第29話 みんなのための10連ガチャ
カレンさんとエマさんが食料を床へ並べ、今夜使える分を数えていく。避難してきた人たちにも分けるとなると、乾燥豆や穀物は足りず、毛布や寝床はもっと足りなかった。
「水は、近くの井戸から運べます。ただし、汲み置きする器が不足しております」
「食事も、全員がお腹いっぱいになるほどは作れませんね」
エマさんが申し訳なさそうに残った食料を見る。僕は首を振り、城の外で休んでいる人たちへ目を向けた。
「分かりました。何が足りないか、ちゃんと分かりました」
「ご主人様?」
「ガチャを引いてみます」
カレンさんはすぐに周囲を確かめた。城の近くには避難してきた人たちが何人もいるため、ここで引けば光を見られてしまう。
「では、人目のない場所へ移りましょう」
「うむ。主の力を不用意に広める必要はない」
ルキアさんも頷いた。僕たちは城を出て、少し離れた空き家へ向かった。避難の時にルキアさんが中を確認していた家だった。建物自体は崩れそうにないものの、床は湿っており、人を泊める場所には向いていない。
カレンさんが入口の外を確かめ、ルキアさんも崩れかけた壁がないことを見てから、僕は部屋の中央へ立った。ここなら、外からガチャの光を見られる心配もなさそうだ。
「165ポイントあるので、引いたあとは65ですね」
「今度こそ、新たな同志が現れるやもしれぬ」
ルキアさんの声が少し弾んでいる。カレンさんはそんな彼女へ静かに顔を向けた。
「ルキア様。今回は食料や寝具の方が、ご主人様の望みには近いかと」
「分かっている。だが、期待するだけならば自由であろう?」
カレンさんは小さく息を吐いた。僕は2人のやり取りに笑ってから、視界に浮かぶ文字を見つめる。
【10連ガチャを実行しますか?】
「お願いします」
心の中で答えると、100ポイントが消費された。直後、空中へ10個の輝きが現れる。
8つは白い星、残る2つは青い星で、星粒を散らしながらゆっくりと回り始めた。
虹色はない。
「むう」
「ルキア様」
「分かっていると言ったであろう」
少しだけ頬を膨らませたルキアさんの前で、白い星が順番に弾けていく。床へ現れたのは、食料や布、それに生活に使えそうな品々だった。
―――
【小麦粉の袋】
【乾燥豆の袋】
【干し肉の包み】
【塩の袋】
【厚手の毛布×2】
【木の器×8】
【丈夫な麻布×2】
【石鹸×2】
―――
「食べ物がいっぱいです」
「毛布もございますね」
カレンさんがすぐに品物を確認する。その間に、2つの青い星が強く輝いた。
―――
【簡易天幕一式】
――厚手の防水布、支柱、縄、杭がまとめられている
――数人が雨風をしのげる大きさ
【大型給水樽】
――蓋付きの丈夫な木製樽
――水を汲み置くことを想定した作り
―――
最後の青い光が消えると、大きな樽と、太い布に包まれた天幕一式が床へ残った。僕は並んだ品を見回す。
「……これ」
僕はさっきカレンさんたちから聞いた話を思い返した。足りなかった食べ物、毛布、水を入れておく器、それから今夜眠る場所。
「また、必要なものばかり出ましたね」
「偶然にしては、やはり整いすぎております」
カレンさんは大型給水樽の蓋を開き、中を確認してから閉じた。以前のガチャでも、僕たちが困っていた時に役立つものが出ている。
「やっぱり……僕が困ってるものを、少し分かってるのかな」
答えは返ってこなかった。視界に残っているのは、減った貢献ポイントだけだ。
所持貢献ポイント:65
「星が主の願いを聞いているのであれば、実に良いことではないか」
「そうですね。でも、どうしてなのかは分かりません」
「今はそれでよい。助けを待つ者がいるのであろう?」
「はい」
小さな品は収納袋へ入れたが、大型給水樽は袋の口を通らない。ルキアさんが樽を軽々と肩へ担ぎ、カレンさんと僕で天幕の包みを持って城へ戻った。
◇ ◇ ◇
「これ、使ってください」
僕が厚手の毛布を差し出すと、幼い子供を抱いていた女性は目を丸くした。腕の中の子供は、薄い布を肩まで引き寄せている。
