第15話 泥だらけの10連ガチャ
白鈴草を届けた翌朝、ノアとリナが城へやってきた。
エマさんの熱はまだ残っているものの、呼吸は昨日より落ち着いているらしい。そう教えてくれたあと、ノアは路地の奥を指した。
「コルジ兄ちゃん。危ないゴミと、使えそうな木を見つけたよ」
「前に頼んだものを探してくれたの?」
「うん。水が流れる溝にいっぱい詰まってる。釘が出てる板もあったから、触ってないよ」
「教えてくれてありがとう。見に行こう」
ノアとリナに案内され、僕たちは貧民街の奥へ向かった。
◇ ◇ ◇
細い路地の脇にある排水溝は、泥とゴミで埋まっていた。
黒ずんだ水が行き場を失い、溝から路地へあふれている。腐った藁や布切れの間には、割れた瓶や錆びた釘の突き出た板まで混じっていた。
「雨が降れば、この辺りの小屋まで水が入るな」
ルキアさんが排水溝の先を見ながら言った。
「それに、このままでは怪我をする者も出るでしょう」
カレンさんは釘の出た板を見下ろし、僕たちへ役割を伝えた。
「ノアさんとリナさんは、危険な物の場所を教えたら離れていてくださいませ。ご主人様も、割れた瓶や釘には触れないようお願いいたします」
「僕は泥と小さなゴミを片づけます」
「では、私は大きな石と板を退けよう」
ノアとリナには、ほかの子供が作業場所へ近づかないよう見てもらうことにした。
近くの小屋から、何人かがこちらを眺めていた。声をかけてくる者はいない。僕たちも視線を気にせず、作業を始めた。
カレンさんは収納袋から厚手の布を取り出し、僕の両手へ巻いてくれた。
「泥の中に、何が埋まっているか分かりません。手を守ってくださいませ」
「ありがとうございます」
僕は溝の脇に落ちていた幅広の板を拾い、欠けや釘がないことを確かめた。それを泥へ差し込み、少しずつすくって路地の端へ寄せていく。
ルキアさんは水へ沈んだ大きな石を持ち上げ、排水溝の外へ並べた。カレンさんは割れた瓶を布で包み、錆びた釘を板から抜いていく。
使えそうな板は別に分け、腐って崩れる物はゴミの山へ積んだ。
「この板は泥を落とせば、屋根の補修に使えそうでございます」
「城へ持ち帰って、壁際で乾かしておきましょう」
「承知いたしました」
泥をすくい、石を退けても、水はほとんど流れなかった。
排水溝の奥をのぞくと、大きな石板が斜めに沈み、その下へ枝や布が絡みついている。泥が隙間を塞ぎ、溜まった水をせき止めていた。
「石板を砕けば早い」
ルキアさんが拳を握る。
「壊したら、排水溝まで崩れるかもしれません」
「ならば、私が持ち上げよう。その間に詰まりを取るのだな」
「わたくしが枝と布を引き出します。ご主人様は水が流れ始めた時に備えて、下流から離れてくださいませ」
「僕にもできることはあります」
石板の下を見ると、水がわずかに染み出している細い隙間があった。
「ここに泥が詰まっています。石板を持ち上げてもらえれば、僕が外から泥をかき出します」
「承知した。主は無理に腕を入れるな」
ルキアさんが石板の端へ指をかけ、ゆっくりと持ち上げた。
カレンさんは枝の束をつかみ、絡みついた布ごと引き出していく。僕は隙間の外側へ板を差し込み、押し固められた泥を少しずつ崩した。
「もう少しです」
最後の泥をかき出した瞬間、細かった水の流れが一気に太くなった。
「ご主人様、離れてくださいませ!」
身体を起こすより先に、溜まっていた泥水が足元へ押し寄せる。僕は慌てて溝から上がったが、跳ねた泥を胸から顔まで浴びてしまった。
「コルジ兄ちゃん、真っ黒だ!」
ノアが吹き出し、リナも口元を押さえて笑っている。
「ノアも泥がついてるよ」
「僕はコルジ兄ちゃんほどじゃないよ!」
流れ始めた水は、残っていた泥や小さなゴミを押し流していった。
