表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
嘘斬り姫と不死の怪物  作者: Hiro
偽りの救世主
25/50

第二章 二話c

「オデ様は…、オデ様は……」

 トールが長い夢から目覚める。

 そこは屋敷ではなく屋外だった。トールの回復力を高めるため、スミが魔力の集まりやすい場所へと彼を運んだのだ。

 風化した瓦礫の転がるその場所で、トールは今はなき塔を見上げる。

「夢をみた」

「そうか……」

 トールの呟きにスミは短く応える。なんの夢かは確認はしない。聞かずともそれを想像することは難しくなかった。

「スミ、もっかいやるぞ」

 トールは立ち上がると、身についた汚れをはたき落とす。

「しかし、これまでも何度も失敗しているんだぞ」

 森から出ようとするのだと勘違いしたスミは難色を示した。だが、トールはそうではないと否定する。

「オデ様は今まで自分の罪を忘れ、ここから逃げようとしていた。だが、今回はちがう。取り戻すためにもう一度やり直すんだ」

「なにをだ?」

 トールの意図がつかめず、スミが質問をする。

「戦争だよ戦争」

「戦争だと?」

「そうだ、戦争を起こす。オデ様から民を奪ったあのクソ餓鬼をぶん殴って、アヴェニールを取り返すんだ。兵隊はいねぇがそんなもんはどうでもいい。オデ様がいれば主人公補正で勝利は確定だ。オデ様は未だかつて戦場で負けたことはねぇ。この国にまた戦争をもって利益をもたらす」

 集められた瓦礫の上によじ登り、森に向かって宣言をする。

「オデ様はここから逃げ出すんじゃねぇ、奪われたもんを奪い返す為に戦いに行くんだ。勝利の暁には必ず凱旋を果たす!」

 それは詭弁でしかない。

 されどトールを物理的に拘束する力はないのだ。その意識の楔さえ外れれば、森の外へ出ることはできるのではないか。スミはそれを期待した。

「我こそは魔術王トール。いまひとたび遠征へと向かう。民は我が帰りを信じて待て!」

 ズボンから槍状の魔具を引き抜き、瓦礫の上に突き立てる。槍を中心に大地に紋が広がる。すると瓦礫が集まり人型を形成する。トールよりもさらに大きな岩人形クレイゴーレムができあがる。

 産み落とされたばかりの下僕に、トールは威厳をもって命令する。

「この森に侵入する者をすべて叩き出せ! オデ様の留守を守るんだ!」

『ぼっ』

 岩人形は目を明滅させて主命を受諾する。するとさっそく森の外周付近へと見回りに行った。

「これで防御は万全だ。いくぞ!」

 トールが絨毯型の魔具を取り出すとそれに乗り込む。

 絨毯は宙に浮かび上がるもののトールの体重を支えきれず地面を引きずった。それでも森の外へと勢いよく動き出す。

「全軍出発!」

 スミだけを脇に控えさせ、咆吼をあげる。

 しかし、その勢いはものの十秒もせずに泣き言へと変わるのだった。

「……やっぱ無理」

 魔具は森の外を目指し自動的に進むものの、トールの顔は青ざめている。

 その情けない様子に憤慨したスミがトールの尻を突きさし無理やり前進させる。

「とっとと、進まんか!」

「ほんぎゃらが~!」

 こうしてかつて、かつての大陸の覇者は一〇〇年ぶりに森の外へと出たのであった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