↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

28/31

第28話 守った場所へ

 カレンさんと一緒に負傷者の手当てを始めてから、しばらく経った。外壁では、まだ慌ただしく戦後の処理が続いていた。


「《誘引香》は全部封をしろ! 今ここへ余計な魔物を呼ぶ必要はない!」


「了解!」


 兵士たちが外壁の上に残された壺へ向かい、開いていた蓋を閉じていく。甘い匂いは少しずつ薄れ、代わりに血と土埃の臭いが辺りへ戻ってきた。


「ご主人様、こちらを」


 カレンさんに呼ばれ、僕は負傷者が集められている場所へ向かった。腕を押さえている人、足を引きずっている人、仲間の肩を借りて座り込む人もいる。


 僕にできる治療は多くない。清潔な布を渡し、水を運び、動ける人には治療のできる兵士のところへ行ってもらう。


「坊主、さっきは助かった」


 第一波で腕を怪我していた兵士が、布を巻いたまま声をかけてきた。顔には疲れが残っているものの、自分の足で立てている。


「まだ痛みますか?」


「まあな。でも、腕は動く。お前が止めてくれなきゃ、もっとひどいことになってた」


「僕だけじゃありません。みんなが守ってくれたからです」


 兵士は少しだけ笑い、それから僕の後ろへ目を向けた。その視線を追うと、ルキアさんが少し離れた場所でグライバーさんとオリバーさんに囲まれている。


「……それにしても、あの騎士さんは何者なんだ?」


 周囲の兵士たちも、作業の合間に何度もそちらを見ていた。さっきの光を見たあとでは、気になるのも当然だと思う。


◇  ◇  ◇


「聖剣《アストラ・ステラ》だ」


 僕たちが近づいた時、ルキアさんはちょうどそう答えたところだった。本人はいつもどおりの顔をしている。


「名前を聞いてるんじゃねえよ」


 オリバーさんが大剣を地面へ立て、呆れた顔をする。視線はルキアさんと、光が通り抜けた外壁の向こうを行き来していた。


「あれだけいた魔物を、巨人ごと消したんだぞ?」


「主が守れと命じた。私は応えただけだ」


「会話が成立してねえ……」


 オリバーさんは額へ手を当て、大きなため息を吐いた。その横で、グライバーさんは崩れた外壁の向こうへ目を向ける。


 光が通った跡には魔物の死体も魔石も残っていない。削られた地面だけが、外壁の先へ長く続いていた。


「とにかく、あの一撃で助かったのは事実だ。礼を言う」


「礼なら主へ言うがよい。この剣が力を貸したのは、主の願いがあったからだ」


「またそうなるのか……」


 グライバーさんが僕を見る。真面目な顔を向けられ、僕は何と答えればいいのか分からなかった。


「コルジ。お前、本当に何者なんだ?」


「貧民街に住んでる冒険者です」


「それは知ってる」


 やっぱり答えになっていなかったらしい。グライバーさんが何か言おうとしたところで、外壁の上から声が飛んだ。


「グライバー隊長!」


「どうした!」


「南東、後続は見えません! 街道側の見張りからも、新たな群れの報告なし!」


「分かった! 警戒は続けろ!」


 グライバーさんは返事をしてから、大きく息を吐いた。それでも盾から手は離さず、外壁の向こうへ視線を戻す。


「ひとまず、ここへ向かってくる群れは止まったと見てよさそうだな」


「スタンピードは終わったんですか?」


「まだ決めつけられん。領主軍から正式な終息の報せが来るまでは、この場を離れるつもりはない」


 周囲では兵士たちが壊れた槍や盾を集め、外壁の穴へ使えそうな木材を運んでいる。オリバーさんも大剣を背負い直し、3人の仲間へ声をかけた。


「俺たちも手伝うぞ」


「でも、オリバーさんたちは依頼じゃないですよね?」


「ここまで来て、壁が穴だらけのまま帰れるかよ」


 盾を持った男の人が笑い、槍と弓の2人も頷いた。誰も帰るための準備を始めようとはしない。


「それに、ここが破られたら困るのは俺たちだけじゃねえ」


 オリバーさんはそう言って、グライバーさんへ顎を向けた。グライバーさんも迷わず頷く。


「こいつらも同じだろ?」


「ああ。俺は兵士になった時から、人を守るために剣を握ってる。金持ちだろうが、貧民街の住人だろうが、魔物に襲われれば同じように死ぬ」


 グライバーさんはヒビの入った盾へ手を置き、崩れた外壁を見上げた。ここへ残ると決めた時と同じ目をしている。


「守れる場所にいて、守る力があるなら使う。それだけだ」


 ルキアさんが静かに頷いた。口元には、ほんの少しだけ満足そうな笑みが浮かんでいる。


