第19話 城を満たす10連ガチャ
6人で暮らし始めると、食料の減り方は目に見えて早くなった。
朝食を終えたあと、カレンさんが収納袋の中身を床へ並べて確認する。乾燥豆も穀物もまだ残っていたが、以前と同じ量を買っても、持つ日数は半分ほどになるらしい。
「では、依頼を増やしましょう」
「はい。ただし、ご主人様の食事を減らすことは禁止でございます」
「まだ何も言ってません」
「お考えになる前に申し上げました」
カレンさんは僕の前へ木の器を置き、残っていた豆のスープをよそった。
「働くためにも、食べる必要がございます」
「……分かりました」
向かいでは、エマさんがほつれた毛布の端を縫い直している。まだ長く歩くと息が上がるため、食材の確認や衣服の補修など、座ったままできる仕事をしてくれていた。
「私たちの分まで、すみません」
「エマさんは元気になるのが先です。依頼は僕たちに任せてください」
「ですが、食事の支度くらいはさせてください。身体を休めながらでもできますから」
僕が返事に迷っていると、カレンさんがエマさんの顔色を確かめた。
「疲れを感じた時点で休んでいただけるのであれば、お願いいたします」
「はい。約束します」
エマさんが笑い、ノアとリナも自分たちにできる仕事を探すように、並べられた食料をのぞき込んだ。
◇ ◇ ◇
それから数日、僕たちは冒険者ギルドの依頼を続けて受けた。
畑を荒らす角兎を倒し、街道近くへ出てきたゴブリンを退治する。薬草採取では、治療師から預かった見本と見比べながら、必要な分だけを摘んだ。
依頼を終えるたびに銅貨が増え、6人分の食料を買っても、少しは城の修繕へ残せるようになった。
薬草採取を終えて街へ戻る途中、道を塞ぐ倒木を見つけた。昨夜の風で斜面から転がり落ちたらしく、荷車が通れる隙間はない。
「ルキアさん。これ、動かせますか?」
「任せろ」
ルキアさんが幹の中央へ両手をかける。太い木が地面を擦り、枝を折りながら道の端へ移動した。
カレンさんが残った枝を短剣で払い、僕は散らばった木片を拾って脇へ寄せる。荷車が通れる幅を確かめると、視界の端で淡い光が瞬いた。
【街道を塞いでいた倒木を撤去しました:+5】
【貢献ポイント:104/100】
「ガチャを引けるようになりました」
「ついにであるな」
ルキアさんが嬉しそうに頷いた。
「城へ戻ってからにしますか?」
「ノアとリナがいる前では難しいかと存じます」
カレンさんの言葉に、僕は2人の顔を思い浮かべた。
「秘密にしてって言えば、守ってくれると思います」
「主よ。子供が抱えた秘密とは、誰かへ話したくてたまらぬものだ」
「……場所を変えましょう」
僕たちは街道から離れ、人の通らない林の奥へ入った。カレンさんが周囲に誰もいないことを確かめ、ルキアさんも物音へ耳を澄ませる。
「ここなら問題ございません」
「では、始めましょう」
◇ ◇ ◇
カレンさんが落ち葉や枝を払い、乾いた地面を確保すると、僕は2人の前へ立ち、心の中で【ガチャを引く】と念じた。
空中へ10個の輝きが現れる。白い星が8つ、青い星が2つ。星粒を散らしながら回る光の中に、虹色はなかった。
少しだけ胸が沈んだが、今は新しい仲間が眠る場所も足りない。6人で暮らせるようになった城を、もっと整える方が先だった。
白い星が順番に弾け、中から食料や生活道具が現れる。
―――
【小麦粉の袋】
【乾燥豆の袋】
【干し肉の包み】
【石鹸×3】
【木の匙×6】
【ランプ油の小壺×2】
【厚手の毛布×2】
【丈夫な縫い糸×6】
―――
続いて、2つの青い星が弾けた。
―――
【裁縫道具一式】
