第8話 ガチャからアサシンメイドが出てきた
視界に浮かぶ【10連ガチャを実行できます】の文字を見つめながら、僕は短剣を鞘へ戻した。
「ここで引いてもいいんでしょうか?」
「私としては、今すぐ新たな仲間を迎えたいところだ」
ルキアさんはそう答えたあと、僕の荒い息と震える手へ視線を落とした。
「だが、主は初戦を終えたばかりだ。まずは少し休み、受けた依頼を果たそう」
「はい。途中で投げ出したら、冒険者になった意味がありませんから」
「よい心掛けだ」
近くの木陰で息を整えてから、僕たちは角兎を探した。
ほどなく草地で3体を見つけたものの、僕が短剣へ手をかけるより先に、白銀の剣が3度閃いた。角兎は1体ずつ草の上へ転がり、起き上がることはなかった。
「今回は見ていろ。初日に無理を重ねる必要はない」
「はい……」
「不満そうだな」
「少しだけです」
僕が正直に答えると、ルキアさんは満足そうに頷いた。
「戦う意欲があるのはよいことだ。次は主にも任せよう」
討伐の証明になる角を3本回収したあと、ルキアさんは麻縄で角兎の足を束ね、3体まとめて肩へ担いだ。
「死体も持っていくんですか?」
「肉も売れるかもしれぬ。主の食料や資金になるものを、捨てる理由はない」
僕たちは3体の角兎も持ち帰ることにして、フォルトゥナへ戻った。
◇ ◇ ◇
冒険者ギルドの受付台へ角兎の角を並べると、僕たちの登録を担当してくれた女性が1本ずつ確認した。
「角兎3体の討伐を確認しました。これで依頼達成です」
受付の女性が依頼書へ印を押した瞬間、視界の端に淡い文字が浮かんだ。何もない空間を見つめ続ければ不審に思われそうだったので、増えた数字だけを確かめ、すぐに受付へ意識を戻した。
「こちらが依頼の報酬です。初めての依頼、お疲れさまでした」
「ありがとうございます」
受付の女性から小さな革袋を受け取ると、中で何枚もの銅貨が触れ合い、軽い音を立てた。暴漢たちから受け取った正義への寄付金とは違う。僕とルキアさんが仕事をして、初めて稼いだお金だった。
「それから、依頼の途中でゴブリンに遭遇しました」
「ゴブリンですか?」
「魔境方面から現れた4体だ。うち1体は主が倒した」
「途中で助けてもらいましたけど……」
「最後に仕留めたのは主だ。そこを省く必要はない」
ルキアさんは胸を張り、僕が渡した布包みを受付台へ置いた。中から4つの魔石が出てくると、受付の女性は少し驚いた顔をした。
「今日登録したばかりなのに、角兎3体とゴブリン4体ですか」
「主の初陣としては、悪くない成果であろう」
「僕が倒したのは1体だけです」
「十分です。魔石と角兎の肉は、こちらで買い取ります」
僕たちは肉の解体方法も保存方法も知らなかったため、角兎は3体とも買い取ってもらうことにした。
受付の女性が奥へ声をかけると、解体担当らしい職員が現れ、3体の角兎を運んでいった。
魔石と肉の査定が終わると、追加の銅貨が受付台へ置かれた。依頼の報酬と合わせると、革袋は先ほどより少し重くなった。
「最近、魔境から離れた場所でゴブリンが目撃されることが増えています。街道付近で見かけた場合は、今後も報告をお願いします」
「承知した」
大きな事件というほどではないらしい。それでも、受付の女性はゴブリンが現れた場所を記録用の紙へ丁寧に書き込んでいた。
◇ ◇ ◇
ギルドを出たあと、僕たちは市場で柔らかいパンと少しの野菜、塩、それに安い木の器を3つ買った。
「もう少し買ってもよいのではないか?」
「屋根を直すお金も残さないといけません。それに、ガチャから食べ物が出るとは限りませんから」
「確実に必要な分は、自分たちで用意するということか」
「はい」
「やはり主は堅実だな」
ルキアさんに褒められ、僕は革袋の口をきつく結んだ。自分で稼いだお金を使うのは嬉しかったけれど、減っていくのを見ると少し不安にもなった。
城へ戻る頃には、日が傾き始めていた。
床へ食料と銅貨を置くと、ルキアさんは何度も僕と空いた場所を見比べる。
「主よ。依頼は果たした。食料も得た。城へも戻った」
「はい」
「もうガチャを引いてよいのではないか?」
「ルキアさんの方が楽しみにしていませんか?」
「当然だ。主に仕える新たな同志が現れるかもしれぬのだぞ」
期待を隠そうともしないルキアさんを見て、僕は笑った。
《ガチャ》の画面を開くと、所持貢献ポイントは134になっていた。依頼を達成したことで、10ポイント増えたらしい。
―――
《10連ガチャ》
必要貢献ポイント:100
所持貢献ポイント:134
【ガチャを引く】
―――
「引きます」
「ああ」
心の中で念じると、目の前に10個の星が灯った。
白い星が八つ。青い星が一つ。そして最後の一つだけが、眩しいほどの虹色をまとい、ひときわ強く瞬いている。
「また虹色だ!」
「二度続けて虹とは……。主はよほど運に愛されているらしい」
「前と同じなら、人が出てくるかもしれません」
光が一つずつ弾け、品物が床へ現れていく。
―――
【柔らかな白パン×3】
【干し肉×2】
【穀物の袋】
【木工用の金槌】
【鉄釘×20】
【丈夫な布】
【石鹸】
【保存水の瓶×2】
―――
「食べ物も、屋根を直す道具も出ました」
「主に必要なものを理解しているかのようだな」
続いて青い光が弾け、肩から下げられる大きさの革袋が現れた。袋の口には青い糸で複雑な模様が縫い込まれている。
―――
【収納袋】
――内部に大型の木箱2つ分ほどの品を収納できる魔導具
―――
「収納袋……?」
僕が袋へ手を触れると、使い方が頭の中へ流れ込んできた。袋の口を通る物なら見た目以上の量を収められ、入れた分の重さもほとんど感じない。ただし、生き物や死体は入れられず、中へ入れた食料も時間が経てば傷むらしい。
「これがあれば、食料や魔石を運ぶのが楽になります」
「良い品だ。主に重い荷を持たせずに済む」
最後に、虹色の光が大きく膨らんだ。
ルキアさんが僕の前へ半歩出る。警戒しているというより、これから現れる相手を確かめるための動きだった。
虹色の光がほどけ、その中から1人の女性が姿を現した。
淡い桃色の短い髪に、白と黒を基調としたメイド服。腰には細身の短剣が下がっている。女性は周囲を一度見回すと、僕の前へ音もなく片膝をついた。
―――
【カレン】
――忠実なる従者にして、黒の暗殺者
―――
「お初にお目にかかります、ご主人様」
カレンさんは胸元へ片手を添え、穏やかに微笑んだ。
「わたくしはカレン。身の回りのお世話から暗殺まで、何なりとお申しつけくださいませ」
「……暗殺?」
僕が聞き返すと、カレンさんの笑みが少しだけ深くなった。
―――
【今回の貢献ポイント】
・冒険者ギルドの依頼「角兎3体の討伐」を達成した:+10
獲得ポイント:10
ポイント消費:-100
所持ポイント:34/100
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