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水鏡に咲く白き花 作者:水城ゆま

第一章 『 一蓮托生 』

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「 桔梗と東雲 」



二人が紅炎(コウエン)から下りて、並んで歩きながら家の門を(くぐ)ろうとした時と同じ瞬間、
家の中から 長く美しい髪と細身ながらも豊満で、色とりどりの装飾と(ころも)に身を包んだ一人の若い女性が姿を現した。


花のように美しいその女性に、睡蓮(スイレン)は思わず瞳を奪われ 見惚(みと)れてしまったが
女性と白夜(ハクヤ)は お互いが遭遇するとは思っておらず、思わず 顔を強張(こわば)らせた。


桔梗(ききょう)、来ていたの…!? 」

「 ……御帰りなさい ――― 前からの約束を守るために来たの。別に責めてるんじゃないわ……本当よ? 」

「 もう来ないかと思ってた…――― ありがとう。」


女性の名が『 桔梗(ききょう) 』という事は理解できたが、
何が " 約束 " で " ありがとう " なのか解らず、睡蓮(スイレン)は二人の会話を黙って見守る事にした。


「 今日はひとりじゃないのね…… 」――― そう言いながら、桔梗(ききょう)と呼ばれている女性が自分のほうを見た事に睡蓮(スイレン)は気づいた。
挨拶する出番かと思ったが、桔梗(ききょう)(すで)に その美しい瞳を逸らしていた。


「 これは…違うんだ! 彼女の記憶を取り戻すために、たまたま…――― 」

「 いいのよ、気にしないで…! 貴方(あなた)の自由だもの。
  ――― ちゃんと 貴方達の分も作ってあるから食べてね。」

「 君は帰るの? 」

「 そうよ、本当は今まで待ってたんだけど…――― もう行かなくちゃ。」


白夜(ハクヤ)は 真っ直ぐ 桔梗(ききょう)のほうを見ていたが、
桔梗(ききょう)は、決して 白夜(ハクヤ)睡蓮(スイレン)とは目を合わせようとはせず
それまで、ゆっくりと歩いていた足取りも 徐々に 早いものへと変わって行く ――― 。

睡蓮(スイレン)の前を通り過ぎようとした瞬間、
桔梗(ききょう)は思い直したように足を止め、顔だけを睡蓮(スイレン)のほうに向けた。


「 あなたが白夜(ハクヤ)が助けた女の子? 」

「 あ…はい!睡蓮(スイレン)…と申します ――― とりあえず。
  あの…はじめまして…ですよね? 」

「 私は桔梗(ききょう)。はじめまして…………… それじゃあ ――― 。」

「 あ…… 」

睡蓮(スイレン)に何か言いかけたのを ぐっと(こら)えて、桔梗(ききょう)は また進み始めた。
彼女と もうちょっと話してみたかった睡蓮(スイレン)は、少し残念に思いながらも彼女の後ろ姿を見送る事にした。


「 ごめん!睡蓮(スイレン) ――― すぐ戻るから紅炎(コウエン)の紐を持ってて!
  できれば、馬屋(うまや)に入れてくれ!
  わからない時は父を呼ぶんだ!中にいるはずだから!! 」

「 え? 白夜(ハクヤ)さ……待っ…… ――― 」

紅炎(コウエン)の手綱を有無を言わせず睡蓮(スイレン)に持たせると、白夜(ハクヤ)桔梗(ききょう)を追いかけて走って行った ――― 。
去って行く二人の姿を見ながら、今朝も 今と同じような事があったような気がする・・・と睡蓮(スイレン)は遠くを見つめた。




























桔梗(ききょう)! お願いだから待ってくれ!話を聞いてくれ!!
 あの()は昨日ようやく目覚めたんだ!
 俺とは今朝 会ったばかりで まだ何も知らなくて……
 それどころか、目覚める前の記憶すら無いんだ!! 」


白夜(ハクヤ)の脚で桔梗(ききょう) に追いつく事など、容易(たやす)い事だったが白夜(ハクヤ)()えて桔梗(ききょう)の後ろを歩く事にした。
桔梗(ききょう)が怒っている時は、そのほうが良いのだ。


「 記憶喪失の事は、さっき 秋陽(しゅうよう)様から聞いたわ。
  あの娘に記憶があろうとなかろうと、良かったじゃない可愛らしい(かた)で!」

桔梗(ききょう)…――― 俺は…… 」

「 ああ、もう! ――― これじゃ急いで歩いてる私のほうが疲れるだけ!!
  ついて来るのは もうやめて!いいからほっといて!! 」


(わめ)き終えると、桔梗(ききょう)は立ち止まり、(うつむ)いて肩を震わせた。
――― その顔は泣いている。
白夜(ハクヤ)は一瞬、彼女に触れても良いものか 迷いながらも後ろから彼女を抱きしめた。



桔梗(ききょう)、俺が好きなのは君だけなんだ…… 」

「 ………うっ…ぅっ…………っ……」

「 君じゃないと俺は嫌だ……。 」


泣き続ける桔梗(ききょう)白夜(ハクヤ)は強く抱きしめた。
――― 桔梗(ききょう)が泣く理由は ただひとつ。
白夜(ハクヤ)睡蓮(スイレン)を助けた時の状況を彼から聞かされているからだった。


















