉄壁男だった。


 ◇◇◇◇


「改めて」


 山田は分厚い資料を置いた。


「今回のイベント、KZ側の統合プロデューサーとして入ることになった」

「おめでとうございます」


「お前のところ担当事案なんだよ!」

「それはお気の毒に」

「誰のせいだと思ってる!」


 チーフPは銀縁の丸眼鏡を指で上げた。


「KZでしょうか」

「お前だ!」


 統合Pが資料を開く。


〖SILK GENESIS:十周年グローバル展開企画〗


 J-カルチャー。

 KZ-1。

 海外展開。

 公式配信。

 有名ストリーマー招待。


 そして、世界大会。


「これを全部まとめる。SILK GENESISを世界へ出す」

「よいのでは?」

「だろ?」


「ではお願いします」

「お前もやるんだよ!」


「私はゲームを作る人です」

「そのゲームを使う企画だ!」


 統合Pが深呼吸した。


「問題は、どうやって参加者を集めるかだ。海外じゃシルジェネなんて、全く知られていない。それに」


 統合Pは呆れたような、突っぱねるような態度で続ける。


「KZはプロジェクトを主導すると常にコケると定評がある。これを覆す必要がある」


 チーフPは表情を全く変えずアイデアを出した。


「では、金一トンくらいあげると宣伝すればよいのでは?」

「アホか!」


「人は集まるのでは?」

「そりゃ集まるわ! 誰がそれを出す?」


「私は金塊など触ったこともありません」

「そういう意味じゃない!」


 ◇◇◇◇


 ――次の会議はZUUMだった。


 画面に映った統合Pの顔が妙に疲れている。


「どうしました?」

『お前のせいだよ。KZ上層部に金一トン案を出した』


「採用されました?」

『されるわけあるか! と思っていたがな』


 統合Pが嫌そうな顔をした。


『金一トンは出せん、が、十トンなら出せるそうだ。とんでもない連中だよ』

「ほう」


『保管料や輸送量の関係で十トンのほうが都合がいいとか抜かす。しかも十年間の貸し金庫代はKZ持ち。海外なら輸送と通関までやるそうだ』

「親切ですね」


『税金の補助までつけるって言ってる』

「では問題ありませんね」

『そこが問題なんだよ! 金より付帯サービスの方が怖えよ! たく、全世界の大富豪を相手にしているファンドらしいぜ』

「なるほど」

『その顔やめろ。みゅ〜〜〜んが濃くなってる!』


「では金一トンを十人。これは二等賞あたりで」

『なぜ二等なんだ!』


「金塊は食べられません」

『おまえな』


「一等は自然栽培米の玄米がよいでしょう。健康的で、災害時でも生きていけます」

『金一トンより米が上なのか!?』


「当然でしょう。金塊を炊いても食べられませんから」

『炊くな!』


 みゅ〜〜〜ん。


「それに一生分なら、かなり助かりますよ」

『何年分を想定してるんだ』


「百年ほど」

『長寿前提か!』


 しばらく揉めた結果。


 特等、KZフラッグファンドを十口。

 一等、自然栽培米一生分。

 二等、金一トン。


 以下、旅行、ホテル、DLC、GENESIS KEYなど。


『どうしてこうなった』


「豪華ですね」

『誰のせいだと思ってる』

「KZでしょうか」

『お前だ!』


 

『次。大会期間。一週間程度を想定してる』

「短いですね。三十日でよいのでは?」

『長い!』


「数え十五歳から五十年生きてもらうんですから、そのくらい必要でしょう」


『何を?』

「人生です」


『ゲーム大会の話をしてるんだが』

「私もゲーム大会の話をしています」


『五十年って何だ!』

「ゲーム内時間です。六十五までの短い人生ですね」

『人生基準で話すな!』


 結局。


 現実三十日。

 数え十五歳固定。

 ゲーム内五十年。


 決定した。


「開始地点は田口から始めませんか?」


『いきなり何を言い出した』

「始まりの村ですから。ちなみに私のふるさとです」


『後半いらない情報入ったな?』

「大切ですよ」


『世界大会だぞ。アメリカ人も田口?』

「田口です」


『ドイツ人』

「田口です」


『ロシア人』

「田口です」


『全員群馬人にするのかよ!』


「世界はどこからでも始まりますが、絹の国日本はここからです」

『急にいいこと言ったみたいな顔するな!』


「実際、よい言葉だったと思います」

『自分で言うな!』


 統合Pがため息をついた。


「違う人間に同じ世界を渡したら、何が起きるか見たいでしょう? アメリカ人が田口をどう見るのか。ドイツ人は何を作るのか。英国人は何を売るのか。日本人は知っているつもりで何を見落とすのか」


