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高貴な私が通るわよ!〜自己中令嬢は聖女扱いなのに無自覚です〜  作者: 舞波風季


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第21話 支援

「新しくご飯が炊けたわよ!」

「どんどん、おむすびを作りますわよ!」


 午後の3時を回った帝都女学校の校庭では、藍子や澪子を中心に女学生が炊き出しに大わらわだ。


 この頃には既に数十人もの人が避難してきていた。


 食材の調達がてら、太一郎が話したのが口伝てで広まったようだ。


 校庭に敷いた筵(むしろ)を臨時の休憩場所にしている。


 紫陽院礼花が先頭に立って、避難してきた人を誘導している。


 子供園の子供達も、筵に座っている人に水を配るなどして手伝っている。


「女性と子供、それとお年寄りが多いですね」

「男の人は消火活動をしているのでしょう」


 道子と茉莉が、並んでいる人におむすびを手渡しながら言った。


 すると、校門の方からガラガラと音が聞こえてきた。


「追加の物資が来たわ!」


 男性が物資が積まれたリヤカーを引いて入ってくるのを見て、藍子が嬉しそうに言った。


「物資はありがたいですけれど、いつまで続けられるのかしら……」


 藍子と違い澪子は心配そうだ。


「大丈夫よ! うちの星河家とあなたの上弦家が最大限協力するって言ってるんだから! 信じるのよ、澪子さん」

「も、勿論、信じていますわ!」


 尾之崎葉子と古村秋子は炊き出しの様子を、文字と絵で小型の帳面に記録している。


「学校新聞に載せるかは分からないけど」

「うん、記録は取っておいていいよね」


 葉子の記事と秋子の絵は、今や全校生徒に大人気である。


「私たちが書いた記事が新聞に取り上げられるかもよ」

「まさか」


 二人は笑顔を交わしながら筆を走らせていると、正門の方から男性の声が聞こえてきた。


「ここで飯を貰えるって聞いたんだけどよお」

「俺たちにも食わしてくれねえか?」

「ひとっ働きして腹が減っちまったんだよ」


 男たちは着物の裾を端折り、胸元をはだけただらしない格好をしている。


「ゴロツキね、嫌だわ……」

「怖いよ……」


 集まっている女性や子供達は、嫌悪感も顕に、男達を遠巻きに見ている。


「おむすびは順番にお配りしてますので、列にお並びください」


 紫陽院礼花が進み出て男達に説明した。凛として、微塵も動揺を見せない。


「偉そうだな、お嬢ちゃん」

「俺たちゃ火消しで疲れてんだよ」

「なんにもしてねえ女子供より先によこせや」


 礼花の威厳に満ちた振る舞いなどどこ吹く風、といった態度だ。


「あなた達!!」


 藍子が叫びながら礼花の前に立ちふさがった。


「この方をどなただと思っているの! あなた達のような下品な人が話をできるお人ではないのよ!!」

「そうですわ! すぐに謝罪しなさい!!」


 藍子に澪子も加わって、真っ向からゴロツキたちを睨みつけた。


 茉莉と道子と霧絵が、素早く藍子の澪子の脇を固めた。


「威勢のいい姉ちゃんだなぁ、おい」

「握り飯も威勢がいい味がしそうじゃねえか」

「ちげえねえ」


 そう言ってゴロツキどもはゲラゲラと笑い出した。


「それなら、食べさせてあげましょう」


 そう言うと茉莉は、素早くゴロツキの一人に駆け寄り、手にした握り飯を男の口に突っ込んだ。


「んご……んぐぐ……!」


 大口を空けてバカ笑いしていた所に握り飯を突っ込まれ、苦しそうにもがくゴロツキ。


「このアマぁ!」


 別の男が茉莉の手をかけて凄んだ。


「うう……!」

「茉莉っ!!」


 藍子が駆け寄ろうとした、その時。


「何をしている!」


 鋭い声と共に、ゴロツキの背後から腕が伸び、茉莉に延ばしていた手を掴んで引き離した。


「痛ぇっ! 何しやがる!」


 その場にいた者の視線がゴロツキの後ろに注がれる。


「げっ!」

「おまわり!」


 ゴロツキ達の顔が一気に青ざめる。


「「「「高之瀬さん!」」」」


 藍子達が歓喜の声を上げる。


「女性に手をあげるとは許すまじき行為だ」


 高之瀬涼二がゴロツキの腕をひねり上げながら、落ち着いた声で言った。


「ちくしょう、離しやがれ!」


 別の男が涼二に掴みかかろうとした。


「往生際が悪いとはこのことだな」


 すぐ後ろにいた村野井巡査が男を難なく組み伏せた。


 他にも数名の巡査が後ろに控えている。


「こいつらを縛ってくれ」

「「「はっ」」」 


 涼二の指示に、若手の巡査が駆け寄って手際よくゴロツキ達をお縄にした。


「茉莉、大丈夫!?」


 藍子が茉莉に駆け寄った。


「は、はい……藍子様」

「もう……無茶はしないで、茉莉」

「すみません、藍子様」


 申し訳なさそうにする茉莉の肩を、藍子が抱きしめた。


「腕は大丈夫ですか、お嬢さん?」

「は、はい……!」


 涼二に丁寧に訊かれて、茉莉は顔を赤らめて頷いた。


「高之瀬さん、茉莉を助けてくれてありがとうございました!」

「ちょうどいい所に来れて良かったです」


 目をキラキラさせる藍子に、穏やかな笑顔で答える涼二。


「我々がきたからには、もう心配御無用です、お嬢様方、わははは!」


 高らかに笑う村野井。だが、


「とっても心強いですわ、高之瀬さん!」


 と、澪子が涼二に駆けよると、他の女生徒も涼二のもとに集まってきた。


「はぁ、結局こうなるのか……」


 しょんぼりする村野井に、村木菊江がそっと近づいて、


「あの、お饅頭もありますので、後で召し上がってください……」


 と、心持ち頬を赤らめながら告げた。


「おお、饅頭ですか! 大好物です!」

「あんこは入ってませんけど、ほんのり甘くて美味しいですよ」

「それは楽しみだぁ! ならば、それまでしっかりと警備をするとしましょう!」


 そんな、元気を取り戻した村野井を、菊江は穏やかな笑みで見つめるのだった。


 そして、日暮れ時。


「今日の炊き出しはここまでね」

「そうですわね」


 さすがに疲れた様子が見える藍子と澪子。他の女生徒も同様だ。


「皆さん、お疲れ様でした。これからも出来るだけやっていきましょうね」


 礼花が皆をねぎらった。


「我々も巡回に来ますが、無理はなさらないでください」

「はい、よろしくお願いいたします」


 涼二の申し出に丁寧に礼を返す礼花。


「やっぱり、素敵ね、礼花様は」

「私も、きっと礼花様のような上品で洗練された淑女になってみせますわ!」

「私だって!」

「真似しないでくださる?」


 藍子も澪子も疲労は見せながらも、相変わらずの賑やかさだ。


 こうして、炊き出しの初日は暮れていった。



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