第18話 6人で暮らす城
翌朝、目を覚ますと、ノアの頭が僕の右腕へ乗り、リナの足が毛布から飛び出していた。狭い床へ6人で身を寄せたため、身体のあちこちが痛い。それでも、誰かが冷たい地面で眠るよりずっとよかった。
隣では、ルキアさんが上半身を起こして僕たちを見ていた。彼女の脇腹には、細い足がもう1本乗っている。
「主よ。よく眠れたか?」
「少し狭かったですけど、眠れました」
「うむ。リナは随分と元気に動いていたぞ」
「ごめんなさい……」
目を覚ましたリナが慌てて足を引っ込めると、ルキアさんは気にするなと笑った。カレンさんとエマさんも起き、僕たちは毛布と麻布を片づける。
朝食を終えると、昨日作った出入口を開き、隣家の修繕を始めることにした。
◇ ◇ ◇
カレンさんは隣家をもう一度調べ、直す場所を紙へ書き出した。屋根には大きな穴が2か所あり、壁板も何枚か腐っている。床の奥側は雨を吸っていたが、入口に近い半分は乾いていた。
「本日中に建物全体を直すことはできません」
カレンさんは屋根を見上げ、続いて乾いた床へ視線を落とした。
「こちら側だけでも雨風を防げるようにすれば、エマ様たちが休む場所は作れます。屋根板と寝具を買い足す必要がございますが、これまでに得た報酬で足りるでしょう」
「全部使っても大丈夫です」
「ご主人様。食料を買う分は残します」
「でも、早く直さないと」
「皆で暮らし始めたからこそ、食料も必要でございます」
カレンさんの言葉に、エマさんが申し訳なさそうに目を伏せた。
「私たちのために、そこまで……」
「エマさんたちだけのためじゃありません」
僕は隣家の中を見回した。
「ここも僕たちの城になったんです。城を直すために使うなら、無駄じゃありません」
「そのとおりだ」
ルキアさんが大きく頷く。
「領地を得れば、整えるのが主の務めである。そして主を支えるのが、我らの役目だ」
「では、わたくしが必要な物を選びます。ご主人様には、一緒に代金を確認していただきましょう」
「はい」
僕とカレンさんは古道具や廃材を扱う店へ向かい、反りの少ない屋根板を4枚、洗って乾かされた古い毛布を2枚、乾いた藁を2束買った。買い物を終えると革袋はまた軽くなったが、夕食と明日の朝食を買えるだけの銅貨は残っている。
◇ ◇ ◇
城へ戻ると、ルキアさんが腐った壁板を外し終えていた。ノアとリナは小さな木片を集め、エマさんは城側に座って、昨日見つけた布の汚れを落としている。
「お帰りなさい、コルジ兄ちゃん!」
「屋根の板も買えた?」
「うん。これで雨が入らない場所を作れるよ」
ルキアさんが屋根板をまとめて持ち上げた。
「私が上へ運ぼう」
「その前に、梯子を確認いたします」
カレンさんは隣家の裏で見つけた古い梯子を床へ横たえ、段と側板を1本ずつ確かめていく。
「傷みはございません。ですが、屋根板を抱えたまま上るのはお控えくださいませ」
「では、先に私が上がろう」
「昨日と同じく、踏み込む力にはお気をつけくださいませ」
「分かっている。今日は梁を鳴らさぬ」
ルキアさんは屋根へ跳び上がらず、壁へ立てかけた梯子を使った。
「ちゃんと梯子を使ってる……」
「私は学ぶ王であるからな」
胸を張った途端、梯子が小さく軋んだ。
「ルキア様」
「動いていないぞ」
カレンさんに見上げられ、ルキアさんは背筋を伸ばしたまま屋根へ上がった。屋根板は太い縄でまとめ、屋根の上から引き上げてもらった。
カレンさんは内側から傷んだ屋根板を外し、新しく買った板を重ねる位置を指示する。
僕は釘と金槌を渡し、ノアとリナには屋根から離れた場所で待ってもらい、作業が終わってから落ちた木屑を集めてもらった。
屋根の穴を1つ塞ぐと、次は壁の隙間へ傷みの少ない板を当てていく。大きな板はルキアさんが支え、カレンさんが長さを合わせて切った。
「ご主人様。こちらへ釘を打ってくださいませ」
「ここでいいですか?」
「はい。少しだけ右へお願いいたします」
僕は教えられた位置へ釘を立て、金槌を振った。最初の1本は少し斜めになったが、板はきちんと壁へ固定された。
「僕にもできました」
「うむ。主が打った城の壁だな」
「残りもやってみます」