『⋯⋯そこだけ聞くとまともなんだよな』

「いつもまともですよ」

『それは違う』


 ◇◇◇◇


『開始年は通常版と同じ一八三六年でいいな』


「つまらないですね」

『また始まった』


「古参さん達なら初年度の鬼門である天保の飢饉対策の正解を知っています。米、備蓄、薪、救荒作物。答えの分かっている問題を出しても仕方ありません」


『じゃあ、どうする』

「一八三八年でよいのでは?」


『飢饉後?』

「はい」


 チーフPが指を折っていく。


「田畑は荒れている。借金も残っている。人も減っている。逃げた人間も、死んだ人間もいる」


 最後の一本。


「そして、信用が壊れている」


 統合Pの表情が変わった。


『災害そのものじゃなく、その後を渡すのか』

「その方が人の考えかたが出ます。どう立て直すかです」


 食料を配る。

 商売を始める。

 逃げる。

 支配する。

 誰かを信じる。


『一八三八年から五十年。一八八八年までか』

「ちょうどよいですね」


 ◇◇◇◇


『古参と新規の差はどうする?』


「差があってよいでしょう。十年遊んだ人が、今回始めた人と同じになる方がおかしくありませんか?」


『多少はな』


「では感謝品を出しましょう」

『アイテム?』


「過去に縁の深かった相手を一つだけ、大会世界に連れてきます」

『NPC?』


「場合によります。猫かもしれません」

『猫!?』


「犬、馬、人足、大工、木こり。風呂屋の主人かもしれません」


『当たり外れがデカすぎるだろ!』

「何を大切にしてきたか、その人の十年ですから」


 チーフP、少し考える。


「名前は、〖長期間ご愛顧感謝品〗」


『商店街か!』

「感謝していますから」


 ◇◇◇◇


『外部協力は禁止にする』

「人間に相談するのもですか?」

『個人大会だからな』


「それはつまらないですね。人は人に相談しますよ」

『じゃあ何を許す』


「ログアウト中なら人間への相談は自由で」

『教授十人でも?』

「いいでしょう」


『国家レベルの参謀本部ができるぞ!』

「見てみたいですね」

『個人戦どこ行った!』


「操作するのは一人です。ただし外部AI、BOT、自動操作、代理操作は禁止しましょう」


『そっちは厳しいんだな』

「人間が考える大会ですから」


『どうやって検知する』

「KZスペシャルを貸してください」

『何だそれ』


「KZ内部の長期分析AIの、監視用簡易版です。外部AI利用の検知と、異常なプレイログの抽出くらいなら使えます」

『“くらい”の規模じゃないだろ』

「本物はもっと凄いそうですよ。ちなみに派生型をシルジェネで使わせてもらってます。性能、聞きます?」

『聞きたくない』


 ◇◇◇◇


『KZ-1は九十分ごとに十五分休憩』

「健康的ですね。プリンも食べられます」


『何でプリン限定なんだ』

「よい食べ物です」


『お前、昔から好きだったな』

「今も好きですよ」

『どうでもいい!』


 チーフPは笑顔のまま真面目に言った。


「卵、牛乳、砂糖。三者の協調によって成立する完成度の高い食品です」


『社会シミュレーションみたいに語るな!』


「カラメルという異質な要素を受け入れてなお調和する」

『黙れ!』


 みゅ〜〜〜ん。


『配信は全員分なんて無理だからな。有名選手、上位、重大イベント、それとKZスペシャルが拾った妙なプレイを選別する』


「妙なプレイ。よいですね」


『無名参加者は基本映らない』

「面白ければ?」


『候補には上がる』

「楽しみですね」


 公式配信には遅延を入れる。


 過去の攻略Wikiは閲覧できるが、大会中の現行攻略共有は制限する。


「古参さん達、避難所を作りますね」

『作るだろうな』


「私も行ってよいですか?」

『ダメだ! お前は運営だ!』


「昔からWikiには書いていますが」

『「まだバレていない仕様がありますよ」とか書くのやめろ!』


「皆さん楽しそうでしたよ」

『質問が殺到するんだよ!』


「答えなければよいのでは?」

『書いたのお前だろ!』


 ◇◇◇◇


 本日の会議は三時間を超えた。


 統合Pの企画書は、最初とは別物になっていた。


 現実三十日。

 ゲーム内五十年。

 一八三八年開始。

 数え十五歳。

 全員、田口村周辺。

 出自選択。

 β版キャラクターカスタマイズ限定復活。

 外部AIは禁止。

 人間への相談は可。

 長期間ご愛顧感謝品。

 配信は選別。


 統合Pは資料を眺めた。


『俺、今まで何してたんだっけ』

「よい大会を作りに来たのでは?」


『元の案、一割くらいしか残ってないぞ』

「九割改善しましたね」


『誰が決めた!』

「私です」

『ゲーム側の全権持ってる奴が言うな!』


 チーフPはにこにこしている。


「ところで」

『まだあるのか』


「賞品にプリン一年分を入れませんか?」

『入れない』

「残念です」


『そこは諦めるの早いな!』

「では、参加者にプリン好きがいることを期待しましょう」

『何を期待してるんだよ!』


 みゅ〜〜〜ん。

 みゅ〜〜〜ん。


『二本にするな!』

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