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潮待ちのレール ― 霧のホーム ―

あらすじ
初夏の春口に戻った相沢湊は、篠原から春口駅の古い駅日誌の写しを見せられる。
そこには、霧の朝ごとにホームへ現れ、発車直前まで白線の内側に留まりながら、乗るのか見送るのか決めきれない一人の男の記録が残されていた。
さらに日誌には、「白帽の少女」「霧のため確認しづらし」といった断片的な記述もあり、湊はそれが父と千紘に関わるものではないかと考え始める。

元助役や古い駅員の記憶を辿るうち、浮かび上がるのは、父がただ千紘を見失ったのではなく、霧の待合室で決めきれず、ホームの白線の内側で半歩ずつ遅れ、発車後のホームに取り残された末に、なお下り列車へ乗って海側の接続を追おうとしていた可能性だった。
春口の駅は、単なる出発と到着の場ではなく、見送りきれなかった朝と、遅れた決断を身体に刻む場所だったのである。

一方、汐里は母・澄江のノートの中に、駅で決めきれなかった人々がその夜まで“発車のあと”を引きずること、そして宿がそうした人々を最後に引き受ける場所であったことを見いだしていく。
駅、港、宿――春口という町は、それぞれ異なる時間の長さで“途中の人”を受け止めてきたのだ。

『霧のホーム』は、見送りきれなかった父の朝を、待合室、白線、発車後のホーム、海側の接続という具体的な地形の中で描き直す、シリーズ第五作である。
見えていたはずの線に人の心だけが追いつけなかったこと、その遅れの中にもなお必死さがあったことを、静かな鉄道風景の中に掘り起こしていく。
Nコード
N3232MC
シリーズ
潮待ちのレール
作者名
たむ
キーワード
現代
ジャンル
純文学〔文芸〕
掲載日
2026年 05月29日 15時00分
最新掲載日
2026年 06月09日 15時00分
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