挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
嘘斬り姫と不死の怪物 作者:Hiro

偽りの救世主

26/50

第二章 三話

「きゃっ」
 レーヴェストが目を覚ますと、すぐ近くに巨大なミミズが横たわっていた。
 驚き身体を仰け反らせ後ずさりするレーヴェスト。背中に木があたり、これ以上逃げ場かなくなったところでミミズが人間の言葉を喋った。
「あっ、起きた?」
「その声は……そうですかあの指輪は猫以外にも化けられるのですか。しかし、どうしてミミズに」
 相手が指輪の魔術で変身したアヴェニールであることに気がつくと、胸をなでおろした。
「よくわかんないんだけど、目が見えなくてもなんとかなる生き物になれたみたい。そっか、ミミズになってるんだ」
 確かにミミズは目がないが、ミミズになって何をしようというのだろうか。疑問に思うレーヴェストだが、ふと、自分の身体をみるとあたたかい泥にまみれていることに気付く。
「これは?」
「泥をかけておけば元気が出るかな~って。ミミズの本能……かな? それがさせたの」
「はあ……」
 どうにも、言ってる本人にもよくわかっていないような口調だ。だが、おかげで身体が冷えずにはすんだ。それでも泥だらけにされた身体には、相手に悪意がないとは思ってもうんざりする。
「そういえばミミズってお薬になるんだよね?」
 思い出したようにアヴェニールが提案する。
「なったとしても、食べるのは遠慮させてもらいますよ」
「しょぼん」
 巨大ミミズが頭部(?)を下げ、あからさまにガッカリする。
「仮に私が食べると言ったら、あなたは自分の身体を捧げるつもりなんですか?」
「ミミズの身体って切っても大丈夫なんでしょ?」
「そうだとしても、あなた人間に戻ったときのことを考えてますか」
「はっ、そういえば」
「(もう少し思考力はあると思ったのですが、変身の影響なのでしょうか?)」
 アヴェニールに失望に似た感情を覚える。
「ところで、レーヴェスト。あんたってミミズ嫌いなの? そんなに逃げないでよ」
「ええ、嫌いですよ。女々しくて悪かったですね。その手足どころか目鼻すらない姿は嫌悪しか沸きませんね」
 実のところ、自らの奥の手である『暗黒装衣ダーク・クロス』も、その見栄えが触手のようで気味が悪いと思っているほどだ。それでも使わねば切り抜けられぬ状況ならば、彼女は使いこなしてみせる。
「えへっ、褒められちゃった」
「褒めてません!」
 うねうねと身体をくねらせる巨大ミミズをレーヴェストは怒鳴りつける。
「まったく、好感度を上げてもいないのに、妙なデレ方をしないでください」
「えっ、あがったよ。身体張って守ってくれたじゃん。見えてないけど、あたしが逃げるかもしれないのに、安全を優先して指輪も返してくれたし、あなたがちゃんと私のことを考えてくれてるのはわかったから」
「けっ、この尻軽ビッチが」
 簡単に好意を寄せるアヴェニールにレーヴェストがらしくもなく言葉で罵る。国のため民のために『私』を捨てた彼女としては、気安く他人になれ合おうとする女は嫌悪の対象でしかない。
「なにより、嫌がられてるのが嬉しい。いままでなんだかんだで、みんな良くしてくれてたから、とっても新鮮な気持ち」
「そっちが本音ですか!」
「ねぇ、どうしてそんなにミミズが嫌いなの? ねぇねぇ」
「ウザいです。黙ってください。切り刻んで魚の餌にしますよ」
 すり寄ろうとするアヴェニールを輪切りにしてしまおうと考えたが、彼女の剣は二本とも失われている。その事を思い出し重苦しい気分になる。
 彼女の故国であるハズーは隣国と戦争状態にある。戦線を離れているだけでなく、頼りになる武器を二つも失ったことは大きな痛手だった。
 こうなれば、一刻も早くアヴェニールを連れて帰り、目的を達する必要があった。
「あー、変身が切れた」
 アヴェニールの変身が解け、人間の姿に戻ると自然と全裸になる。レーヴェストから与えられていた毛布にくるまり裸体を隠す。