――大小の針、糸切り鋏、布切り鋏、指ぬき、糸巻き、補修用の当て布が収められている
【密閉保存壺×3】
――蓋を閉めると湿気や虫が入りにくくなり、食料を長く保存できる
―――
すべての光が消えると、林の地面には食料と道具が並んでいた。
「今の僕たちに必要な物ばかりですね」
「うむ。星も、我らの城が賑やかになったことを喜んでいるのであろう」
「偶然にしては、整いすぎておりますね」
カレンさんは裁縫道具の箱を開き、中身を1つずつ確認した。
「エマ様にお渡しすれば、衣服や寝具の修繕が進むでしょう」
「木の匙も6本あります」
「主たちの食卓へ、ちょうどよい数だな」
食料や小さな道具は収納袋へ入れた。厚手の毛布はルキアさんが抱え、3つの保存壺は僕とカレンさんで分けて持ち、城へ戻った。
◇ ◇ ◇
「お帰りなさい!」
城へ入ると、ノアとリナが新しい出入口から駆けてきた。
エマさんは深鍋の前に座り、朝から水へ浸しておいた豆を火へかける準備をしている。僕が収納袋から食料と道具を出していくと、3人とも目を丸くした。
「これ、全部どうしたの?」
「依頼の帰りに、城で使えそうな物が手に入ったんだ」
嘘ではないけれど、胸の奥が少しだけ落ち着かなかった。
「ご主人様の幸運によるものでございます」
カレンさんが静かに補うと、リナは木の匙へ手を伸ばした。
「これ、私のもある?」
「6本あるから、みんなの分だよ」
「自分の匙なんて初めて!」
ノアも1本を手に取り、裏返しながら木目を眺めている。
エマさんは裁縫道具の箱を前にして、触れてよいのか迷うように手を止めた。
「こんなに立派な道具を、私が使ってもいいのでしょうか」
「エマさんに使ってもらうために来た道具だと思います」
「……大切に使います」
エマさんは両手で箱を受け取った。最初に取り出した針と糸で、僕の上着の袖にできていたほつれを縫い始める。
「僕の服からですか?」
「いつも働いてくださる方の服ですから」
僕が袖を伸ばしたまま座っている間に、カレンさんは密閉保存壺へ小麦粉、乾燥豆、塩を分けた。蓋を閉めると隙間がなくなり、逆さにしても中身はこぼれない。
ルキアさんは厚手の毛布を広げ、満足そうに頷いた。
「これで、寒い夜にも困らぬな」
「今までより、ずっとあったかくなるね」
リナが毛布へ頬を押しつけ、ノアも隣から触れている。
◇ ◇ ◇
その日の夕食には、6本の木の匙が並んだ。
同じ深鍋からよそったスープを、それぞれの器と匙で食べる。ノアとリナは何度も自分の匙を見ながら、少しずつ口へ運んでいた。
「そんなに見ていたら、スープが冷めるぞ」
ルキアさんが笑うと、ノアは慌てて匙を動かした。
「だって、僕のなんだ」
「私のも同じだよ」
「6本とも、城の物です」
カレンさんが訂正すると、兄妹は顔を見合わせた。
「じゃあ、みんなのだね」
「うん。みんなで使う匙!」
つい数日前まで、城にあったのは3人分の食事と寝床だった。
今は6人分の食べ物があり、毛布があり、匙がある。必要な物は増えたけれど、それをそろえられることが嬉しかった。
僕たちの城には、6人分の物が少しずつ増えていった。
―――
【今回の貢献ポイント】
・冒険者ギルドの依頼「角兎の討伐」を達成した:+10
・冒険者ギルドの依頼「ゴブリンの討伐」を達成した:+15
・冒険者ギルドの依頼「薬草の採取」を達成した:+10
・街道を塞いでいた倒木を撤去した:+5
獲得ポイント:40
ガチャ消費:-100
所持ポイント:4/100
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