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第27話 星が認めたもの

 タイタン・サイクロプスが巨大な棍棒を頭上へ掲げている。グライバーさんの号令に、兵士たちはヒビの入った盾を構え、崩れた外壁から少しでも距離を取った。


「全員、衝撃に備えろ!」


 僕の前ではカレンさんが短剣を構え、ルキアさんは腰の剣へ手を添えたまま動かなかった。鞘からこぼれる白い星粒は、さっきよりも数を増している。


「ルキアさん……?」


「主よ」


 ルキアさんは腰の剣へ視線を落とした。


「この剣が、主を認めた」


「僕を……?」


「詳しい話はあとだ。この力を振るう許しを」


 タイタン・サイクロプスの棍棒が、こちらへ傾き始める。


「お願いします。みんなを、守ってください」


「承知した、我が主」


 ルキアさんが剣を抜くと、周囲を漂っていた星粒が一斉に白銀の刀身へ吸い込まれた。剣の表面に幾つもの小さな光が灯り、夜空に浮かぶ星のように瞬く。


 タイタン・サイクロプスの棍棒が振り下ろされる。


「ルキア様!」


 カレンさんの声が飛ぶ中、ルキアさんは崩れた外壁の正面へ一歩踏み出した。剣を下段に構えると、白銀の髪が巻き起こった風に揺れる。


「聖剣《アストラ・ステラ》。我が主の願いに応えよ」


 剣が振り上げられた。


◇  ◇  ◇


 最初は、一本の白い斬撃に見えた。振り下ろされる棍棒へ光が触れた瞬間、巨木のような武器が途中から消えていく。


 砕けたのではない。白い光の中へ呑み込まれ、跡形もなく失われていた。


「なっ……」


 斬撃は止まらなかった。


 崩れた外壁の向こうへ抜けた白い光が、一気に膨れ上がる。細かった斬撃は外へ進むほど幅を増し、地面から空までを埋める光の奔流へ変わった。


「ォオオオオオオオッ!!」


 タイタン・サイクロプスが再び咆哮を放つ。さっき僕たちを押し倒しかけた衝撃が白い奔流へぶつかったものの、押し返すこともできず、そのまま光の中へ消えていった。


 光が巨人へ到達し、前へ出された片腕を包む。そのまま胴、一つ目の頭部まで白く染まり、巨体は光へ呑み込まれたところから輪郭を失っていく。


 周囲にいた牙猪やゴブリン、角兎も同じだった。外壁へ向かっていた魔物も、その後ろから押し寄せていた魔物も、光の奔流へ次々と呑み込まれる。


 悲鳴も、足音も、地面を揺らしていた振動も消えていった。白い光だけが外壁の外へ駆け抜け、やがて薄れると、辺りへ静けさが戻る。


「……え?」


 僕は崩れた外壁の向こうを見た。さっきまでタイタン・サイクロプスが立っていた場所に巨人の姿はなく、その周りを埋めていた魔物たちも一体も残っていない。


 土煙まで遠くへ押し流され、削れた地面だけが外側へ長く続いていた。


「……全部、消えたぞ」


 外壁の上から見張りの兵士の声が落ちてくる。


「第二波、動いている魔物は見当たりません!」


 誰もすぐには動かなかった。グライバーさんはヒビの入った盾を構えたまま外を見つめ、オリバーさんは大剣を肩へ戻すことさえ忘れている。


「おいおい……」


 オリバーさんがようやく大剣を下ろした。


「あれを、剣の一振りでやったのか?」


「当然だ」


 ルキアさんも剣を下ろし、外壁の向こうを確かめた。


「我が主が、守れと命じたのでな」


「当然で済ませる威力じゃねえだろ……」


 オリバーさんの声に、周囲の兵士たちが何度も頷いた。僕もルキアさんへ駆け寄ろうとして、刀身に浮かんでいた星の光が少しずつ消えていくのに気づく。


 ルキアさん自身は立っているものの、呼吸はいつもよりわずかに深かった。


「ルキアさん、大丈夫ですか?」


「ああ。心配はいらぬ」


 剣を鞘へ収めたルキアさんが、僕の前へ戻ってくる。


「ただ、今の一撃を何度も放つことはできそうにない。戻った力は、まだ一部だけのようだ」


「一部……」


 あれだけの魔物を消しても一部らしい。僕が剣を見つめていると、ルキアさんは少し楽しそうに口元を緩めた。


「驚くのも無理はない。かつての私も、この剣に認められるまでは何度も試された」


「剣が、人を試すんですか?」


「そういう剣だ。力を持つだけでは認めぬ。何のために剣を振るうのか、それを見ている」


 ルキアさんは鞘へ手を添え、小さく残った星粒を見つめた。


「召喚されたあと、私はこの剣の力が閉ざされたことを、自分への試練だと思っていた。だが、主と出会ってからの反応を見る限り、こやつは私の新たな主が、力を預けるに値する者か見定めていたらしい」


「僕が……認められたんですか?」


「ああ」


 ルキアさんは迷わず頷いた。


「主は剣士ではない。今日も、自分があの巨人を倒せるなどとは思っていなかっただろう」


「絶対に無理です……」


「それでも逃げず、誰かを守るために残った。剣を振るえる者だけが、守る者ではない。それを、この聖剣も認めたのだろう」


 僕には、まだよく分からなかった。僕がしたのは、逃げたくないと思ったことと、ルキアさんにみんなを守ってほしいとお願いしたことだけだ。


 それでも鞘の周りには小さな星粒が一つだけ残り、僕の前で静かに瞬いていた。


◇  ◇  ◇


「見張り! 南東の状況を確認しろ!」


 グライバーさんの声で、止まっていた兵士たちが動き出した。


「負傷者の確認! 外壁の穴も塞げる範囲でいい、応急処置を始めろ! まだ終息したと決めつけるな!」


「後続、確認します!」


 外壁の上では兵士たちが周囲を見渡し始めた。僕もカレンさんと一緒に負傷者のいる場所へ向かおうとしたところで、視界の端へ淡い文字が浮かぶ。


【貧民街の防衛に参加し、第二波を退けました:+30】


 第二波は、終わった。


 それでもグライバーさんの言うとおり、スタンピードそのものが終わったのかは分からない。外壁は大きく崩れ、兵士たちも疲れ切っている。


「ご主人様」


 カレンさんが隣へ並び、負傷者が集められている場所へ視線を向けた。


「行きましょう。まだ、お手伝いできることがございます」


「はい」


 僕は頷き、負傷した兵士たちの方へ走った。その背後で、ルキアさんの剣からこぼれた小さな星が、もう一度だけ瞬いた。


―――

【今回の貢献ポイント】

・貧民街の防衛に参加し、第二波を退けた:+30

・タイタン・サイクロプスを討伐した:+80

 

 獲得ポイント:110

 所持ポイント:165/100

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