04-11
天国・地獄・大地獄 第四話「山吹サチ①」
ただいま毎日〈月〜金のみ〉鋭意連載中!!
「まいったな、ワイの見立て違いか」
牛鬼はつるつるの頭を掌でさすっている。
「どういうこと?」
「女王様は、混乱の境地ちゅうわけやなかった。いたって理性的に自分の王国を築いとったわ」
自分の王国。それはアキハが住んでいた街を再現したように、山吹という亡者もそれをやってのけたということだ。
「鬼の素質」
アキハが呟く。
「ああ。ここまでやとはな。記憶空間の構築に留まらず、制約まで課しとる」
「制約?」
「ルールや。男は女を守るため、女は守る者がいなくなった時のため、そういう条件でしか【業】が発動せんようにしとる。こんなこと、そこいらの亡者が思いつくもんやない」
制約なんてシステムがあるとは、牛鬼の説明の中には出てきていない。
アキハは後出しジャンケンをされたような気分で聞き返す。
「それって亡者でも設定できちゃうの」
「理論上はな。けど本来やったら亡者が自前でその境地にたどり着くことなんかない。恐らく、女王には相談役がいると見た」
つまりは、アキハに対する牛鬼のような存在ということか。
「他の鬼ってこと?」
「どうやろ。ワイの管轄に勝手に入ってくることはないはずやが」
ひとしきり首を捻る牛鬼を見ていて、アキハは牛鬼の懸念が見えてきた。
要するに、山吹女王を『落とす』には一筋縄ではいかないということだ。
だが逆に考えたらどうだろう。理性的な話し合いができる相手なら争う必要はない。
別の鬼が山吹女王を勧誘しているとしたら、話がややこしくなってくるが。
「なるほど、ここの構造が見えてきたわ」
牛鬼は女性の方へ向き直って言う。
「今出てきた部屋が、お姉さんの『はじまりの部屋』やな?」
「地獄に来て最初に目覚めた部屋って意味なら、そう」
「あと、兄さんたちの部屋もそこと、そこか」
牛鬼が風呂とトイレの扉を模したポータルを指さす。
「トイレのドアが俺の部屋に繋がるの、なんかヤなんだけどね」
若い男がひとりごつ。トイレ扉と繋がってしまうのはよくあることのようだ。
「まあ私も脱衣所の扉ですよ。地獄じゃトイレも風呂もいらないんですよね」
「気分的にはシャワー浴びたいんですけどねぇ」
初老の男の言葉に女性が屈託なく返し、三人は笑い合っている。
地獄とは思えない朗らかな雰囲気だ。
「なんでもええけど。つまりは、女王に記憶を取り込まれて、再構築されたんやな。例え誰か死んでもすぐ隣で復活、残りが状況説明して元通りや。ようできとる」
三人がいっぺんに死んでしまった場合、混沌とした状況に陥りそうだとアキハは思ったが口にはしなかった。
「ほんで肝心なんは、その玄関の向こうや」
牛鬼は大股で玄関扉のそばへと歩み寄る。
どうやらこの三人には手を出さないつもりらしい。
牛鬼ならば三人相手でも遅れを取ることはないだろうが、三人で作られる『家族』という構成体の鷹揚さが、どうにも闘争心を萎えさせてしまうようだ。
「行くの」
アキハが牛鬼の背中に声をかける。
「気づいたことがあってな」
牛鬼は玄関ドアノブに左手を置いてアキハの方へ振り返った。
「こっちが女王のマンションの実体や」
牛鬼がドアを開けると、隙間から外の景色がアキハの目に飛び込んでくる。
上下にくっきりと境界で分かたれた景色は、下半分がビル群で、上半分が青空だった。
アキハの住んでいた街も駅前ならばビルが立ち並ぶが、ここまでの密集さはない。
大都会を思い起こさせる風景であった。
アキハは玄関の土間部分で靴を履き直し、牛鬼の後から外に出て、風景の違和感にすぐ気がついた。
その遠近感は擬似的なもので、手すり壁に近づけば近づくほど、その景色がのっぺりとした平面上のものであることがわかる。
直前にリビングの窓で見たものと同じく、壁に描かれた『絵』だ。
「ここ、壁になってんの?」
アキハは手すり壁から身を乗り出して『風景の壁』に触ろうとする。
しかし元より低身長のアキハでは手すりに胸を乗せるのが精一杯だ。
手すり壁から一メートルほど離れた『風景の壁』には届かない。
04-12 へつづく
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