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天国・地獄・大地獄  作者: 瀬良浩介
第四話「山吹サチ①」

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04-14

天国・地獄・大地獄 第四話「山吹サチ①」


ただいま毎日〈月〜金のみ〉鋭意連載中!!

 言うが早いか、アキハは小走りに外階段へと向かって移動し始める。後に続く牛鬼。


「今度こそてっぺんか?」

「確証ないけど!」


 そう、むしろリスクの高い賭けだった。

 単に二人を最上階に追い詰めて仕留めるつもりなのかも知れない。


 しかし追い詰めるのが目的なら、火の【(カルマ)】を縦軸方向ではなく横軸方向へ広がるように展開させた方が手っ取り早いはずだ。


 階段へと辿り着いたアキハが下りの階段を見やると、すでに五、六段下まで火の海が迫ってきている。

 沈没する船の船底から水が迫り、やむなく甲板(かんぱん)へと追い立てられていくネズミの気分になりながら、アキハは階段を駆け上がった。

 ……が、勢いは続かない。


 ――いや、しんどっ!


 もともと体力に自信がないことと酸素不足のせいで、五階と六階の中間あたりでアキハは過呼吸と頭痛に襲われていた。

 心臓が早鐘(はやがね)を打ち鳴らしているが、肺に酸素が入ってこないのだから仕方ない。


 見かねた牛鬼がアキハを背負い、階段を上る。

 いくら牛鬼とて、低酸素状態ではかなりの重労働だ。

 どんどん鼻息が荒くなる牛鬼を見て、アキハの心は申し訳なさでいっぱいになる。


 だいたい、地獄を支配している法則の中途半端さにアキハはケチをつけたくなる。

 食事や睡眠を()らなくても死ぬことはないのに、酸素だの重力だのという物理・化学法則は現実と違わない。


 そもそも『死』を享受(きょうじゅ)するために生かし続けられる、それが地獄なのだから誤りはないのだが。


 そうこうしているうちに、二人は最上階である十階に辿(たど)り着いた。


 牛鬼は口をすぼめ、一回に吸う空気の量を細く長くしている。

 そうすることで、なるべく酸素を肺に取り入れようとしているようだった。


 十階は居住スペースの玄関の並びなど、他の階となんら変わったところはない。

 ただひとつ違ったのは、上り階段の先、屋上へと通じる場所に鉄格子の扉が設けられていることだった。


 その扉は鍵がかけられているでもなく、元より半開きになっていて、ポータルというよりは単なる(しつら)え、飾りのようであった。


 アキハは牛鬼の背中から降り、鉄格子へと近づいて手前に引っ張る。

 蝶番(ちょうつがい)がきしんだ音を立てて、屋上へのルートが(ひら)かれていく。

 何者かの意思によって屋上へと導かれていることを、アキハはひしひしと感じていた。


 アキハは振り返って牛鬼に視線を送り、軽く(あご)を引く。

 牛鬼もそれに返答するよう、小さく(うなず)いた。


 アイコンタクトの苦手なアキハだったが、低酸素状態では少しの発声も苦痛につながる。

 なるべく言葉は省略したかった。


 屋上の床を踏んだアキハたちの目には、幻の十一階とでも呼べるような塔屋(とうや)洒落(しゃれ)た言い方をすればペントハウスの姿が飛び込んできた。


 外から見た感じでは、広めのワンルームが丸っと入りそうなサイズがあり、アキハたちのいる側の面に、恐らくはポータルであろう扉がひとつある。


 塔屋をさらに登った屋根の上で、立ち上がる人影があり、アキハたちに向かって声をかける。


「来たな、牛の鬼。目的は山吹の(ねえ)さんだろ?」


 男は三十路(みそじ)前後のザ・アラサーといった見た目で、若くもないが年老いてもいないという、見た目年齢が一番測りにくい年頃だ。


 髪はすっきりと整えられ、七三で分けられた前髪はアシンメトリーのスパイスを顔立ちに加えており、服装のシャツスタイルと相まって、外見に程よく気を使っているであろう性格を表していた。


「鬼の話はこっちにいる学者先生から聞いてる。突出した亡者は目をつけられるんだってな」


 男の足元のやや横から、にゅっと腕が伸びてヒラヒラと手を振り、すぐに引っ込んだ。

 角度的にアキハたちからは見えないが、学者先生とやらがそこに寝そべっているようだ。


 この二人が酸素と火の【(カルマ)】の主であることは間違いないだろうが、どちらがどっちなのかまでは判別できない。


「お前さんらが、山吹女王を守っとる『家族』ちゅうことかな?」


 牛鬼が息を整え終え、男に言葉を投げた。それに対し、シャツの男は自嘲(じちょう)気味な笑みを浮かべる。


「守られてんのは、俺たちの方さ。現に、俺たちはこれ以上戦うつもりはない。姐さんへの案内役みたいなもんだ。強すぎるからな、姐さんは」


 アキハの予想通り、火の【(カルマ)】は屋上へと誘導するものだったようだ。


「あんたが火の【(カルマ)】の持ち主?」


 言葉尻のニュアンスから、アキハはそう推理していた。


「そうだ。で、学者先生は自分の【(カルマ)】で酸欠しないよう省エネモードだ」


 またもや死角から手が伸び、サムズアップを示しながらゆっくりと引っ込んでいく。

 なんのジェスチャーだかアキハには見当もつかなかったが、学者先生が堅物(かたぶつ)(やから)でないことは想像できる。

04-15 へつづく


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