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外見ファクター 〜エステへGo!〜 作者:おせろ道則
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第七話 ますますナースはヒートアップ

「店長、よろしくお願いします!」
「まかせて紗枝さん!
 というわけで、スタッフの皆さん。カモーン!」
「へ?」
 紗枝は意表を突かれて固まった。
 店長が背後のブルーのカーテンをシャッっと開いた。
 なんとそこには、店長と同じく、ナースの格好をしたスタッフの面々が。
 十人近く、ずらりと並んでいる。
 二人の会話を覗き見していたのだ。
「おお、皆さん神々しい!」
 紗枝はまた、クラリとめまいを起こした。
 店長に負けないほど自信と後光に満ちたスタッフが、
「はじめまして、紗枝さん」と、一斉に挨拶をした。
「私の自慢のスタッフです」
 そういって、店長もその団体の中に入った。
「はうっ!」
 紗枝はまぶしさにあてられてしまった。
 店長を筆頭にした、あまりにも美しいエステシャンたち。これで、一枚の絵画が出来上がりそうだった。
「紗枝さん、話は聞いてました。一発、綺麗になりましょう」
 溌溂はつらつとした声で、一人のスタッフが紗枝に歩み寄ってきた。

 歳は三十代くらい。
 落ち着いた雰囲気の、比較的がっしりとした体格の女性だ。
 背が高く、水泳選手のように肩が厚い。茶色い髪はショートカット。
 形のいい耳に、ダイヤのピアスが光る。
 エステシャンにはめずらしく、健康的な焼けた肌。その笑顔には、透き通る白い歯。

 紗枝はこのエステシャンに、自分と通ずる体育会系のノリを感じ取った。
 店長が進み出て、彼女を紹介した。
「紗枝さん、こちら、チーフの中島先生です。
 先生は東洋医学に長けていて、ここではモンテセラピーを担当していただいています」
「モンテセラピー?」
「東洋医学の知識を使った、頸椎や体中のツボを刺激して、体の内からゆがみを治していく施術です」
 店長はいった。
「ここのエステは、西洋・東洋混合でやってますからね。効果の出は早いですよ」
 中島チーフは微笑んでいった。
 そしてしゃがみこみ、紗枝の身体を触り始めた。
「ひゃっ」
「大丈夫、そのままじっとしてください」
 中島先生は、もうすでにお仕事モードに入っていた。
「はぁ〜何でしょう、私、これからどんなことをするんですか?」
 されるがままになりながら、紗枝は尋ねた。
「そうですね、紗枝さんは、腰周りと足の集中コースがいいかと。
 足は、そうですねぇ、筋肉質で太ももの厚みが気になりますので……
『スペシャル』いっときましょうか」
 スペシャル? 紗枝は内心びくついた。
「うん。そうですね」
 店長が力強くうなずく。
「外からの刺激で、固まった筋肉と、その間に挟まったセルライトをほぐしていく強力なマッサージです。
 やわらかくほぐせば、そこの筋肉も正常な位置に戻していけますし、どんどん細く、綺麗な足になっていきますよ」
 中島チーフはにっこりと微笑んだ。
 店長が続けていった。「あと、ウエスト。もうちょっとくびれが欲しいですね」
「そうですね、じゃあそのあたりはソルトマッサージで脂肪燃焼がいいでしょうか」
 中島チーフと牧野店長が、どんどん紗枝用カルテを作っていく。
「ああ、あの、店長」
 紗枝がその勢いを一時シャットダウンして、店長に尋ねた。
「はい?」
 店長はカルテから顔を上げて、聞き返した。
 紗枝は遠慮がちに尋ねた。
「それでですね、その、気になるところの……お値段は?」
「ああ、そうでした」
 そのことに今思い出したようで、店長は、ぽんと手をたたいた。
 すると、後ろのスタッフの一人が、さっと電卓を持ってきた。
「まず、コースとしましては」
 軽快なリズムで、店長が電卓を叩く。
「大体、三〜六ヶ月コースが通常でして。
 紗枝さんは、短期集中型で、三ヶ月コースを組みたいと思ってるんです」
「ふんふん」
「ちょうど体の細胞がすべて入れ替わるのが、三ヶ月ですからね。
 安定期も入れていくとなると、もうちょっと伸ばしたいけど……
 ま、とりあえず三ヶ月でいきましょう」
「はい、なるほど」
「で、お値段ですが」
「はい」
 紗枝はごくりとつばをのんだ。
「二十万ですね」
「―」
 まず、絶句。それから口を半開きにして、紗枝は焦点の定まらない瞳で天を仰いだ。
 なにしろ紗枝は大学生。普通の貧乏大学生なのだ。
 しかし、紗枝は天井をしばらく見上げていた後、勢いよく頭を戻し、凛々しい瞳で店長を見つめた。
「分かりました、工面してきます」
「かっこいい!」
 店長が手をたたいた。
「紗枝さん、素敵!」スタッフ全員から、拍手喝采があがった。
 店長は紗枝をぎゅっと抱きしめた。
「紗枝さん、間違いなく綺麗になりましょう!」

 店長に抱きしめられたまま、紗枝はじっと黙っていた。
 下唇を軽く噛み、自分を落ち着かせるように、何度もうなずいた。
―どきどきが治まらない。
 紗枝は服の上から胸を押さえた。
 彼女は一歩を踏み出した。
 そう、紗枝は今、新しい世界に挑戦し始めたのだ。

 *

 胸ポケットに入れてあった携帯のバイブが震えたとき、栄次はちょうどドライブウェイで休憩していた。
「あ」
 携帯のメールを見て、栄次は小さくつぶやいた。
 時刻はもう夕方で、山道に作られたドライブウェイから見える夕日は、はるか向こうの海の中に沈んでいく最中だった。
 バイクをなでながら、栄次はメールを丁寧に読んだ。
 メールは、紗枝からだった。
《栄次、ありがとー! 今日店長に色々話聞いて、さっそく、ダイエットはじめることになりました!
 紹介してくれて、ほんとありがとー☆》
「おお」
 栄次はメールを読み終わり、少し複雑な心境を抱いた。
―多分、結構なコース、組んだんだろうなぁ。
「―まあ、体壊すよりはずっといいしな。姉貴もいるし、安心だ」
 独り言をいいながら、栄次は紗枝に返信メールをうった。
《無理しすぎんなよ〜》
 送信を確認して、栄次は携帯を閉じた。
 胸ポケットにしまいなおすと、ゴーグルをはめ、エンジンをふかした。
 そして、彼女との夜のデートの待ち合わせ場所に向かって、大きくバイクのハンドルをきった。



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