「人の服を泥だらけにしといて、自分の分はキープですか。それ返してくれませんか? あなたは別に全裸でも良いでしょ」
 そう言うが、アヴェニールは「えへへ」と笑って、毛布を返そうとはしなかった。たいした荷物を持ってこなかったレーヴェストに着替えの用意などない。
「(それにしても……)」
 レーヴェストはアヴェニールの変化が気になった。さらわれた身でありながら、その笑顔はあまりに不自然だった。
 その理由にレーヴェストは思い当たると質問する。
「ひょっとして気付いてますか?」
「なにを?」
 質問の対象がわからないアヴェニールはキョトンとする。
「あなたの不幸を受けるのは、あなたに触れる以外にももうひとつ条件がある」
 レーヴェストの言葉をうけたアヴェニールは、少し間を開けてから答える。
「私が『いやだな』とか『怖いな』って思ってるとき……だよね?」
「気付いてましたか」
「レヴィが眠っている間に色々考えてたの、そしたらなんとなくそうかなって」
 トールに触られた時はいつも恐ろしさが胸にあった。
 スミの背中に乗ったときは好奇心を刺激されたが、やはり未知の体験は怖かった。
 トモに手を引かれている時は旅への不満があった。
 なにより、アヴェニールにとって、人と触れる時はいつも不安が絡んでいたのだ。
「街にいたころはここまで酷くはなかったもの。だからなにが原因なんだろうって」
「それで状況を確認して結論に至ったわけですか」
「うん、それが原因だったら、私がずっと楽しく笑ってれば、少しはみんなの不幸が和らぐんじゃないかなって」
 少女は少しでも不安を忘れられるようにと、懸命に笑い続ける。
「なるほど。でもなぜです? 私はあなたをさらった人間ですよ。恨みこそすれど気遣う理由はないでしょう」
「それでも自ら望んで人を不幸にしたくはないの」
 その考え方にレーヴェストは呆れる。しかし、アヴェニールの考えに心意気に応えるように、ポツリとひとつの名称を呟いた。
「真実の口」
「なにそれ?」
「あなたの力の源と目される特殊な魔具の名です。覚えてはいないでしょうが、幼い頃、あなたはそれを呑み込んでいるんですよ。それが原因で死ぬところだったとのことです」
「どうしてそれを」
「調べましたから。あなたの嘘斬りは間違いなく『真実の口』の力でしょう。不幸についての原因は特定できていませんが、やはりなんらかの影響を受けていると思われます。ひょっとしたらその目も」
 自らの力の根元に驚くアヴェニール。
「(真実の口……ひょっとしてお父様が信用してくれていたのは、その力を知っていたから?)」
 考えても答えはでなかった。
「今、私が言えるのはここまでです。
 そろそろ移動します。ですが、水晶玉を失った以上、あなたを抱えて飛ぶことはできません」
「重くないもん」
「単純に重量だけの問題ではありません。バランスが悪いですし、なによりも両手がふさがる。そんな状態での長時間飛行は、私といえど難しいのです。とにかく、まずは馬を手に入れるため、近くに村がないか探します」
「馬? あたしは馬に乗れないわよ」
 スミに乗ったときは、ただひたすらしがみついていただけだ。普通の馬に乗って操れるとは思えない。
「なるべくなら、馬車を手に入れたいところですが、いざとなったら私の後ろに乗って貰います」
「いいの?」
 対処が判明したとはいえ、彼女に触れることはレーヴェストにとっても大きなリスクをはらむ。目の見えぬ彼女が馴れぬ馬に乗って怖くないわけがないのだ。
「別にあなたに触れる前でも、私は何度も死ぬような目に遭ってきました。ええ、何度もね。だからあなたに触れる触れないに関わらず、私の不幸は確定しているのですよ」
 王子を名乗る女が、自虐するように語る。
「まぁ、できるならドラゴンとはもう戦いたくありません。馬を恐れずになるべく笑っていてください」
「わかった♪」
「でも、その前にどこかで汚れた服と身体を洗っていきたいですね」
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