「 きゃあっ!!――― あ…あの、紅炎(コウエン)待っ…―――  」


白夜(ハクヤ)桔梗(ききょう)をなだめている間に、紅炎(コウエン)が勝手に動き始めた ―――
睡蓮(スイレン)の細腕では、紅炎(コウエン)の手綱を両手で握ったとしても
その圧倒的な力に引っ張られながら 歩くしかなく、
自分の身体より 大きすぎる紅炎(コウエン)を どう扱えば良いのか分からず
長く巨大な足に踏まれたり蹴られやしないか睡蓮(スイレン)の心は恐怖で一杯(いっぱい)になっていた。


( このままじゃだめだわ…… 先生か日葵(ひまり)さんを呼ばなくちゃ……!! )
―――――― 辺りを見渡したが、二人の姿は見えない。


「  あのー…!先生!! 秋陽(しゅうよう)先生!?  」



大きな声を出したつもりだったが、病み上がりの睡蓮(スイレン)に そこまでの大声は出せる訳も無く・・・・
それどころか、今の叫びで体力を消耗してしまい、紅炎(コウエン)が自由に歩き出して まだ(わず)かな時間しか経っていなかったが、すでに睡蓮(スイレン)の体力は限界を迎えつつあった。


( ああ…どうしよう。めまいがして来た…… )








「 大丈夫だから、手を放してごらん? 」――― 意識が遠のきそうになる中、睡蓮(スイレン)は誰かの声が聞こえたような気がした。

( 気のせいかしら……? 私の願望が そのまま声になったかのような声が…… )









「 聞こえてる? ――― 紅炎(コウエン)は大丈夫だから手綱を離してごらんって! 」

「!?」――― 声がした瞬間、睡蓮(スイレン)は何かに引っ張られたような感覚になり、思わず紅炎(コウエン)の手綱を手放した。
()ぐに持ち直そうと手を伸ばすも、想いとは裏腹に体力が追いつかず ―――
朦朧(もうろう)としながら、闊歩(かっぽ)して行く紅炎(コウエン)の後ろ姿を眺める事しか出来なかった ――― 。


(  どうしよう……!白夜(ハクヤ)さんに頼まれたのに…―――   )
――― 眺め続けていると、紅炎(コウエン)は そのまま 自分の馬屋へと入って行った。

「 え…? もしかして、そこがあなたのお部屋なの……? 」と、聞いた睡蓮(スイレン)に返事をするかのように、紅炎(コウエン)が雄たけびをあげた。
()は最初から彼女に頼る気は無く、自分で自分の小屋に帰り進んでいたのだ。

落ち着ける我が家に (ようや)く帰り着いた紅炎(コウエン)は、鱈腹(たらふく)と水を飲み始めていた。

( やっぱり、白夜(ハクヤ)さんと紅炎(コウエン)は似ている気がする………。 )
 

深い溜息(ためいき)をつきながら、睡蓮(スイレン)は全身の力を抜いた ――― その時、
何時(いつ)の間にか 自分が何かに持たれかかっている事に、(ようや)く 彼女は気が付く。



「 ね? 離しても平気だったでしょ ――― アイツ賢いから 自分でちゃんと帰れるんだ。 」と、頭上から声がしたので、睡蓮(スイレン)が驚いて後ろを振り返ると背後で見知らぬ若い男性がニコニコと笑っているのを目にする。

よくよく見ると、その男が両腕で睡蓮(自分)を抱き支えており、
自分が全体重をかけて持たれかかっていたのが その男性の胸板だったと知るや否や
睡蓮(スイレン)は 慌てて 男から離れた ――― が、体力の消耗からよろけてしまった。


「 おっと、大丈夫ですか?  」――― よろけそうになった睡蓮(スイレン)の両肩を、再び 男は両手で支えた。
紅炎(コウエン)に引き摺られて、倒れそうになった睡蓮(スイレン)を引っ張り支えたのもこの男だ。


「 ごめんなさい! 紅炎(コウエン)に気を取られていて気づきませんでした……。 」

「 こちらこそ、初めて会うのに驚かせてしまったみたいですみません!
 ………あれ?初めてかな…? ――― 前にどこかで会わなかった?
 いや、口説いてるんじゃなくて本気でそう思ってるんですけど…… 」


男は、眉を(ひそ)めながら睡蓮(スイレン)の顔をじっと見つめた ――― 。
白夜(ハクヤ)ほど華がある容姿では無いが、その男は端正な顔立ちで切れ長の瞳が美しく
花の香りのような(こう)の匂いを漂わせている。

間近で見られる恥ずかしさから 睡蓮(スイレン)は顔を隠すように(ころも)の両袖を自分の顔の前に出した。


「 あの…私、ここに来る前の記憶が無いので……会っていてもわからないんです。ごめんなさい…。」

「 あ、その話は さっき 先生から聞きました。 ――― あなたがそうでしたか…!
  あ、俺は東雲(シノノメ)って言います。よろしくね! 」
――― そう告げながら、東雲(シノノメ)と名乗る男はにっこりと笑った。


「 …て事は、今ので 結構 疲れたんじゃないの!?
  君、昨日目覚めたんでしょ? 早く 休んだ方が良いよ!
  ったく、白夜(ハクヤ)は患者さんに何やらせてんだ……! 」


東雲(シノノメ)は馬屋の鍵をかけると、睡蓮(スイレン)の手を取り、 秋陽(しゅうよう)の家屋の玄関に向かって歩き出した ――― 。



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