第12話:世界大会があるそうだ
またごめんなさい。
面白くするために、はっちゃけるシーンを前倒ししました。
この前の回、第11話を完全に差し替えて、Wiki回にしました。
ぜひそちらを読んでください!
翌日。
「⋯⋯一個しかない」
冷蔵庫を開けたまま、俺は固まった。
「何が?」
リビングから美咲の声。
「プリン」
「あるじゃん」
「昨日二個買った」
「一個食べたよ」
「なぜ堂々としている」
「美味しかったから?」
「理由になってない」
美咲の前を見る。
空の容器。
証拠隠滅すらしていない。
「俺のだったんだけど」
「名前書いてなかったよ」
「冷蔵庫の中にある物は早い者勝ちじゃない」
「じゃあ次から書けば?」
「そうする」
第二次プリン領有権紛争は、今後すべてのプリンへ所有者名を明記することで暫定合意に達した。
「買ってくれば?」
「あと十三分」
「何が?」
「昨日のWORLD CHALLENGE」
攻略Wikiを見る。
正式発表まで、
【00:12:41】
「まだ十二分あるよ」
「往復したら間に合わない」
「プリンと世界大会、どっちが大事なの?」
「プリン」
「じゃあ買ってきなよ」
「世界大会も大事なんだよ」
「欲張りだね」
お前が食わなければ両立していた。
◇◇◇◇
残り三分。
攻略Wikiは昨日以上に荒れていた。
《あと三分》
《逃げるなら今》
《海外ニキも沼るのか?》
《今回は何年やらされるんだ》
《チーフP関わってませんように》
《無駄な祈りに時間を費やすな》
《もうエントリーページ開いてる》
《お前逃げる気ないだろ》
「全員やる気じゃねえか」
「楽しみにしてたんだね」
「昨日の『逃げろ』は何だったんだ」
「挨拶じゃない?」
嫌な挨拶だ。
残り十秒。
《5》
《4》
《3》
《2》
《1》
ページが切り替わった。
〖SILK GENESIS WORLD CHALLENGE〗
「来た」
その下。
〖主催:からくり堂〗 〖特別協力:KZ GROUP〗
「KZ?」
「会社?」
「それは見れば分かる」
今はいい。
続きを見る。
〖開催期間:30日間〗
「一か月か」
次。
〖ゲーム内開始年代:1838年〗
〖ゲーム内終了年代:1888年〗
「五十年?」
「そう書いてある」
「一か月で?」
「狂ってるね」
コメント欄も同意見らしい。
《五十年w》
《正気か》
《一日何年進むんだよ》
《有給じゃ足りねえ》
《仕事やめるなよ》
「最後だけ妙に現実的だな」
「大事だよ」
説明を読む。
大会期間中は通常より時間進行を高速化。
途中離脱可能。
再参加不可。
「逃げ道はあるのか」
「使う?」
「使わない」
「知ってた」
さらに下。
〖評価基準:GENESIS POINT〗
「何ポイントだよ」
資産。
人口。
地位。
それだけではない。
プレイヤーの行動によって生まれ、その後も世界に残った変化を評価する。
制度。
技術。
流通。
文化。
生活。
最後に一行。
〖あなたのいなくなった世界。何が残りますか〗
「⋯⋯なるほど」
「お金持ちになれば勝ちじゃないんだ」
「干し柿が五十年残れば点になるのか?」
「まだ柿言ってる」
「俺の最初の産業だぞ」
「三個だったけどね」
ゲームが増やしたんだ。
俺のせいではない。
たぶん。
中間評価もある。
〖1848年〗
〖1858年〗
〖1868年〗
〖1878年〗
〖1888年〗
「十年ごとか」
横で美咲が止まった。
「どうした」
「1838年?」
「最初に書いてあっただろ」
「榎本武揚、1836年生まれ」
「⋯⋯二歳だな」
「いる」
声が変わった。
「二歳だぞ」
「五十年ある」
「だから?」
「育つ」
嫌な予感がした。
「参加する」
「何に?」
「世界大会」
「理由は?」
「榎本武揚」
「大会の趣旨どこ行った!」
もう参加条件を読んでいる。
「お兄ちゃんも出るんでしょ?」
「まあな」
「じゃあ一緒にやろう」
続きを読む。
〖参加者ごとに独立した世界を生成します〗
「別々だぞ」
「じゃあ邪魔されないね」
「俺が言う台詞だろ」
大会中、他プレイヤーの世界へ直接入ることはできない。
それぞれ同じ1838年から始まる。
「じゃあ俺の世界にも榎本武揚いるのか?」
「いるんじゃない?」
「榎本武揚が大量発生するな」
「その言い方やめて!」
参加登録。
大会では本人確認が必要らしく、本名を元にした表示名が使われる。
俺は、
〖K TAKAGI〗
美咲は、
〖M TAKAGI〗
「似てるな」
「兄妹なんだから仕方ないでしょ」
「海外勢にセット扱いされそう」
「別にいいじゃん」
美咲は迷わず登録した。
〖M TAKAGI エントリー完了〗
「本当に出るのか」
「榎本武揚がいるから」
「それしか言わないな」
コメント欄も参加表明で埋まっている。
《登録した》
《五十年完走する》
《仕事やめるなよ》
《海外勢も来るらしい》
《GENESIS KEY使える?》
「ん?」
知らない単語。
「GENESIS KEYって何だ?」
「検索すれば?」
Wiki内検索。
【GENESIS KEY】
出た。
〖追加セーブ地点を一か所作成できる課金アイテム〗
「セーブキーか」
価格。
〖120円〗
「安っ」
その下に更新履歴がある。
【旧価格:110円】
【現価格:120円】
「十円値上げ?」
コメント。
《祝・値上げ》
《やっと上げた》
《もっと取れ》
《十円じゃ足りねえ》
《千円でも買う》
《頼むから俺に課金させてくれ》
《社員を餓死させるな》
「何こいつら」
値上げで喜んでいる。
「宗教?」
美咲が画面を覗く。
「違う」
「じゃあ何?」
「限界集落」
十年続くゲームで、課金アイテムの十円値上げを祝う。
意味が分からない。
しかも大会中はGENESIS KEY使用不可と書いてある。
「じゃあ何で今話題になってるんだ?」
「みんな好きなんじゃない?」
「百二十円の鍵を?」
「限界集落なんでしょ」
「俺が言ったけどさ」
ページ上部に新しい表示。
〖WORLD CHALLENGE景品一覧〗
〖明日公開予定〗
「賞品じゃなくて景品?」
コメント欄がまた加速する。
《景品あるんだ》
《嫌な予感》
《普通ので頼む》
《からくり堂だけで決めてくれ》
《KZ入ってる時点で無理じゃね》
また出た。
KZ。
「さっきからKZって何なんだ?」
「スポンサーじゃない?」
「何屋だよ」
「知らない」
画面の隅。
〖特別協力:KZ GROUP〗
名前だけは二度目。
何をする会社なのかは、まだ分からない。
「まあ、明日になれば分かるか」
「プリンも明日買ってきてね」
「お前が買え」
世界大会より先に、我が家の補給問題を解決する必要がありそうだった。




