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世界はいつも 甘くない 作者:くろやぎさん
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人生は、・・・冒険だ



 森に入って約一時間、ザックを背負いトレッキングポールを突きながら、只ひたすらに歩き続けている。森は崖の際まで浸食しているので、崖を右手に見ながら、慎重に足元を探りつつ、進んでいる。
 それにしてもこの森、いや原生林は、よほど深いか辺鄙な場所にあるのだろう。人の痕跡がまるでない。
 巨木、老木が立ち並び、根がのたうち、岩が突出し、苔むして、朽ちた枝葉で地面が見えない。おかげで滑る・転げる・踏み抜くのコンボで、大地の亀裂にホールインしかけた。それはもう必死だった。
 そんなわけで、現在は細心の注意を重ねながら、遅々とした歩みの中、水源をさがしている。

 というか、ここは益々日本ではない様な気がしてならない。こんな森は、富士の樹海か、屋久島ぐらいのものだろう。もちろんその二つには、こんな崖などないし、こんなに見渡す限りも広がってない。行った事はないが。
 さらには、動植物も日本では見ないものだ。尾が奇妙に長いネズミ? 数珠みたいな体のトカゲ? 頭がリーゼントのように突っ張てるカマキリ? 極彩色のキノコとそれを生やしている木の葉はブヨブヨした肉厚のものだ。崖から見える空の上には、先ほどからクァ~と鳴いているやたらデカい鳥が飛んでいる。

 「…なんだこれ?」

 もはや疑問しか湧かない。ここは日本以外でも大丈夫なのだろうか? なんか違くね? 進化論のどのあたり? あなたのご先祖なんて~の? …これで肉食獣と遭遇したと思ったら、実は草食とかないだろうか。ないだろうな。さらに凶悪な見た目でばっちりアピールしてそうだ。

 さらには…。

 (…光ってる。)

 薄暗い森の中、視界に映る全てのモノが、光り輝いている。明るさの強弱は個々にあれど、その輪郭が、その身体の芯が、そして空気が、まるでイルミメーションの様に瞬いているのだ。
 それなのに、『薄暗い』ままなのだ。光が陰影を写していない。それなのに、目に痛い。光で頭がパンクしそうだ。自己主張しすぎだ。食われちまうぞ。
 そして自分も、当たり前のように光を放っていた。なんでやねん。

 「…食われちまうぞ、俺。」

これは非常にまずい展開だ。あってはならない事態だ。心が震える現在だ、恐怖で。

 突然だが、ここで自分のアイデンティティーを確認したいと思う。それにより、俺は、落ち着かなければならない。
 俺の名前は『渡部ワタベ マコト』、25歳、男性、独身、中規模の商社のそこそこ平社員だ。身長は180cmちょい。ひょろく見えるが筋肉はある、着痩するのだ。イケメンではないが、自分の顔は割と気にいっている、どことなく愛嬌があるのだ。
 趣味は登山、特技は動物の鳴き真似。性格は、いい人だね、だ。…みんなそう言うのだ、ずっ友とか。まあ、人受けはいい。つまりはフツーだ。可も不もそれなりにあるという事だ。
 特徴をあげるなら、何でもやることだ。スポーツもゲームも仕事も、少なくとも飽きるか肌に合わないか分かるまでは、何でも試している。その挑戦を楽しんでいる。
 だが、その道のプロには当然届かない。何より自分は25歳の若造だ。そして何より、情熱というものが足りないのだろう。飽きっぽいともいう。
 その情熱を燃やす人達を、俺は敬意をもってこう呼んでいる。『ヲタク』と。仕事を楽しんでいる人は仕事ヲタクで、鉄道を愛する人は鉄道ヲタクだ。もちろん世間一般でいうヲタクも尊敬している。そんなエネルギー溢れる人達に、俺は羨望を抱き、そして万感の想いを込めて、エールを送る。つまりは、こうだ。

 「異世界とかっ!! 他所でやれっ!!!!」

 お家に帰して。

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