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#124:エピローグ

これで本当に最後です。

 ゆっくりと意識が覚醒してゆく……。

 意識が戻ると、窓からは少しオレンジがかった夕陽が差し込んでいた。

 頭の中がうまく働かない。

 しばらくぼんやりとして、頭の中がハッキリするのを待つ。

 ここはどこだろう?

 何をしていたのだろう?

 部屋を見回す。見慣れた部屋のようで、そうでない様で……。

 キングサイズのベッドとドレッサー。

 ここは寝室?

 フローリングの床に座り込んだまま、私はぼんやりと考えていた。


「夏樹」

 ふいに名前を呼ばれ、ドキッとする。

 ああ、懐かしい低音のあの声は……?


「ここにいたのか」

 振り返ると、ドアのところにあの恋しい人の顔があった。


「どうした?」

 私が変な顔をしていたのだろうか?

 彼は、心配顔になって、近づいてきた。

 頭の中を覆っていた霧が少しずつ晴れてゆき、記憶が戻りだす。


「祐樹」


 夢を見ていたようだ。長い、長い夢を……。

 私はさっきまでの夢を思い出して、クスクスと笑った。


「何笑っているんだ?」


「あのね、私、この指輪を失くしてしまって、祐樹と結婚できなかった夢を見たの」

 祐樹は私の話に目を見開いた。


「それがね、三十五歳の誕生日に、この指輪が私の元に戻って来て、祐樹に再会するの」

 私は、そう話しながら、また思い出してクスクス笑った。


「そんなに楽しかったのか?」

 彼は笑う私を怪訝な顔で見つめて問いかける。私は首を横に振った。


「祐樹と結婚できて良かったなって思って……。夢みたいに、祐樹がアメリカへ行っている五年間、会えずにいるなんて、耐えられないもの。でも、どうしてこんな夢を見たんだろう?」

 私が、夢を思い出して考え込んでいると、祐樹はにやりと笑って、私の額をつついた。


「指輪が見せたんじゃないのか?」


「え? どうして?」


「日本へ帰って来てから、夏樹は親父とばかり、出かけているだろ? 夫の事を忘れるなって、指輪からの忠告だよ」


「なによそれ? お父さんとばかり出かけているって、瑞樹(みずき)も一緒だよ」


「親父は、社長のくせに、俺に仕事を押し付けて、他の仕事をしているんだと思ったら、夏樹や瑞樹を連れてスイーツ巡りをしているんだから。社長としての自覚はどうなっているんだ」

 私は、真剣に怒っている祐樹を見て、キョトンとしてしまった。そして、思わず噴き出してしまった。


「お父さん、祐樹が良くやってくれているから、助かるって言っていたわよ」


「そんな事、当たり前だ。……それより、体の方はいいのか?」


「うん。今日病院へ行ったら、順調だって。お腹が張る時は無理をしないで安静にしなさいって言われたけどね」


「アメリカからの長旅や引っ越しなんかで、ちょっと無理したのかもな。やっと落ち着いたから、これからはゆっくりとしてろよ。疲れた時はお袋に瑞樹を預けたらいいから。せっかく隣に家を建てたんだから……」


「お義母さんのバラ園を半分潰したのは、申し訳なかったけど……」


「向こうから言いだした事だ。気に病む事はないさ。それより今日の誕生会は、親父やお袋も来るんだろう?」


「もちろんよ。とても楽しみにしていらっしゃったわ。そうそう、もう一人、スペシャルゲストがいるの」

 私は今日新たに招待した人の事を思い出して、また笑いが込み上げた。


「え? 誰か招待したのか? お店の方は人数大丈夫か?」


「ええ、すぐに電話したら、大丈夫ですって……。ねぇ、誰を招待したと思う?」


「う~ん、圭吾と舞子さんか?」


「いいえ。……お祖父様よ」


「ええっ? 祖父さんを呼んだのか? 本当に祖父さん、来るって言ったのか?」


「ええ、それがね。瑞樹を連れてお祖父様を訪ねたの。瑞樹に招待状を持たせてお祖父様の所へ行かせたの。そうしたら、もう、お祖父様ったら、瑞樹にメロメロになっちゃって……。おおおじいちゃま来てね、なんて言われて、ニコニコでよしよしって了解してくださったの。作戦大成功よ」


「祖父さんまで虜にするなんて、瑞樹の将来が心配だよ」

 祐樹はそう言うと、一つ溜息を吐いた。


「結婚してから初めてよ。浅沼家全員そろうの。記念すべき三十五歳の誕生日ね」


「俺としては、夏樹と二人きりで祝いたかったけどな。初めて一緒に祝った時みたいに……」

 祐樹はそう言うと、私の体を抱きしめて、顔を近づけて来た。


「お母さ~ん」

 その時、瑞樹の呼ぶ声に私達はハッとし、体を離した。しかし、祐樹はすかさず私の頬に手をやると触れるだけのキスを落とし、立ち上がった。そして、廊下へ出ると「瑞樹」と呼んだ。


「あっ、お父さんだ」

 さっきまで隣の両親の家でお義母さんと一緒にいた瑞樹が、戻って来たのだった。父親の姿を見つけて、嬉しそうに飛びついている姿が、少し遅れて廊下へ出た私の目に飛び込んで来た。


 瑞樹は、アメリカへ行ってからすぐに妊娠して生まれた、私達の長女だ。今私のお腹の中には第二子がいる。どうも男の子らしいと、言われている。どちらでも、元気に産まれてくれればそれでいい。


 私は、今日見た夢を思い出して、今の幸せを噛みしめた。そして、左手の薬指の指輪を見つめた。

 この幸せは、この指輪が導いてくれたのかも知れない。

 私はそっと感謝をこめて指輪に口づけた。


         *****


 指輪は、過去を塗り替え、そして現在に追いつくと、全ての記憶を塗り替えてしまった。しかし、浅沼家の人々は、その指輪の魔法に気付きもしなかった。




最後の最後に、皆様を驚かせてしまったでしょうか?

現在編に戻ると思っていられた方もあったでしょうし……。

35歳の誕生日に夏樹の手元の戻った指輪は、母親から指輪を譲り受けた時まで戻り、過去をやり直させたのです。

そして、過去編がいつか現在の時間に追いつき、全ての過去を塗り替えてしまった。

現在の出来事が少しだけ夏樹の記憶に残ったけれど、それは夢と言う形で塗り替えられた新しい現在に置き換えられたのです。


辻褄が合わない事もあったかもしれませんが、現代ファンタジーだと言う事で、お許しください。


1年以上にもわたり、長い間ありがとうございました。

沢山の皆様にお付き合い頂き、沢山のアクセスと

沢山のお気に入りの登録を頂き、そして、丁寧な感想を頂き、

大変励みになりました。

ありがとうございました。


2018.3.1推敲、改稿済み。

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