ルキアさんは石板を、水路を塞がないよう排水溝の縁へ載せ直した。カレンさんが周囲に残った危険物を拾い集め、僕も顔の泥を拭って、流れを妨げそうな物が残っていないか確かめる。
しばらくすると、路地へあふれていた黒い水も排水溝へ戻っていった。使えそうな板は泥を落とし、ルキアさんに城まで運んでもらう。
割れた瓶と抜いた釘は、回収した布切れの中から丈夫なものを選んで包んだ。腐った藁や布切れと一緒に、貧民街の外れにあるゴミ捨て場へ運んだ。
住民たちは最後まで近づいてこなかった。何人かは、作業が終わるまで離れた場所からこちらを見ていた。
◇ ◇ ◇
「今日はこれで終わりにしよう」
城へ戻る途中、僕はノアとリナへ伝えた。
「僕たち、役に立った?」
「うん。2人が教えてくれなかったら、あの場所に気づけなかった」
ノアの顔が明るくなる。リナも、少しだけ胸を張った。
「今日の夕食は、2人の分も作ります」
「でも、それってまた食べ物をもらうことにならない?」
「今日は働いた分です」
「じゃあ、もらっていいんだね」
「もちろん」
城へ戻ると、僕たちはまず石鹸で手と顔を洗った。僕は替えの服へ着替え、カレンさんが泥のついた服を水で洗って、屋根の下へ干してくれた。
身なりを整えてから、カレンさんがノアとリナの分も夕食を用意してくれた。食事を終えたあと、2人を治療院まで送り届ける。
僕たちは城へ戻り、排水溝から持ち帰った板を壁際へ並べた。
「ご主人様。貢献ポイントをご確認くださいませ」
「はい」
意識を向けると、現在の数値が視界の前へ浮かんだ。
【貢献ポイント:104/100】
「100を超えています」
「ならば、再び10連ガチャを行えるのだな」
ルキアさんの声に、僕は頷いた。
「はい。今度は何が出るんでしょう」
城の中央へ立ち、心の中で【ガチャを引く】と念じる。
目の前へ、夜空から切り取ったような10の輝きが現れた。星粒をまとった光のうち、7つは白く、3つは青く輝いている。
虹色の星はなかった。
白い星が順番に弾け、床へ品物を残していく。
―――
【丈夫な麻布×3】
【乾燥豆の袋】
【塩の袋】
【木桶】
【太い縄】
【鉄釘×20】
【厚手の作業手袋×3組】
―――
「城を直す道具や、食べ物が出ました」
続いて、3つの青い星が弾けた。
―――
【大工道具一式】
――木材の切断や加工、組み立てに必要な道具一式
【大型の防水布】
――雨や水を通しにくい、丈夫な布
【浄水石】
――水へ入れておくと、濁りや汚れを取り除く魔導具
―――
青白い石へ触れた瞬間、具体的な使い方が頭に浮かんだ。
「《浄水石》です。水へ入れておくと、濁りや汚れを取り除くみたいです」
「どれほどの水を浄化できるのでしょうか」
「そこまでは分かりません」
「ならば、明日にでも確かめるとしよう」
ルキアさんは大工道具と防水布へ目を移した。
「城を直すための品が多い」
「今の僕たちに必要な物ばかりですね」
「ガチャは、ご主人様がお困りのことを知っているのでしょうか」
「分かりません。でも、助かります」
カレンさんは防水布を広げ、昼間に持ち帰った板と屋根を見比べた。
「明日は、屋根を直しましょう」
「私が屋根へ上がろう」
「ルキア様は、力を込めすぎないようお願いいたします」
「屋根程度、壊さぬ」
「すでに壊れている屋根でございます」
ルキアさんは屋根を見上げ、少しだけ間を置いた。
「……ならば、慎重に扱おう」
次に雨が降る時は、床へ小型の鍋を置かずに済むかもしれなかった。
―――
【今回の貢献ポイント】
・貧民街の排水溝を清掃した:+10
・危険な廃材や錆びた釘を撤去した:+5
獲得ポイント:15
ガチャ消費:-100
所持ポイント:4/100
評価やブックマークで応援いただけると、執筆の励みになりますのでよろしくお願いいたします!