「良い正義だ」


「お前に言われると、妙に重いな」


「褒めているのだぞ」


「分かってるよ」


 グライバーさんも少しだけ笑った。すぐに兵士たちの方へ顔を戻し、外壁の応急処置を続けるよう声を張る。


◇  ◇  ◇


 外壁の穴へ木材が組まれ、負傷者も後方へ運ばれていった。まだ警戒は続いているものの、僕たちは一度城へ戻ることにした。


 オリバーさんたちは残って兵士を手伝い、グライバーさんも外壁から離れない。僕たちが立ち去ろうとすると、グライバーさんが手を止めた。


「コルジ」


「はい」


「今日は助かった。お前たちが来てくれなきゃ、ここは持たなかった」


「僕は、そんなに……」


「またそれか」


 グライバーさんは僕の頭へ大きな手を置き、軽く押した。手のひらは硬く、土と血で汚れている。


「少しは自分がやったことを覚えとけ。少なくとも俺たちは忘れねえ」


「……はい」


「それでいい。帰ってやれ。待ってる奴がいるんだろ」


 僕はもう一度頷いた。ルキアさんとカレンさんと一緒に外壁を離れ、貧民街の奥へ向かう。


◇  ◇  ◇


 城が見える路地へ入った途端、小さな影が2つ飛び出してきた。ノアとリナだと気づいた時には、もうこちらへ駆け出している。


「コルジ兄ちゃん!」


「おかえり!」


 2人はそのまま僕へ走ってきて、左右から身体へ抱きついた。勢いに負けて後ろへ倒れそうになり、カレンさんがすぐに背中を支えてくれる。


「わっ!」


「遅いよ! すごい音したんだよ!」


「光も見えた!」


「ご、ごめん。ちょっと大変だったんだ」


 ルキアさんが僕たちを見て、安心したように息を吐いた。外壁にいた時より、肩から力が抜けている。


「主よ。やはり帰還を待つ者がいるのは良いものだな」


 城の入口ではエマさんも待っていた。顔色は以前よりずっと良くなっているが、その周囲には見慣れない人たちが何人もいる。


「コルジさん、おかえりなさい」


「ただいまです。みんなは……?」


「外壁の近くから避難してきた人たちよ。戻っていいのか分からなくて、まだここにいてもらっているの」


 城の周囲や隣の家には、子供を抱いた人や年配の人が座っていた。水を分け合っている人もいれば、壊れた家のことを心配している人もいる。


 戦いが止まっても、すぐに元の暮らしへ戻れるわけではない。僕たちが守った場所には、まだ助けを必要としている人たちが残っていた。


「ご主人様」


 カレンさんは周囲を見回し、すぐに必要なものを数え始めた。


「まずは水と食料の残りを確認いたしましょう。今夜こちらで休む方がいるのであれば、寝床も必要でございます」


「私も手伝おう。壊れた家の確認が必要ならば、危険な場所は私が見る」


「はい」


 守りたかった城へ帰ってきたのに、やることはまだたくさん残っている。それでも、不思議と嫌ではなかった。


◇  ◇  ◇


 エマさんとカレンさんが食料を確認し、ルキアさんが避難してきた人たちへ声をかけている。その様子を見ているうちに、僕は《ガチャ》のことを思い出して画面を開いた。


―――

所持貢献ポイント:165


【10連ガチャを実行できます】

―――


「……165」


 100を大きく超えている。第二波を止めたことや、あの大きな魔物を倒したことが貢献として認められたらしい。


「ご主人様?」


 カレンさんが僕の顔を見て、手を止めた。僕が画面を指さしても、もちろんカレンさんには見えない。


「また、ガチャを引けるみたいです」


「それは朗報でございます」


 ルキアさんもこちらへ振り返り、碧い瞳を輝かせた。避難してきた人たちの確認を終えたのか、すぐに僕のそばへ戻ってくる。


「新たな同志かもしれぬな」


「食べ物かもしれませんよ」


「どちらでもよい。今の我らには必要であろう」


 僕はもう一度、城の周りを見た。避難してきた人たちがいて、水も食べ物も寝る場所も必要だ。壊れた家を直す道具だって足りない。


「今度は……みんなに必要なものが出てくれたらいいな」


 画面には【ガチャを引く】の文字が浮かんでいる。けれど、僕はまだ手を伸ばさなかった。


 まずは、ここにいる人たちが今夜を越えるために何が必要なのか。それを確かめてからでも遅くない。


―――

【今回の貢献ポイント】


 獲得ポイント:0

 所持ポイント:165/100

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。