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世界はいつも 甘くない 作者:くろやぎさん
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ジャングルは登山に含みますか?



「…ゴクッ」

 ゆっくりと足を引く。中腰から一歩踏み出た体勢から、そろりそろりと後ろに下がる。意味も無く息を潜めてテントの端までたどり着き、ドサリとザックを地面に落とした。

「…ぶっっはぁ~!? なんだこれ! なんだこれ!! …え? なに? どうなってんのこれ??」

 荒い呼吸を繰り返し、混乱をぶちまけて、どうにかこうにか落ち着きを取り戻そうとする。…ぶっちゃけマジでホントどうなってんのこれ!?

(…いや、外はまだ白み始めたばかりだった…ような? …3時だよな? とにかく見間違いかも…)

 生唾を飲み、意を決して、慎重に、四つ足で這いながらテントの入り口へ向かう。そしてやはり、そ~っと入り口を捲り上げて外を窺った。

「…嘘やんこれぇ~」

 外は明るかった、ちょうど朝日が昇り何かの鳥の鳴き声が聞こえた、何の鳥だ? クァ~って何だ?
 そしてやはり、目の前は崖だった。てっぺんだった、高さ100mぐらいか? ビルでいえば二十数階。落ちたら死ぬ高さだが、感情が麻痺してるのかまじまじと下を覗いてしまう。口をあんぐりと開けて…あ、ちょっと崩れた。

「うおおおおぉ~~!!?」

 尻もちついてテントの中にブリッジしながらダッシュで下がる。マジこえぇ~!? 正直もうテントの外には出たくない。しかしここに居ては何も始まらない。
 再び息を整え、また外へ。先ほどよりさらに慎重に周囲を見回す。周囲は長閑な…、長閑な崖と森だ。

(朝? だよな。そして崖の上。高い、死ねる。そして…森。広い、端が見えない、ジャングルか? ブラジルか? ここどこだよ、『秘密基地』ちゃうし)

 自分の身に突然降りかかった理不尽な状況に、ついつい心の声が投げやりになってしまう。その理不尽は、見覚えのない大自然だ。
 おかげで俺の心は今現在もマッハで現実逃避中だ。離陸してしまった平常心に誰か着陸案内してほしい。具体的には説明プリ~ズだ。だがしかし、ここには俺しかいないようだ。ならばまずは自分で如何にかしなければならない。
 まず考えるのは、誰が、何時、何処で、どうなった?

・俺が → 夜中、寝ている間に → 『秘密基地』が → 崖になった

 …違うな。色々抜けてるし、項目が合っていない。あとバカっぽい。落ち着かなくてはいけない。もう一度、寝てからの事を考える。

 俺は昨日、間違いなく『秘密基地』で寝て、数時間後、激痛で目を覚まし、午前3時を確認し…腕時計も同じだ。そして辛い体に鞭打って、外に出てみればご覧の有様だ。
 そういえば背後は確認していない。…後ろも森だ。森の暗がりを見ていると、まだ目がチラついている。明るい場所を見ても、注意して見ればチラつく何かが見える。…体が心配だ。

 これは、自分が移動したと考えていいのだろうか? 時間が違う、場所が違う、とくればあの激痛のタイミングで移動した? 激痛の原因は? ここはどこ? 時差約3時間、日本じゃない? …何も分からない。

(誰か教えてくれ。…プリーズ)

 …とりあえず、何か食べよう。そして動こう。ここは俺の知らない場所だ。そして、誰もいないところだ。携帯は圏外、情報はない。体調も不明だ、はたして体は大丈夫なのか?
 家族、友人、会社の同僚、そして生活と仕事の事、色々なことを思いながらも朝食をとった。

 ………
 ……
 …

 まずは持ち物の確認だ。と言ってもあまり多くはない。予定では一泊二日だったのだ。今役に立ちそうなものを順番に並べていく。
 コンパス、マルチツールナイフ、サバイバルナイフ、ファーストエイドキット、サバイバルシート、ガスバーナー、クッカー・カトラリーのセット、トレッキングポール、ライター、メタルマッチ、LEDランタン、タオル2枚、シェラフ、テント、水筒、単眼鏡。大体こんなものだ。

 服装も軽装だ。キャップ、手袋、スポーツインナー、シャツ、シェルパーカー、コンバーチブルパンツ、登山靴、あとはソーラー内蔵のデジタル腕時計。

 食料は、これが一番やばい。何度も言うが一泊二日の予定だったのだ。そんなに持ち歩いているわけがない。ゼリー飲料とカロリーバー、飴数個、レトルトセット2袋、固形スープの素、缶詰3個、予備の水2L弱。これだけだ。自分では十分マージンを取ったつもりだ。

 あとは今は役に立たない地図とか、スマホとか、ティッシュとか、色々だ。

 俺は本格的に登山はしていないし、する時間も金もない、なんちゃって登山家だ。慣れた自然を満喫していただけだ。一応、泊りとかするので山岳保険は入っていたが。ならこれで十分だろう?

 これだけで、何が出来るだろうか。ここで救助を待つか? 救助って来るのか? 食料は本当に切り詰めれば二週間くらいは持つだろう。但し、動き回らなければ。その後は動く力もなく餓死するだけだ。
 もっとサバイバル勉強しとけばよかったのか? いや、それは現実的ではない。これでも登山計画はしっかり立てたし、この状況はそれで計算したリスク以上だ。救助を前提としたサバイバル知識はあるが、野生の世界で生き抜く知識などない。この森は何処まで続いているのだろうか? 近くに人のいる町や施設が無ければアウトだ。それをあてに探すだけでも危険だ。
 結局、どちらにもリスクがある。だが、最低でも、水は必要だ。水場を探しそこで判断しよう。

(とにかく生きねば…生き残らねば。そして早く帰らなければ、生活が危うい!? 帰ったらクビでしたとか、軽く絶望だ。受付の清水さんと最近仲良くなれたのに。帰ったら清水さんを、デートに誘うんだ! …これがフラグか、やめよう)

 現状を確認したところで、そろそろ出発しよう。目指すは背後の森だ。崖の方は降りられる場所は見当たらないし、その先も見渡す限り森だけだ。選択肢は、後ろにしかない。ただ、崖の反対に突っ込むのではなく、崖沿いに移動してみようと思う。崖から見下ろす森には、大きく開けた線が幾筋か通っていた。川の可能性がある。確認できれば水脈に検討がつくかもしれない。

 そうして俺は、生きる希望を探しに森の中へと足を踏み入れた。

ノリだけでは、やはりキツイですね。
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