2本目は真っすぐに入り、カレンさんから直すところはないと言ってもらえた。
◇ ◇ ◇
屋根と壁の作業が進む間、エマさんは丈夫な麻布を広げ、端の長さを確かめていた。
「この布を袋の形に縫い、藁を詰めれば敷物にできます」
「そんなこともできるんですか?」
「丈夫な布ですから、端をしっかり縫えば大丈夫です。昔、ノアたちの寝床も同じように作りました」
エマさんは手元へ視線を落とし、慣れた動きで針を進める。麻布2枚を使い、1枚はエマさん用、もう1枚はノアとリナが並んで眠れる大きさに仕立てた。
兄妹も藁を少しずつ運び、縫い残した口から中へ詰めていく。残った麻布は、2つの家をつなぐ出入口へ吊るすことになった。
「これなら、着替える時にも使えますね」
「エマ様たちがお休みになる際は、こちらを閉じれば目隠しになります」
カレンさんが残っていた太い縄を柱の間へ渡し、麻布を掛ける。完全な壁ではないが、こちら側から隣の寝床は見えなくなった。
昨日見つけた木の器も、割れや深い傷はなかった。カレンさんが石鹸で洗い、熱い湯を何度もかけてから乾かしたことで、夕食には6人分の器がそろった。
◇ ◇ ◇
日が傾く頃、隣家の入口側は雨風を防げる部屋になった。屋根全体を直したわけではなく、奥にはまだ濡れた床と穴が残っている。それでも、補修した側には風が入らず、見上げても空は見えなかった。
エマさんが作った2つの敷物を床へ並べ、その上へ買ってきた毛布を置く。ノアとリナは新しい寝床へ飛び込み、藁の感触を確かめるように何度も身体を転がした。
「ふかふかだ!」
「昨日よりずっと広いよ!」
「お2人とも、埃が立ちますのでお控えくださいませ」
カレンさんに注意され、2人は毛布の上でぴたりと止まった。
エマさんは寝床の前へ膝をつき、指先で麻布の縫い目をなぞった。
「家が燃えた時は、もう3人で暮らせる場所なんて見つからないと思いました」
「ここはエマさんたちの家でもあります」
僕がそう言うと、エマさんは顔を上げた。
「でも、助けてもらうばかりではいられません。身体が戻ったら、食事や裁縫をさせてください。できることなら、何でもします」
「何でもは駄目です」
「えっ?」
「無理をして、また倒れたら困ります。まずは元気になってください。そのあとで、僕たちが苦手なことを手伝ってもらえたら嬉しいです」
エマさんは少し驚いた顔をしたあと、目元を和らげた。
「分かりました。では、元気になることから始めます」
「はい」
「主よ。夕食の支度も、元気になるために必要だぞ」
ルキアさんが深鍋を抱えて待っていた。
「今日は6人分である。私も手伝おう」
「ルキア様には、野菜をお願いいたします」
「任せろ」
「力を込めすぎず、食べられる大きさに切ってくださいませ」
「……慎重に扱おう」
屋根の修理と同じ返事に、ノアとリナが顔を見合わせて笑った。
◇ ◇ ◇
夕食には、豆と穀物を煮たスープが6つの器へよそわれた。
隣家へ続く出入口は開けたままにし、6人で同じ床へ座る。つい数日前まで3人で囲んでいた食事の輪が、今は倍の大きさになっていた。
「コルジさん。本当にありがとうございます」
「僕だけじゃありません。ルキアさんとカレンさん、それにノアとリナも一緒に直しました」
「我らの城なのだ。誰か1人だけの働きではない」
「はい。皆様、ありがとうございます」
エマさんが頭を下げると、ルキアさんは満足そうに頷いた。
食事を終え、ノアとリナは新しい寝床へ向かった。エマさんも2人のあとを追い、麻布の仕切りを閉じる前にこちらを振り返る。
「おやすみなさい」
「おやすみなさい、エマさん」
麻布の向こうから、兄妹が寝床の場所を取り合う声が聞こえてくる。その声を聞きながら、僕は今日直した壁へ手を触れた。
昨日まで、ここは誰も住んでいない廃屋だった。
今夜からは、6人が暮らす城だった。
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【今回の貢献ポイント】
・火事で家を失った親子が暮らせる部屋を整えた:+25
獲得ポイント:25
所持ポイント:64/100
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