「いいのかい? あんたたちだって余裕はないだろう」
「僕たちは大丈夫です。今夜は冷えるかもしれませんから」
女性は何度も頭を下げ、毛布で子供を包んだ。その隣では、カレンさんが木の器を配る数を決め、エマさんは小麦粉と干し肉を使って今夜の食事を作り始めていた。乾燥豆は明日の分として水へ浸している。
大型給水樽は井戸の近くへ運び、何人かの大人たちが水を汲んで満たすことになった。僕も桶を持とうとすると、近くにいた男の人が先に取る。
「坊主。こっちは俺たちでやる」
「でも……」
「貰ってばっかりじゃ落ち着かねえんだよ。水くらい運ばせろ」
男の人はそう言って、別の人と一緒に井戸へ向かった。その声を聞いた人たちも立ち上がり、自分にできることを探し始める。
「天幕を張るなら手伝うぞ」
「杭を打つ物はあるか?」
「うちの鍋なら無事だったはずだ。取ってきていいなら、食事に使える」
カレンさんは次々に出る声を聞き、すぐに役割を振り分けた。誰がどこへ向かうのか、一つずつ確かめていく。
「では、天幕はこちらへお願いいたします。危険な家には近づかず、必要な物がある場合はルキア様に確認をお願いしてくださいませ」
「承知した。私が先に見る」
ルキアさんが壊れた家の確認へ向かい、ノアとリナは軽い木の器を抱えてエマさんのところへ運んでいく。僕も麻布や毛布を持ち、天幕の下へ寝る場所を作った。
誰か1人が全部やっているわけではなかった。
食事を作る人がいて、水を運ぶ人がいて、天幕を立てる人がいる。さっきまで城の周りで不安そうに座っていた人たちが、今は声を掛け合いながら動いていた。
「コルジ兄ちゃん、こっちにも毛布いるって!」
「分かった。持っていくね」
リナに呼ばれ、僕は残っていた毛布を抱えた。城の前を何度も行き来しているうちに、深鍋から温かい匂いが漂い始める。
器を受け取った人たちが順番に食事を受け取り、子供や怪我をしている人から天幕の中へ入っていった。城の周りには、少しずつ落ち着いた声が戻ってくる。
◇ ◇ ◇
「コルジ!」
聞き覚えのある声に振り返ると、路地の向こうからオリバーさんが歩いてきた。戦いの汚れは残ったままだが、さっきまでより表情が軽い。
「オリバーさん。外壁は?」
「警戒は残すが、ひとまず終わりだ。領主軍からスタンピード終息の通達が来た」
「終わった……」
「ああ。バルバーナ方面から新しい群れも来てねえ。グライバーたちは念のため残るそうだが、住民にも順次知らせるってよ」
近くにいた人たちが会話を聞き、ざわめき始めた。すぐに喜ぶ人もいれば、力が抜けたようにその場へ座り込む人もいる。
「よかった……」
僕もようやく、胸の奥に残っていた力を抜くことができた。戦いが本当に終わったのだと、やっと実感できた。
「とはいえ、壁も家もあの有様だ。明日からが大変だぞ」
「はい。壊れた家も見ないと」
「言うと思ったよ」
オリバーさんは笑い、僕の肩を軽く叩いた。その手も、まだ戦いの土埃で汚れている。
「手が要るなら声かけろ。俺たちもしばらく街にいる」
「ありがとうございます」
オリバーさんが仲間のところへ戻っていくと、僕は城の周りを見回した。天幕の下では子供たちが温かい食事を食べ、大人たちは空いた器を集めて洗っている。壊れた家のことを相談する声や、明日は何を直そうかと話す声も聞こえた。
「主」
隣へ来たルキアさんが、同じ景色を眺める。碧い瞳が、集まった人たちをゆっくりと追った。
「城らしくなってきたな」
「まだボロボロですよ?」
「建物の話ではない」
意味が分からず首を傾げると、ルキアさんはそれ以上説明せず、楽しそうに笑った。僕の城には、いつの間にかたくさんの人が集まっていた。明日もきっと、やることはたくさんある。
―――
【今回の貢献ポイント】
・避難していた住民へ食事を提供した:+5
・一時的な寝場所を整えた:+5
・10連ガチャを実行した:-100
獲得ポイント:10
所持ポイント:75/100
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